第2話 新人冒険者(強制)
開拓村・ギャレン
最近ブレイ王国へと編入されたばかりのイラダ地方。
王命により順次開拓開発が行われているとされている地域にある村である。
ギャレン村はどうやらできてからまだほとんど時間がたっていないらしく、冒険者ギルドや魔導士ギルドなどは存在せず、宿屋も酒場と一体化したものが一つだけ。
(思った以上に、できたばかりの村みたいだな)
これは自分の率直に思った感想だ。
別にこれは、馬鹿にしているとかそういうわけではなく、単純な事実としての感想である。
先の盗賊の襲撃もそうだし、そもそも村にまともに警備員がいないとか、そういうレベル。
幸い、避難所にもなる教会があるが、どう見ても魔法的な守りは期待できそうもない。
「おお!それじゃぁ、君たちがこの村に来てくれた冒険者であったか!
いやぁ、まさか本当に来てくれる人がいるとは!」
そう言って自分たちを受け入れてくれたのは、ジルグレッドという男であった。
この酒場の店主にして、この街のまとめ役のような男、なのだろう。
現在は包帯でぐるぐる巻きであり、地味に痛々しい姿ではあるが、それでも本来ベッドで寝てろと言いたくなるのに、こちらを出迎えてくれた心意気は酌んでやるべきだろう。
「本来なら、少しめんどくさい質疑をするところだが、君たちはこの村を救ってくれた恩人だからな。
死人は出ているから派手にとはいかないが、それでも歓迎会くらいはしたいからな。
軽い自己紹介だけはしてくれ」
どうやら、剣士君が真っ先に村を救いに行ったのは彼らにそれなりにいい印象を与えたようだ。
これなら、どうやら問題なくこの村にいることができそうだなと思い、どう自己紹介をしようかと考える。
ともすればやはり魔導学校からの応募できたというのが一番丸い所だろう。
そうして自分が口を開ける前に、件の剣士君は声を大にして言うのであった。
「僕の名前は、ヴァルター!
名もなきアルバート流戦闘術をそれなりに修めし者で、この地に伝説を作りに来たよ!
こっちの娘はベネディクト。
夜目の利く狩人で、鍛えれば一流の弓の使い手になれるだろうね。
そして、こっちの娘はイオ!
なんとこの娘は凄腕の死霊術師で、死んだ馬すら一流戦馬としてよみがえらせる凄腕のネクロマンサーだよ!」
色々と台無しな紹介をしてくれやがったこいつを、グーで殴ったのは許されると思う。
自己紹介後は微妙な空気とはなったが、それでもどうやらこの村の人材不足は非常に重たい物らしい。
それでも自分を含む3人はこの村の冒険者として受け入れられることとなった。
その日は、そこそこ豪華な食事の後、その宿で一夜を明かすことになる。
「というわけで、何か仕事はない?」
「おうおう!そういうと思ってたくさん仕事は用意してあるぜ!」
そして翌日、そこにはやる気満々な剣士君ことヴァルターが酒場の店主に仕事の有無を尋ねていた。
「は~、ついて翌日なのによくそんなすぐに仕事をする気になれるね」
「え?」
「いや、私はあんまりやる気ないよ?
だって、昨日の今日で、あんまり魔力回復していないし」
背中をグイーっと伸ばしつつ、店主にチップを渡し、食事を受け取る。
「はわ、はわわわわ……」
「……おい嬢ちゃん、さすがにこのクソ田舎でいちいち飯にチップはいらねぇよ。
しかもこれ銀貨じゃねぇか。
もう少し考えて金使えや」
なお、その言葉とともに同じ分の価値の銅貨と両替してくれる店主。
う~ん、この店主やりおるな。
「ああ、嬢ちゃんは魔術師だったな。
なら、そこまで魔力をつかわないであろう依頼を見繕ってやろうか?」
「いや、そもそも私そこそこの貯金を持ってきたから、すぐに仕事をする必要は……」
「昨日の襲撃で死者が無数に出て人材が足りてないんだ。
仕事なら腐るほどあるからな」
そういいながら、店主が料理とともにとある紙束を持ってくる。
するとそこには無数の冒険者向けの仕事が書かれていた。
「いや、そもそも自分は冒険者よりも、学園魔導士としての募集で……」
「仕事が腐るほどあるんだ」
「あの、そもそも自分は死霊術師だから、あんまり動くと不審がられて……」
「仕事が腐るほどあるんだ」
「……それにね?死霊術師としても、基本死霊術師は準備が大事な魔術だからね?
まずは冒険者をやるにしても、そうでないにしても、準備が必要で……」
「仕事が、腐るほど、あるんだ」
「えっとその……」
「あるんだ」
「あ る ん だ」
「……はい」
かくして、酒場の店主の圧倒的威圧感により、村について翌日すぐに冒険者として仕事をさせられてしまうのであった。
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