第1話 死体を量産するだけの簡単なお仕事

端的に言うのなら、私はこの世界ではそこまで面白みのない家庭に生まれた。


生まれは王都で、父は代筆屋。

母はそんな父を支えるのを生きがいにしており、家事はおざなり。

そんな家庭だからだろう、親子愛や子育てに関しては結構おざなりであったが、それでも虐待や家庭崩壊は起こさない。

その程度のごく普通の過程であった。


そんな私が、ネクロマンシーを学ぶことになったのは、端的に言えばスカウトであった。

生まれつきわるくない量の魔力と死霊に対する耐性に陰の魔力への適応力、以上の3つのネクロマンシーに対する才能があったため、先達であるネクロマンサーの先輩に目を付けられてしまったからだ。

両親に対しても、魔導学校の推薦枠で入学できるということを餌にあっさりとネクロマンシーを学ぶことを認められてしまった。


だが、ネクロマンシーを学ぶ中で、一つだけ厄介であったのは、それは修行の一環で、前世の記憶を強く取り戻すというものがあったことだ。

大抵のネクロマンサーの場合は、前世がそもそも人ではないものの場合が多く、それを行っても自我に対してそこまで影響がないそうだが、残念ながら私の前世はこの世界から見ていい世界のいわゆる現代日本、しかも男性という状態だ。

修業をすればするほど、今の体の性である女性の体には強い違和感がわき、自分の性について悩むようになるのは必然の流れであった。


かくして私は、魔導学校を卒業するころには前世の記憶を完全に取り戻してしまい、同時に性の違和感も最高潮に。

ついでに、両親そろって不倫をしていたことに気が付き、親に対する愛もかなり薄くなる事態。

トドメに自分を推薦したはずのネクロマンサーの師匠も、不老不死を目指して勝手に吸血鬼化し、教会のエクソシスターにぶち殺されるという事件まで発生したわけだ。

両親の不倫のせいで、王都に戻って仕事をするわけにもいかず、かといって学園では師匠のせいで居続けにくい。

だからこそ私は、新天地で一から死霊術師としてスタートするなんて、頭がわいた選択肢を取ってしまったわけだ。


☆★☆★


「でも、よく考えればもう少しいい選択肢あったよねって。

 せめて、普通の街の魔導士ギルドに行くとかさ」


「まぁまぁ、いまさらそんなことを言ってもしょうがないじゃないか!」


屍馬に乗って早3日目。

道中で破壊された馬車や無数の亡骸、さらには無数の魔物や蛮族に遭遇。

まだ、新天地へとついてすらいないのに、すでに新生活へは不安しかない。


「それに、僕としても君みたいな凄腕で善人な冒険者仲間ができそうでうれしいけどな~」


「は、はい!は、はじめはとっても不気味でしたが……。

 ご飯の時にスパイスも分けてくれましたし、イオさんはとってもいい人です!」


なお、この同行者2人の個人的評価はまだ保留というのが本音だ。

前者に関しては、身なりの良さと強さからしてあまりにも元の経歴が不明過ぎるし、後者に関してはそれで善人判定はがばがばすぎないか?ちょっとこっちが見ていて不安になるぞ。


「まだ私は冒険者になるとは決めたわけじゃないからね。

 どちらかといえば、工房とか魔術師ギルドとかそっち希望かな」

「えー」

「えー」

「えーじゃないよ。

 こちとら魔導学校出身者ぞ?

 なのに冒険者になるとか、結構無茶な気がするんだ」


そんな毒にも薬にもならない会話を続けたのち、私達はようやく目的地付近まで到着したのであった。


「それじゃぁ、ちょっと手持ちの使役霊を先行させて、村の様子確認しておくね。

 村の様子によっては、徒歩で行ったほうがいいかもしれないし」


周りに見守られながら、外套の下から水晶筒を取り出す。

その筒の蓋を開放すると、中からブワッと冷気と共に霊が伸び出し、目的の方まで飛行していった。


「へ〜、死霊術師ってそんなこともできるんだ!

 なんかもうちょっと、陰険で悪いことしてるイメージしかなかったけど」


失礼な!と言いたかったが、まぁ、大体事実なので何も言い返せない。

死霊術師である自分からしても、もし野良で死霊術師を見かけたら、疑うことから始めるし。

それから数刻後、屍馬をどう埋葬するかどうかについて談話する中、埋葬する直前に帰ってきた浮遊霊から情報を抜き出すが……。


「あ~、どうやら目的地の開拓地がちょうど今盗賊に襲われているっぽいな。

 どうやらこれは慎重に立ち回ったほうが……って、あ」


自分がうっかり、情報を口から滑らせてしまったせいか、横にいた剣士はすぐさま屍馬にまたがる。

そして、自分が止める間もなく、その屍馬に乗って件の開拓村に向かって、全力で突撃しに行ってしまったのであった。



「はあああぁあああああ!!!

 この悪党どもめぇえええ!!!」


「ひ、ひええぇええ!!

 あの剣士激つええぇええ!!!」


「馬鹿!おめぇら怯むな!

 数ではこちらが上回っているんだ!

 やっちまえぇ!」


屍馬にまたがり、なんとか彼に遅れて開拓村まで到着することができた。

が、到着した時にはすでに、戦況はすでに大乱戦。

互いが互いに血で血を洗う大激戦を繰り広げていた。


「い、今のうちに武器を入れ替えろぉ!

 追加の矢を持って来い!

 お前らココが踏ん張りどころだ!」


「こい!悪党ども!

 アルダート流馬上戦闘術の神髄を見せてやる!」


多くの村人が入り代わり立ち代わり、戦線を支える。

それを先ほど横にいた剣士が屍馬に乗ったまま敵陣を荒しサポートする。

正直、人間同士の血みどろの争いにそこまで慣れてない身としては、いろいろときついのが本音だ。


「お前らぁ!たかが騎兵一人にそこまでやられて悔しくないのか!!

 さっさと殺せぇ!」


まぁでも、幸か不幸か襲っている側の賊は明らかに戦闘慣れしているため、そういう意味では、こちらが襲われた場合に反撃しても罪悪感が薄いという面はある。

でも、戦闘慣れしてる賊とか、あんまり戦いたくない相手ではあるが。


「ひぃぃ!あの騎兵の馬、全然死なねぇ!?

 いったいどうなってるんだ??」


「矢も当てた、剣で切った。

 馬鎧もねぇ、なのになんで、なんで怯まねぇんだ……ぐばぁぁぁ!」


そりゃまぁ、屍馬ですし。

五感は薄くなっているが、魔力感知の六感はするどい。

痛覚は鈍く、力は強大。

なによりも、魔力が尽きなければ実質不死身。

その上、周りに死者が生まれれば、そこから生じた陰の魔力を吸収できるようにしているため、少なくとも戦場ではそう簡単にやられないだろう。


「わ、私も援護しに行きます!

 これだけ数がいるなら、私だって……!」


横にいる狩人ちゃんも、そこそこやる気のようで、弓を携えて援護を始めた。

なお、数日前には乱戦での弓使いがそこまでであった狩人ちゃんだが、この数日で成長できたらしい。

賊相手に見事なヘッドショットを決め始め、見ているこちらが怖くなってきた。


「あぁ!ようやく来てくれたんだ!

 イオちゃん、ベネちゃん!援護を頼むよ!」


おい馬鹿、こっそり援護するつもりなのに、こっちに呼びかけるのはやめろ。

こちらのそんな願いをよそに、村人だけではなく、賊の視線までこちらに向けられる。

剣士も自分の失言に気が付いたのか、焦りの表情を見せる。

それもそうだ、戦線は無数の人員、片や非戦闘員が多いが数は互角の前線。

片や見た目は女2人と鎧一つの後詰め部隊。

狙うならどちらを狙うだろうか?


「遊撃隊!残ってるやつらは後ろの奴らを狙え!

 女だからって楽しみ過ぎるなよぉ」


「ひゃっは~!!」

「げっへっへ、こりゃついてるぜ!」

「おっぱいおっぱい!」


まぁでも賊がある程度理知的であったおかげか、前線にいる賊がすべて来るなんて事態はなかったのが救いか。

数は3人、しかも丁寧にすべてが正面から。

これならどうとでもなるのが本音だ。


「はぁあああ!!」

「あげひっ」


狩人ちゃんことベネちゃんが、正面から頭を射抜いて1人。


「……ゔ」

「っ、こいつ、つええぇぞ!」


鎧霊のトガちゃんで足止め成功してもう一人。


「……よっし、それじゃぁ、ドーン」


そして、もう一人は私の役割というわけだ。

かくして私は、人差し指と中指を銃身に見立てて、そこから魔力の弾を放つ。


「っけ!どんな魔法か知らんが、そんな遅い球が俺にあたるわけが……なにぃぃ!」


残念、その弾はただの魔力弾ではない。

その魔力弾の正体は、先ほど斥候にも使った浮遊霊。

それに魔力と使命を与えて放ったものなので、高い追尾性を有している。


「あれ?何とも……いぎ!

 あぎゃ、あああああああああ!!

 肉体が、俺の体が裂ける!あぎ、やめ、がぁあああ!!!」


そして、自分の放った魔力弾の浮遊霊の使命は、相手の肉体の一部に取りついて、適当に暴れまくれというものだ。

おそらく今の彼の体では、内臓や筋肉、そして骨などが入り代わり立ち代わり、彼の意思に反して、勝手に暴れ、そして自壊しているのだろう。


「う~ん、これだから死霊術師は嫌われるんだろうね。

 それじゃ、お休み」

「かぺっ」


糞尿や涙をまき散らしながら暴れるその賊に向けて追加の魔力弾でとどめを刺す。

もっとも、後々の事を考えてこいつは殺さず、気絶程度にとどめておいた。


「援護は……どうやら必要ないみたいだね」


こちら側に来た遊撃部隊は、すでにトガちゃんとベネちゃんで全員始末済み。

前線に関しても、すでに遊撃部隊が欠けてしまったことにより、戦況は逆転。

少なくとも屍馬に乗った剣士に対するまともな対処ができていない時点で、お話にすらなっていない。


「野郎ども!!これはもう無理だ!

 急いで撤退……ぐはぁ!」

「敵将!!討ち取ったり~~!!」


頭を失ったことで、賊たちが去っていく。

その賊の頭を切り落としながら、誇らしくこちらへと生首を持ってくる彼を見つつ、何とも言えない気持ちになるのでした。

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