第3話 新人冒険者の友
『あの盗賊達を倒せるお前たちにこんな依頼を頼むのもあれだが、まぁ、まだこの辺に来たばかりで、地形もよくわかってないだろ?
だから、少し探索のついでに偵察をしてきてくれるとありがたい』
そうして、シルグレッドから紹介された依頼は、ゴブリンの巣の探索依頼であった。
ゴブリン、それは小柄の魔物であり、姿は小型の亜人。
人の子供ほどの身長しかなく、知能は低く、性格は粗暴、力も弱い。
しかし、そのほぼ雄しかいないという特性と他種族に依存するものの圧倒的繁殖能力と成長速度はそれなり以上に厄介であり、少なくとも人種族や他獣からも大いに嫌われている。
そういう、所謂べたべたな人類の敵対種ともいえる魔物である。
シルグレッドの話によれば、この村の街道の近くにゴブリンの巣穴があり、彼らはめったに人を襲うことはないが、それでも時々女子供やけが人など弱そうな獲物を発見すると襲うことがあるそうだ。
『そういうわけで、この村ではその街道には子供は通ってはいけないことになってるな。
一応この村で人間の被害者は出てねぇが、何匹か家畜がいなくなってるから、それの原因がゴブリンかもしれねぇって話は出ている。
もちろん、昨日の活躍ぶりを見るに、アンタらがゴブリン程度に後れを取るとは思えないし、巣ごとつぶせるなら、つぶしてもらってかまわん。
しかし、油断だけはするなよ』
かくして、我々三人は簡単な支度をして、ゴブリンの巣の偵察とやらの任務に行く事になった。
偵察といってもあくまで場所確認であり、近くで馬車の破片と人がさらわれた痕跡があったら村に知らせに帰る。
その程度の任務のはずであった。
「ふ~ん、であれが件のゴブリンというわけか」
現在は私たちがいるのは、街道を少し外れた森の中。
持参してきた望遠鏡(自作)の先には洞窟の入り口を守るゴブリンの姿がいた。
「生きてるゴブリンをじっくり見るのは初めてだけど、なんというか思ったより普通の顔してるね。
武器は木の棒……というよりは木の枝か。
あんなので武器になるのかな?」
「よくわからないけど、素手よりはまし?って程度じゃない?
それよりもその魔法の筒貸して!
僕もそれで、ゴブリンたちを見てみたい!」
「はいはい、一応魔法付きの貴重品だから、あんまり雑に扱わないでね?」
嬉しそうに、望遠鏡をのぞくヴァルターを尻目に考える。
自分はそこまでゴブリンについて詳しくはないし、実際、今回の旅の途中の遭遇戦でも特に苦労した覚えはなかった。
が、それでも木の枝とは言え武器を持てるほどの知能を持つ野性の敵性動物とは、それなりに危険な存在ではなかろうか?
「……まずいですね」
そして、それは実際にまずい存在であったようだ。
「私のお母さんが言ってました、ゴブリンの群れの強さは下っ端の頭の良さで決まるって。
入り口に見張りを付け始めたら要注意、武器を持ち始めたら危険。
人から奪えばもうおしまい。
そんな風に教わりました」
望遠鏡も使わず遠くのゴブリンの巣をにらみつけるベネ曰く、今目の前にあるゴブリンの巣はそれなりにやばいかもしれない存在だそうだ。
ゴブリンという頭も体も弱い魔物でありながら、すでに目の前にあるゴブリンたちは見張りを付けるだけの知能と、ぼろ枝という武器を持てるだけの知能も持ってしまっているのだ。
「ふむふむ、ベネちゃんは賢いねぇ。
お礼になでなでしてあげよう」
「えへへ~♪そ、そんなぁ。
ただ少し、私のお母さんが元凄腕の狩人ってだけで……。
~~~♪」
撫でられてうれしそうに喉を鳴らすベネちゃんを尻目に考える。
ともすれば、あとはこのことを村に報告すれば依頼完了というわけだが、そうなれば後はこのゴブリンの巣の討伐には討伐隊が結成されることになるだろう。
「……でもそれってまた結局、僕たちが討伐する流れになるんじゃない?」
「まぁね」
「二度手間じゃない?」
「まぁな」
まぁ、ヴァルターの言いたいことはわかる。
確かに、もし自分たちがこのゴブリンの巣についての報告に戻るとすると、真っ先に討伐隊に組み込まれるのは恐らく自分達であろう。
「だったらさぁ、戻る前に僕らがここで倒したほうが村のためにならない?」
「何を言ってんだお前は」
思わず真顔でそう返事をする。
そもそも偵察任務はきちんと報連相するからこそ偵察任務なのだ。
ゴブリンの危険度をきっちりと相談する、その上で討伐すべき人員をそろえて、討伐しに行く。
そうしなければ、万が一自分たちがゴブリンにやられてしまった場合に、本当にゴブリンにやられたのか、そもそも道中で何かあったのかなどが分からなくなるからだ。
「でも、シルグレッドさんは巣を破壊できるなら、してもいいって言ってたよ?
つまりは、あの人は僕らがゴブリンの巣を壊滅させた場合も考慮しているってことでしょ?」
しかし、それでもヴァルダーの言い分もわからないでもない。
そもそも件の依頼主自体は、倒せるなら倒してもいいと言っている点が問題なのだ。
だからまぁ、ヴァルダーの言い分も実は一理あるし、おそらく件のシルグレッドの視点では自分たちの実力はゴブリンのそれよりは確実に上だと判断で来ているのだ。
「わ、私も巣の討伐に賛成です!
ゴブリンの巣は潰せるうちに潰しておいたほうがいいって、ほんの数日変わるだけでその強さがすごく変わるって、お母さんが言ってました。
今ならまだ、単なる木の棒なので……きっと問題なく倒せると思います」
そして、残念ながら今のPTで一番ゴブリンについて詳しいと思われるベネちゃんもそれに賛成してしまった。
しからば、2対1でゴブリンの巣討伐賛成派のほうが上回ってしまった。
「あ~、でもイオちゃんは確か魔力が足りないんだっけ?
ならイオちゃんだけでも先に帰って、報告してくれる?
この程度のゴブリンの群れ、僕達2人で十分だからさ」
「ふふふ、昨日はそこまで活躍できませんでしたからね!
大丈夫です、ここは私たちに任せて先に帰っていてください!
後で合流しますので♪」
そして、あまりにも見事な死亡フラグを立てる2人を見てしまい、流石に見捨てるわけにもいかず。
仕方なく一緒にゴブリン討伐に加わることにしたのであった。
そして、ゴブリンの巣
「……そして、予想通り、特異個体がいる、と」
「んもおぉぉぉぉ!!
がらだがうごきにぐいよぉぉぉぉ」
「ヴァー君、頑張ってください!」
ゴブリンの巣の奥、そこで現在われわれはこのゴブリンの巣のボスと対決していた。
といっても、基本的にゴブリンの武器は、木の棒か素手でありこん棒以下。
ゴブリンの爪も犬猫以下なため、こちらの外套や厚手の服を切り裂けるほどではない。
具体的に言えば、本来狩人であり、別に近接戦闘が得意ではないベネちゃんですら、その手に持つマチェットで野良ゴブリン相手に無双できている程度には余裕だ。
ヴァルダーに関しては言わずもがな、もはや鎧袖一触であり、本来ならば片手にたいまつを握りながらでも、彼一人でこのゴブリンの巣穴を攻略できたであろう。
「げぎっ!げぎぎぎぎっっ!」
もっとも、それはこの巣穴のボスである、魔法を使うゴブリン。
ゴブリンシャーマンがいなければの話だ。
ゴブリンをはじめとする一部の魔物は、人間が生まれつき魔法や神聖魔法が使える個体がいるように、ゴブリンもまた生まれつき魔法が使える個体がいたりするそうだ。
そして、この巣の最奥にいたこのゴブリンも、そんな魔法を使える稀有なゴブリンらしい。
使える魔法は恐らく、【
意気揚々と戦闘に赴いたヴァルターがその魔法の餌食となり、目に見えて動きが鈍くなっているのがよくわかる。
まぁ、完全に動きを封じられる強い麻痺魔法でなかったのは幸いだが、それでも戦力ダウンしてしまっているようだ。
「げぎゅ、げぎゅぎゅしーしし!」
そして、このゴブリンシャーマンが地味にむかつくところは、こいつはなぜか一発目はヴァルターに向けて麻痺魔法を放ったくせに、二発目以降はずっとこっちを狙っているということだ。
「だから効かんて」
「ぎぃ~!!!ぎぃ~!!」
自分の魔法があっさり無効化されたからか怒るゴブリンシャーマン。
こちとら魔道学校出身故、野良の魔法使いの呪いなんぞにかかる事はない。
既にこのゴブリンから放たれた魔法を2度3度と無効化しているため、ゴブリンシャーマンの魔力も目に見えて減っている。
でも言いたいのはなんで私ばかり狙うんだということだ。
3人いるんだから、私じゃなくてベネちゃん狙えよ、と。
いや、ベネちゃんが狙われたら流石に庇うけど。
3人中2人麻痺は色々と怖いし。
「どいうが、めっじゃ、おっぱい狙われでるね」
「いうなよ」
「ゴブリンは、家畜や人種を襲って、繁殖するので……。
その、きっと、イオさんはその、ゴブリンたちにとって魅力的な方なんだと思いますよ?」
「ゴブリンは、おづっばい好きだっだ?」
「その情報はいらなかったかなぁって」
件のゴブリンシャーマンのびっくりするほど欲情に満ちた目に、思わずため息が出る。
そういえば、魔導学園での魔物学で、陰の魔力にあふれる死霊術師をはじめとする呪術師は、魔物から友好や性欲の対象で見られやすい傾向にあると習った気がする。
つまりここで私たちが、負けてしまうと、ベネちゃんは普通に殺される可能性があるのに、自分は薄い本みたいな目になる可能性があるわけだ。
「……さすがに、それは御免被るよ」
私は放出する魔力量を増やし、操っているゴブリンゾンビへ送る魔力量を増やす。
なお、このゴブリンゾンビは、このゴブリンの巣にいた奴を、蘇生させて操っているものだ。
このゴブリンゾンビ、単純な腕力に関しては生前よりやや強い程度だが、すでに死んでいるためゴブリン同士の取っ組み合いでは基本的に負けることはない。
ゴブリンゾンビでゴブリンを足止めし、その間にベネちゃんがその手に持つマチェットでゴブリンの頭を叩き潰すという作業を繰り返していた。
そうして、麻痺しながらもそこそこは動けるヴァルターとゴブリンゾンビとベネちゃんのおかげで巣にいるゴブリンはほとんど駆除成功。
「よし!痺れが取れた!
それじゃぁ喰らえぇ!」
「ぎびぃぃぃぃ!!」
そして、最終的には魔法の効果が切れたヴァルターの本気の剣により、あっさりゴブリンシャーマンはなます切り、ゴブリンの巣の壊滅に成功してしまったのでした。
「というわけで、厄介な魔法使いはいたけど、無事にゴブリンの巣を駆除してきました~♪」
「おお!まさかゴブリンシャーマンまでいたとは…。
しかし、それでも討伐成功するとは、さすがだな!!」
かくして、偵察という名のゴブリンの駆除任務は無事に成功。
報告前に討伐してしまったことについては特にとがめられず。
逆に報酬を割り増ししてもらえたのは、シルグレッドの気が優しいからか、それとも相手がゴブリンだからか。
おそらくは両方だろう。
「まぁまぁ、僕たちならちょっと変わったゴブリン程度ちょちょいのちょいだし?
ちょっと魔法使われたときは焦ったけど、まぁでもその程度だったね」
なお、ヴァルターはさも問題ないようにいているが、正直ベネとコイツの2人だけで突っ込んでいった場合、本当に無事かどうかは怪しいかったのではと少し思ってしまう。
麻痺呪文を初手に食らっていたし、ベネもあくまでゴブリンゾンビのサポートがあってでの戦果だし。
それほどまでにゴブリンの数の脅威とは面倒くさかったのが本音だ。
今回は、ゴブリンゾンビを使うことで数の脅威にも何とか対抗できたが…それでも、ゴブリンが厄介であることは間違いなかった。
まぁ、それでもこの2人には自分が知らない奥の手を持っている可能性も十分にあるので、それを使えばゴブリンを何とか出来たといわれれば、何とも言えないのが。
「うむうむ、これならこれからも君たちにはより多くの、より困難な依頼を回しても大丈夫そうだな」
「うん!もちろんさ!
僕ら相手ではゴブリンの1つや2つ程度問題ないからね!」
「というわけで、こことこことここにもゴブリンの巣がある。
もちろん、全てを倒してくれとは言わないし、あくまで偵察と言う体だが……余裕があれば頼むぞ」
もっとも、自分たちがゴブリンの真の数の脅威を知るのは、ここからであった。
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