第2話 たけるの日記
絶対に付いてくると言ったリンを振り切り、衣装たけるの小屋へ来た。他の小屋と同じで簡易的に作られた木と藁の家だ。
「今さらですけどほんとにぼろいですね」
この村に来てからずっと思っていたのだが全てがぼろい、小屋とかそういう話ではなく、衣・食・住全てが他の村や町と比べて明らかに劣っている。
「衣服に関しては動物の毛皮や植物性の衣服、食事に関しては森にいる動物と果物、畑で取れる僅かな野菜を火で焼くだけ。住居については木材の骨組に藁を被せているだけ。これでは雪や大雨はしのげないでしょうに」
なぜこれ程までにこの村の生活環境が成長していないのか、とても気になりますね。
「おっと、それも気になりますがまずはこの衣装たけるについてですね」
衣装したいの人生を調べる時は自宅を荒らすというのが常套手段なんですよ、特に日記とかあったら最高ですね。
30分ほど荒らした結果としては衣装たけるの小屋にはほとんど何もなかった。元々物をあまり持たないタイプであったのだろうか、生活に必要な食べ物や服しか見つからなかった。
「そう、この日記以外はね」
涎が出そうになるのを堪えながら1冊の本を直視する。どうやら鍵付きの本のようだ。住居にすら鍵文化のないこの村に鍵付きの日記、この村にとっては過ぎたる代物だ。リンが言っていた通り衣装たけるは別の場所からここに来たのだろう。
「鍵ですか、困りましたね」
こういう鍵は本人が部外者に開けられたくないという一心から付けるものであり私のような部外者がおいそれと開いていい代物ではないのだ。魔物の私でもそれくらいのモラルは持ち合わせております。
「まあ今だけは私が“たける”ですからね」
右手で鍵を粉々に砕いた。モラル?なんですかそれ美味しいんですか?
「さてさて、どんな内容が書いているんでしょうね」
日記の中身はさして大したことのない、日々の日常が綴られた内容だった。ただ興味深いことも書いてあった。
「〇月×日、今日から日記を書いていこうと思う。あの忌々しい場所から逃げた僕をリンは優しく迎え入れてくれた。リンには感謝しかない」
「〇月×日、村の人からの僕の評判は良くないらしい、それはそうか。僕は部外者なんだ、仲間と認めてもらえるように頑張ろう」
「〇月×日、夜中に村から魔物の声が聞こえた、急いで外に出てみたけど魔物の姿はなかった。僕の思い違いなんだろうか」
「〇月×日、村の住民が死んだ、僕よりも前にこの村へお世話になっていたケンさんだ。夜中、魔物に殺されたらしい。あの時僕が声の正体に気づいていれば助けられたのかな」
「〇月×日、今日の食事は豪勢だった。リンになんの肉か聞いたけど教えてくれなかった。リンは少し悲しそうだった」
「〇月×日、森に果物を取りに行ったら魔物の会話が聞こえた。今夜ばあやの魂を奪いに行くらしい。そんなことはさせない。この村の人たちは行く当てがない僕を優しく迎え入れてくれたんだ。姿は見えなかったけど絶対に止めるんだ。少し怖いな、大丈夫、大丈夫」
「もし、僕が魔物に殺された時のために最後の日記を書きます。色々書きたいことはあるけどこれにしました。
リン、君のことが好きです。どうか僕のことを忘れて幸せになってください」
興味深いのはこんなところでしょうか。とても良い人間の勉強になりました。
この衣装たけるの敗因は正義感が強すぎたところでしょうか。魂狩ラルフでなくとも素人が一人で鎧も着ずに、剣と盾だけで殺せる魔物なんてたかが知れてる。まあ全体の魔物の5%というところでしょうか。そもそも魂狩ラルフは実体がないので素人には絶対殺せないのですが。
「おっと、いけません。日記に夢中になっていたらもうこんな時間ですか」
いつの間にか日が落ちていた。こういう興味深いものを見る時はついつい夢中になっちゃいますね。
「さて、ではこの衣装たけるへの恩返しを始めますか」
この衣装たけるがこの村で過ごしてきた人生はだいたいわかりました。こんな素晴らしい人生を見させていただいた恩を返すとしましょう。
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