第8話 推しと手料理

未来たんはキッチンへと入っていく。


それじゃあ、未来たんが作っている間、俺は何をしたらいいのかな?」


「それでしたら、佐藤さんは適当にくつろいでいてください。ちょっと時間が掛かるので」


「わかった、そうされてもらうよ」


 なんだか、奥さんを持った気分だ。キッチンで調理している未来たんを、新妻みたいだと妄想を膨らましてみる。


  今から、未来たんの手料理が、楽しみだな。


 今夜は、俺のリクエストで、肉じゃがを作ってくれることになっていた。


 楽しみだ。ジャガイモやニンジンを切り、下準備に取り掛かっていた。


 ポケットからスマホを取り出すと、時間潰しに、WEB小説を読むことにした。


  キッチンでは、スエット姿の未来たんが手料理を作っている。


  この状況は、奥さんから夕食を作ってもらっているみたいだった。


 なんだか、嫁が出来たみたいで嬉しい。


 小説を読もうとするも推しが自宅で料理するこの嬉し恥ずかしこの状況で全然、集中できなかった。


 しばらく経つと、キッチンの方から「もうすぐできますよー」声を掛けられる。


「あらかた調理は終わったよ。あとは落とし蓋をして、煮崩れしないように様子を見ながら、弱めの中火で、十〜十二分煮たら完成ですから」


新鮮で、親しみを感じて嬉しかった。未来たんは煮ている最中、一、二回ほど、上下に具を返していた。火のお通りを均一にしているのだろうか?


「はい、できました」


未来たんはダイニングテーブルに鍋をと持ってくる。


「佐藤さん、できましたよ!」


 蓋を開けると、肉じゃがの甘じょっぱい、いい匂いが立ち上る。


  美味しそうだ。

未来たんは、器に肉じゃがをよそってくれて


  佐藤は、それを「ありがとう」と受け取る。




 もう、お腹がペコペコだった。夜に会社で残業して夕食を抜いていたからな。もう、全限界だった。


「それでは、佐藤さん。いただきましょう」未来たんは手を合わせる。


「いただきます!」と佐藤も未来たんに習い手を合わせる。


 まずは、ホクホクのジャガイモから。を箸で割いて口に運ぶニンジン、豚肉もいい味だ。シラタキにも味がよく沁みていい。ゆっくり咀嚼して味わう。しょうゆとみりん、砂糖が合わさって王道の甘辛しょうゆ味で味の黄金比率になっていて美味しい。


そうだ、コレだコレ。


やっぱり肉じゃがといったら、甘じょっぱいこの味だよなー。ご飯がすすむ。


おっと、一人食レポをしてしまったが未来たんを見るとどこか、ソワソワして俺の様子を伺っている。ああそうか。美味しいのは実際に、声に出して伝えてあげないとな。


「未来たん、この肉じゃがすごく美味しいよ。」


「ありがとうございます」


佐藤は、心からの感想を告げる。


 よかったです。お口に合って。男の子の胃袋を掴むには、肉じゃがは鉄板ですよね!」


未来たんは、そう嬉しそうに微笑む。


  その笑顔がアイドルの時に見せる笑顔でなくて、ありのままの彼女だった。


 ステージの上や握手会の時の彼女もいいけど、今、俺の目の前でだけで見せてくれるその未来たんの笑顔はがはごく魅力的だ


「はい、掴まれました」


やっぱりな。それは、好きな子からの手料理を作って貰うというのは嬉しい。


でも、そこに一つだけ疑問が残る。


  このモヤモヤを解明しないといけない。そうでないと、この優しやをどう受け取っていいか分からない。


 「ところで未来たん、どうして俺に料理を作ってくれて優しくしてくれるんんだ?」


「それは、友達だからかなそれとも……」


クリスマスに二人きりの握手会をした。


 未来たんがアパートに訪問してきた。


 自宅で夕食を作って貰った。


 まるで、恋人のように。


  俺と未来たんは友達のはずだ。こんな気持ちになるのは、いけないことだ。

それはファンとして不誠実な気持ちで今してもらっていることも、アイドルとファンの範ちゅうを超えている。


 「いいのですよ、わたしが佐藤さんに作ってあげたいからするんですよ」


「そうなのか」


正直、未来たんから言われたことは、答えにはなっていなかったけど、未来たんが俺の為にしたいって言うならいいか。


「でも、本当は……」


 未来たんは恥ずかしそうだ。一生懸命言葉を紡ごうとしている。俺は彼女の言葉をゆっくり待つ。


「未来たんは、本当はどうしたいんだ?」と優しく言葉を返す。


 さっきの言葉は、本音を濁して言っていたのかな?


「本当はですね......いえ、なんでもないです!」


未来たんは顔を真っ赤にしてその続きは言おうとしなかった。俺も、無理に追及しないでおくことにした。


「これからも、ご迷惑でなければ、ご飯を作りに来てもいいですか?」


「それは、友達としてかな?」

友達以上を望んでしまうのはいけないことだ。そんなことあるはずないのに。

「はい、そうです。友達としてですよ」


「そうか,わかった。これからもよろしく」


そうだよな、何を期待していたのだろう。未来たんと友達以上の関係になれる訳ないじゃないか。友達としてご飯を作りに来てくれるだけでも、例え仕事が辛くても、アフター5は薔薇色で満たされる事だろう。


「佐藤さん、わたしとMINEを交換しませんか?」


「いいよ。でも、いいのか?俺となんかと連絡先を交換して」


「はい。わたしが佐藤さんと交換したいので」


「いいのかい?本当に。それじゃあ、よろしくな」


 未来たんとMINEを交換して、スマホでも、繋がった。


 こうして俺たちは、これからも友達として夕食を共有することとなった。


 心臓が跳ねてしまい暴れ出す鼓動が止まらなかった。


               ***




わたしは、中学生の頃はコミュ障だった。


 人見知りの引きこもりで、そんなわたしを親友の舞雪ちゃんが、夏休み外に連れ出して『放課後シスターズ』のアイドルライブを観にい行った。

 それは、初めはアイドルなんかに興味は無かったけど、ライブを観てみ煌びやかなアイドルに憧れた。




こんな自分を変えたくて、わたしはアイドルになった。


 憧れのアイドルグループ『放課後シスターズ』


 わたしも真凜ねえみたいな、あんなアイドルになりたくて友達と大手アイドルグループオーディションに応募した。結果は、落選てしまった。


自分には無理な話だったんだと諦めて、学生生活を送ることにした。


 中二の春、放課後シスターズの追加メンバーオーディションの知らせを知ったのはこの頃で運命だと思った。 


  わたしは、速攻、放シスのオーデに応募して、無理かと思われたが、一次審査に見事合格見事合格した。

二次審査もダメかと思われたが見事合格した。


 そして、わたしは念願叶って『放シス』末っ子キャラの妹系アイドルになった。


 わたしにとって、アイドルは弱い自分を守る鎧。


 ステージ上ではファンを魅了した。陽キャなアイドルでいれた。そんな恋を知らないわたしにも春がきた。


 二十歳になった。この頃は、カリスマアイドルと言われるようにまでなっていた。


 そんなある日のこと、電車の中で痴漢にいあった。


  その時に、ある男性がわたしを助けてくれた。周りの人たちが見て見ぬふりする中で彼だけが助けてくれた。

それが、佐藤さんだった。

  一目惚れだった。


  この人しかいないと思った。この人と恋人になりたいと思った。


 それが、佐藤さんとの出会いだった。


 わたしの目的は、あの時に抱いた想いを佐藤さんに伝えることは出来なかった。


だけど連絡先を交換して友達にはなれた。


 佐藤さんの家で、夕食を振舞う。これって、もう恋人じゃないかな?


  今は、それだけで十分だ。いつかこの想いを伝えたいと思った。


 次に佐藤さんに会ったらどんな顔をしたらいいのだろう?とベッドの上で、ジタバタと悶えるのだった。


               ***

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