第3話 後輩とお弁当

うちの会社にはウザ可愛い後輩がいる。どこの会社にも一人は、可愛い系の女性社員がいることだろう。うちの会社も例外ではなく、上司や先輩。部長たちから小さくて可愛いとマスコットキャラみたいに可愛がられている。特に部長のお気に入りだ。


彼女の名は春風咲実今年の春から新卒で入社してきた新人だ。


春風は、上司や先輩。部長の前では、天使の微笑みをたたえ猫を被りいい子にしている。

加えて高嶺の花的その存在感だ。

 その効果は敵面で先輩や部長達は骨抜きにされている。


 だけど俺の前だけはその仮面を外して、小悪魔な本性を剥き出しにして俺の細やかな癒しの時間を土足で荒らしに来るからタチが悪い。



彼女の人気の理由は、その外っツラの性格だけに留まらず、彼女の恵まれたスタイルにもあるといえよう。


ライトブラウンのミディアムヘアーをポニーテールに後ろで束ね、そのモフモフの毛並みはさぞ、撫で心地が良く極上なのだろう。胸には充分な起伏があり、濃紺のスーツの上からでも双丘そうきゅうの存在感は凄まじいミニマム体系で、ミニグラ並みのプロポーションだ。

 出るところは出ていて締まるところは締まっている。要するにいい《エロイ》体なのだ。


だからといって彼女の体を性的な目では見ない。アレでも大事な後輩なのだから。


午前の仕事が終わり、昼休みとなる。春風は部長から「この後、お昼でも一緒にどう?」

などと彼女を昼食に誘われるが春風はというと、天使の笑み(作り笑い)で

「すみません、部長。私、この後で約束をしているのでお昼はご一緒できません。もしでしたらまたの機会にお誘いしてください」と丁寧に断る。恐らく今後とも誘いに乗る気はないであろう。可哀想に、部長。

「いいんだよ。また今度、一緒に食べよう。」と残念さを表に出さないように言ってくる。


そして春風は、俺のデスクへと来て「さあ、先輩!お昼を一緒に食べましょう!」と言ってくる。

「今日は、お弁当作ってきたんですよ。とさっきと天使の対応からガラリと変え天真爛漫に言ってくる。



「なに!佐藤に春風ちゃんの手作り弁当だと!彼女の手料理が勿体無い!」と部長は悔しがる。


「いいのですよ、部長。私が先輩に作ってあげたかったのです。部長も、もし良かったら今度、作ってきましょうか?」と社交辞令で天使の微笑みで言ってくる。後光が指しているような天使ぶりだ。だが、恐らく作ってくることはないだろう。


「ふ、ふん!いい気になるなよ佐藤!」


別にいい気になんてなっていない頼んだ覚えすらないのだから。


「で、これは何のつもりだ?春風」


「見て分かる通り、佐藤先輩へのお弁当です」


「え?俺、頼んだっけ?」


「『え?』じゃないっスよ!k尾前、お弁当作ってきてあげるって言ったじゃないっスか!」


「ああ、アレはそういう意味だったのかー」


「どういう意味だと思ってたんスか?!先輩みたいな陰キャ女の子からお弁当を作って貰うなんてそあり得ないんですからね!」



「フッ、あり得ないときたか。舐められたものだな」


「あるんですか?お弁当を作って貰ったこと!」

「あるし!高校時代何度も。バカにするなよ!」

(主に母さんからだが、それは口が裂けても言えない)

「へ、へー。先輩て学生時代はモテていたんですね。意外です。てっきり、お弁当を作ってくれる彼女もいない孤独のぼっちライフを送っていたのかと思っていましたよ」

「残念だったな俺は、リア充だったからな」

本当は、春風の言っていたことは的を射ていたのだけど、ここは先輩の威厳のために否定させてもらうか。


「ところで、本当に食べてもいいのか?」

「いいですよ。どうぞ召し上がれ」


「じゃ、じゃあ早速」

やったぁぁぁぁぁぁぁ!女の子からの手作り弁当だー!正直、嬉しい。人生初の経験に感動を覚えていた。


「先輩、妙に嬉しそうですね、どうせ貰いなれているんでしょ。残念だなーわたしのお弁当じゃ、感動も薄いですよね?」


「ま、まあな。学生時代に比べれば大したことはないな。」

ヤバい!嬉しすぎて心臓が跳ねる。嬉しくないわけがない。感動しないわけがない。今、猛烈に感動していた。


「先輩、スマホを出してなにをしているのですか?早く食べてくださいよ。」


「まさか、スマホで写真でも撮ろうと?」

「い、いや?そんなわけがないだろMINEの通知を確認しただけだし!」

本当は人生初の女の子からの手作り弁当を写真に収めたい!そんな衝動に駆られる。


「大人の余裕ですね」

「まあな。」

「先輩となれば、いちいちわたしのお弁当なんか写真に撮らなくてもいいでしょ、もしこれが初めてでもなければですが」

「あ、当たり前だろっ!さあ」、食べるとするかなー」

まずは、唐揚げを摘まみ一口で頬張る。うん、覚めているけど、弁当の唐揚げって感じで美味い。次にコロッケ。お、これは冷凍物じゃないな。手作りコロッケだった。美味い。なんだか本気を感じる。


ああ、そうかせっかく作ってきてくれたお弁当を食べるのに夢中になってしまって、不誠実なことをするところだった。



「あ、悪い。忘れていた美味いぞ春風特にこの揚げ物のコロッケがな。」


美味しかった。春風にこんな隠された才能があったなんて、ただ、ここで欲が出てしまった。


これは、美味い弁当を作ってくれた者への礼儀だ。それ以下でもそれ以上でもない。


そんな普遍的な言葉なのに春風は嬉しそうに笑って「男の子は唐揚げ好きですよね。うちの弟も好きですから」とこの時ばかりは彼女の笑顔が天使に見えた。

「どうせなら、揚げたてが食べたいなー」

「え?それって......」


「悪い、自宅に作りに来てほしいとかそういうんじゃないんだ!」


「ふーん」

そう小悪魔的な笑みを浮かべる彼女を少し可愛いと不覚にも思っていると、春風は、不適な笑みを浮かべてくる。


「そっかー、先輩の胃袋、掴んじゃいましたかー!」


「いや、掴ませねえよ!」


「なんでそこで抵抗するのですか!大人しく胃袋を掴ませてください!そうすれば先輩の家に作りにいってあげるのに!」

「あっ......

「今のなし!冗談ですから!聞き流してください


「いいのか?俺の家に作りに来てくれるのか?お願いしてもいいか?」


「そうですよね!イヤですよね!わたしなんか家にお邪魔しちゃ!」

と慌てふためく春風。

「え?いいんですか?作りにいって」

「お前がイヤじゃなければな」


「じゃあ、ほんとうにいっちゃいますよ?いいんですか?」


「ああ、来るなら来い!受けて立ってやる!」

「え?果し合いですか?!先輩のエッな本探しちゃいますよ(笑)」


「やっぱ、お前くるな!」



「冗談ですよ、怒らないでください。それより先輩、今夜飲みにいきましょーよ!」


「悪いな。今夜は先約があるからいかない。一人でいってくれ」



「前はいつも誘いに乗ってくれたのに急にどうしたんですか?」


「嘘つけ!俺は、大体誘いを断っていたろ?今に始まったことじゃない」


「まあ、そうなのですけど…まあ、いいか」




「あと、先輩学生時代女の子にお弁当作ってもらったって嘘ですよね?本当はお母さんからでしょ」

「バレたか。お前が初めてなんだ」


「ということは、わたしが先輩の、初めてを奪った女ということですね!」

「言い方!如何わしいぞ。誤解されるだろ!」

と春風は、にんまりとご満悦に笑顔でその場を去るのだった。






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