第2話 推しとコンタクト

先輩!昨日、教えて貰ったWEB小説読みましたよー!」  


「おお、読んだか。どうだった?」  

  

朝からよくそんな元気が出るな。オラにも元気を分けてくれ!!  

  

でも、自分が布教したものを即読んでくれるのは素直に嬉しい。俺が、ラノベオタクに染めてやるからな。  


「はい、面白かったです!正直最初は、異世界転生とか、召喚とか意味分からなかったですね。最初から現地主人公でよくない?って思いましたね。あ、でも魔法やスキルはいいですね。わたしも、あんな魔法やスキルを使ってみたいです!」  

 

まあ、異世界転生や召喚には、思うことは、あるけど、あれは、読者を引きつけるロジックが仕掛けてあるから一概にも否定出来ない。 

 

 現在では転生や召喚ものはジャンル分けされて独自のランキングをとってるし、少し前に流行った追放モノのブームも終息して現在は『悪役令嬢』や『婚約破棄』などの異世界恋愛が流行ってる。今の『小説を書こうよ』は少女小説サイトと化している訳だ。  


「そういえば、春風はゲーマーだったな。でも待て、あれはフィクションだから実際には無理だろ」  

  

コイツは純粋で感化されやすいのだろう。そこは小学生のごっこ遊びまでにしておけ。  

  

「ん?なにやっているんだお前?」春風は、手の平を正面にカ掲げて、「むむむむ~」と  まるで魔力を右手に集中させるように唸っている。  

  

こいつは、もしかして魔法を使おうとしているのか?  

  

「漆黒の業火で焼き払え『ファイアボール』」と呪文詠唱して魔法を唱える。が、何も起こらなかった。  

  

「うーん。もう少しでできそうだったのにー」  

  

「いやいや、できるわけないだろ!」  

  

ラノベやアニメの中じゃあるまいし、できるわけないだろう。もしかして、コイツはいい歳して中二病じゃないのか?  

  

「ところで、先輩は書かなくていいんですか?」  

  

「え?なにを?」  

    

春風はいったいなにを言っているのだろう。何を書けっていうのだ。  

  

「何ってWEB小説をですよ。小説を読む人って自分でも書いてみたいって人が多いじゃないですかー?」  

  

「いや、俺は、もういいんだ...文才無いし俺の書く小説なんて面白くないからさ」  

 

俺は、小説はもう書かない。入社したばかりの当初、日々の鬱憤を晴らす為に小説を書き始めた。  

  

 大手小説投稿サイト『小説を書こうよ』にろくな執筆経験も無く勢いだけで書いた小説を投稿した結果、コメントで酷評されてしまい心が折れ、挫折した。  

  

それでも、今度こそはと次回作を投稿するもPVは伸びず、書籍で勉強して挑戦しても結果は変わらなかった。  

  

 そんなこんなで数年が過ぎていった。その間に高校生の新人作家が書籍化デビューしたり初心者が書いた小説が人気になったりと、先を追い越されていく日々。  

  

自分だけがその場に取り残され、足踏みする。もう小説を書くのが嫌になって筆を折った  

  

 もう、何もかもが嫌になった自分には小説の才能が無かったのだと痛感した。  

  

自責の念に駆られ唇を噛み気付けば、WEB小説やラノベの書籍を読み漁る日々を送り今では楽しく消費型オタクライフを満喫している。  

  

「先輩、一ついいこと教えてあげますよ」  

  

「なんだよ」  

  

説教か?努力は必ず報われるってか?そんな言葉は聞きたくない。  

 

「やめてしまってもまた書けばいいじゃないですか。スキルなんて、後からついてきますし大切なことは諦めないで続けていくことなんですよ。知っていますか?才能っていうのは諦めなかった人達だけが持つ力なんですよ」  

  

「春風、お前ってヤツは......って朝礼始まるぞ。」  

  

気付くとぞろぞろと社員が出社していていて部長が朝礼を始めるところだった。  

  

「わあ、いけない!先輩が長話するからいけないんですよ!」  

  

「うるせー」  

  

もう過ぎたことだと、踏ん切りがついたと思っていた。午前の仕事中アイツの言葉が胸の奥をくすぐっていた。  

  

               ***  

  

一一月の寒さが深く感じられ始めた夜中、今日も残業だった。酷く、疲れていたから、公園の自販機でおしるこでも買おうと立ち寄った。  時刻は二一過ぎ。

  

「すっかり、冷えてきたな」  

  

自販機に近づくと、公園のベンチに一人きりで座る少女が居た。年頃は見た感じ中学生くらいか。  

  

 子供がこんな時間に外に一人でいたら危ない時間。佐藤は心配になり声をかける。  

  

確か、痴漢から助けた子もこれこらいの少女だったような気がする 

 

 「キミ、一人?こんな時間に危ないよ  」

  

  

  

「あなたに関係ないですよね?あと子供扱いしないでください。わたしはこう見えて  

  

大人なんですから!」  

  

「それは、失礼しました。てっきり中学生かと思って......」  

  

「本当に失礼な人ですね、どう見ても大人の女性でしょ!」  

  

  

  

み、見えねえ......正直、どう見ても中学生か良くて高校生くらいにしか見えなかった。  

  

相手を傷付けづに言うにはどう言ったらいいものか。  

  

ふと、彼女の胸元に目がいく。童顔のロリフェイスには似合わず、たわわに実ったバストは  

 

彼女のあどけない少女の外見とはあまりにもミスマッチだった。 

 

 顔は子供バストは大人の二次元ボディに佐藤は、「そうだね、君は立派な大人だよ」と照れて言う。  

  

「ちょっと、今どこ見て言いましたか?!セクハラで訴えますよ!」  

  

「ひぃ!」  

  

やめてくれ、社会的に死んでしまう完全に事案だ!  

  

「あなた、もしかして......」  

  

「ほら、電車で痴漢から助けてくれた」  

  

「ああ!キミはあの時の!あの時の!思い出した」  

  

「その節はありがとうございました」  

  

「もしかして、あなたは!」  

  

先日の未来たんの引退会見で痴漢から助けてくれた人がいたと言っていた。それは俺だ。  

  

 ということは、目の前に居る女の子が元『放シス』の未来たんということになる。  

 

「君は、『放課後シスターズ』の叶羽未来さんですよね?」  

  

「いえ、違います」  

  

「『放シス』の未来たんですよね引退会見みました。今後の活動も頑張ってください」  

  

「だから違います。人違いじゃないですか?」  

  

「いや、痴漢から救ってくれた人に正体を隠すのも失礼な話ですよね。そうです、わたしが未来です」  

  

「やっぱり、どうしてアイドルを辞めてしまったのんですか?」  

  

 引退会見で言っていたし、素敵な恋がしたいからと。それはそうだアイドルだって一人の女性だ。恋の一つや二つしたいだろう。誰も彼女の幸せを邪魔する権利なんて無いのだ。それは例え、事務所の社長であってもだ。  

  

 ん?待てよ、その好きな相手って俺じゃね?いいのか?アイドルとの恋とか!? スキャンダルとかにならないだろうか?心配になる。  

  

「わたしがアイドルを卒業する理由ですが、恋がしたいだけではないんです」  

  

「それはどういう意味ですか?」  

 

「はい、結論から言うと痴漢に遭ってから男性ファンの前に立てなくなったんです」  

「それは、痴漢されたことで、男性から性的な目で見られているのではないか?と怖くなってしまったんです」  

  

「そうだったんですか」  

  

確かに、未来たんは、童顔だが、スタイルは良い。男性からそういう目で見られてしまうのは  

  

いた仕方ない気もするが、当人が嫌がっている以上、そんな好奇な目に晒すのは可哀想だ。  

  

 そのせいで、アイドルとして活動出来なくなっただけでなく、男性の前に立つことも苦痛に感じているあたり、重症だ。こんな状態でアイドルを続けるのは彼女にとってストレス以外の何物でもないだろう。アイドル卒業は懸命な判断だと思う。  

  

「あの、今、俺と話しているのは大丈夫なの?」  

  

「あなたはわたしを助けてくれたヒーローなので怖くありません。むしろ、傍にいて安心します」  

 

「でも、わたし、まだ最後の仕事が残っているんです。」  

  

「それはなに?」  

  

「はいグループを卒業するアイドルの最後の仕事。それは、卒業公演です」  

  

「そうか、今まで、応援してくれたファンにお別れとありがとうを言わないとだよね」  

  

  

  

「そうなのです。でも、わたし、ファンの前に立つのが怖くて......」  

  

「俺に、いい考えがあるんだけど」  

  

「それはなんですか?」  

  

「お客さんのことはジャガイモとニンジンだと思えばいいんだよ」  

  

「お、思えません!あと、子供じゃないのですから!その手には乗りませんよ!」  

    

「ダメかー。それなら、なにかいい手は無いものか......」  

  

「あの、あなたも卒演来てくれますか?」  

  

「もちろん!未来たんの晴れ舞台、必ず観に行くよ!」  

  「あのお名前を教えてもらってもいいですか」

「いいぞ、佐藤歩結だ。よろしく」


「そうか、佐藤さんが見てくれていると思えば、わたし頑張れそうです!」  

  

「おっ、その意気だぞ。頑張って!」  

  

「はい!」未来たんは大輪のような華やか笑顔を見せてくれて俺もその顔を見て安心した。  

  

 卒演当日にまさか、あんなことになるとはこの時は思いもしなかった。  


               ***


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