異世界で化け物が死体を漁っているようです

しろくま

第1話 死体漁り

今日はとても豪華な衣装を森で拾った。


体格が180㎝程の傷だらけだが筋肉質な衣装だ。こういう衣装は骨を外す時に肉の繊維が骨にこびりついてしまうから少し苦手だが贅沢は言っていられない。


「よいしょっと」


 衣装の着ている服を脱がし背面に縦一直線に切り込みを入れ、丁寧に全身の骨を取り出す。少しでも骨が余ってると着る時に苦労するからここは時間をかけて行う。


「案外いいものですね」


 骨を取り出し終わって衣装を着てみると思いのほかフィットする。まだ日が昇る前だし今日一日はこれで過ごそう。


 ほかに何かないかと見渡すと銀で作られた剣と盾を見つけた。もしかしてこの衣装は魔物を討伐しようとして心半ばで倒れたのだろうか、確かこの辺りは魂狩ラルフの住処だったはず。服も装備も取られていないということは魂狩ラルフに魂だけ持っていかれたのだろう。そもそも魂狩ラルフ自体、人間一人で挑んだところで勝てるわけのない相手だ。


なにせ相手は幽霊なのだから。


「魂狩ラルフを討伐しようとしていたということは賞金目的ではない。魂狩ラルフは肉も皮もなく、あまり遠い場所へはいかない種族ですからね。つまりこの近くの村に被害があって討伐を任されたってところでしょうか」


 周りを見渡すにまだ魂狩ラルフの存在は感じる。


「とても気になりますね」


 この衣装がどんな人生を歩んだのか私はとても気になった。確かこの近くにエンジンという村がある。その村へ行ってみることにしよう。




♦♦♦




「なんともまあ、辺鄙なところですね」


森から5時間ほど歩き、エンジンの村についた。このご時世に未だに木と藁で作られた家、呆れを通り越して草も生えません。まあこの衣装の着ている毛皮の服から想像はしていましたけど。


「たける!! ようやく帰ってきたの!! 心配したんだから!!」


 おっぱいの大きな15~18歳ほどの少女が近づいてくる。たけるとはもしかして私のことだろうか。


「お、おぉ。久しぶり」


「久しぶりじゃないわよ!! あんたが急に村の剣を持って出て行ってみんな心配してたのよ!!」


 この少年は村から無断であの剣を持って行っていたのか。


「怪我とかなかった!? 大丈夫!?」


「実は森で頭を打っちゃって、ほとんど記憶がないんだ」


 喋り方や行動で違和感を覚えられる前に布石を打っておこう。昔みたいなヘマはしないように。


「記憶喪失ってあんた、大変じゃない!? ちょっと来なさい!!」


 少女は涙でいっぱいの目のまま、一つの小屋へ私の腕を強く引いた。


「ばあや!! たけるが帰ってきた!! 記憶喪失らしいの、なんとかできない!?」


 連れていかれた小屋は他の小屋と同じく藁の家で、雨風は何とかしのげるといったレベルのひどい小屋だった。小屋の真ん中に暖炉が一つと老女が一人座っている。周りは木の実や草があり、恐らく薬を作るのに用いるのだろう。


「たける!! 今度またどっか行ったら絶対許さないんだから!」


 老女の家に私を入れると強めの口調で注意し藁の扉を閉め勢いよく外へと出て行った。少女はこの少年の恋仲であったのだろうか。


「全く、リンには困ったものじゃ。たけるや、元気にしておったか?」


 腰の曲がった老婆がゆっくりな口調で話しかけてくる。


「元気にしてたよ、記憶はなくしちゃったけど」


 この衣装たけるの性格が掴めない今、下手なことを喋るのはまずいだろう。


「そうかそうか、昨日たけるが病気の正体がわかったと騒いでいなくなった時は何が何だと驚いたが、帰ってきてくれてよかったよ」


 状況を察するに病気というのは魂狩ラルフが寝ている間に病人の魂を狩る行為だろう。魂狩ラルフは幽霊の部類で本来人間には見えないはずだがこの衣装たけるは何らかの形で真相に辿り着いたということか。


「森で頭を打ったのかえ? ちょっと見してみい」


「大丈夫だよ、ここで生活してたらすぐに思い出すよ。だからもっとこの村のことについて教えてよ」


「やけに他人行儀じゃな、たけるはもうこの村の人間なんじゃ。周りの人たちが何を言ってもここにいてええんだよ」


 たけるは元々この村の人間ではないということか。詳しくその話を聞きたいが今は無理だろう。本当に詳しく聞きたいんですけれども。


「おっと、話がずれたね。と言っても、この村についてはそこで盗み聞きしているリンに話してもらった方がよかろう」


老女は閉まっている扉を眺める。


「なんでばれたの!?」


 先ほど外へ飛び出したはずのリンがそこにいた。帰ったフリをしてずっと話を聞いていたのであろう。


「リンや、たけるに村を案内してやりなさい、記憶を取り戻すにはそれがいい」


「え、え、え、それってもしかしてデーt……」


 リンが老女に村案内を頼まれ頬を赤く染める。


「しょうがないわね!! たける行くわよ!!」


テンションが高くなったリンに腕を引っ張られ私は老女の家を後にした。それにしてもあの老女、もう長くはないな。




♦♦♦




「ここが村の畑であそこが私の家、あそこがたけるの家であそこが村長の家」


 リンに連れられ村を案内されるが大して広い村ではない。10分もかからず村案内は終わる。気になったのは衣装たけるの性格だ。案内の途中、すれ違う村人何人かに挨拶をしてみたが全員よそよそしい。この衣装たけるは内向的な性格で、この村に来てから周囲と馴染めなかったということだろうか。


「それにしても懐かしいわね、初めてたけると会った時もこの場所だったわね」


 村の入り口に着くとリンが思い出話を始める。過去のことを話すことで記憶を思い出させようとしているのだろう。


「初めて会った時はね、1年前ぐらいでたけるすごい傷だらけで私がそれを助けたんだよ。なんか魔物の言葉がわかるって言っててね、行く場所もないって言ってたからこの村に住めば?って言ってこの村に住み始めたの。でね、もし記憶が戻らなくても私がずっとそばにいてあげれるから、心配しなくていいんだよ」


 この衣装たけるは魔物の言葉がわかるのか。人間がそんな能力があるとは聞いたことがなかったな。村人たちがやけによそよそしいのもこの村の部外者だという点が大きいのだろう。部外者に加えて魔物の言葉がわかるとなると、この閉鎖的な村では居場所は多くないだろう。


「たける、ちゃんと聞いてた?」


 この少女もなんと優しい心の持ち主なのだろう、恐らくはこの衣装たけるに恋心を持っているのだろう。恋心を持った相手が記憶喪失で帰ってきたとなると気が気でないだろうに、動揺を表に出さずに相手の気持ちを考え心配をする健気さ、とても素晴らしい。


 


 ただ、少女の願いはもう届かない。




 少女と話している、今この時間は、本当はあり得ない悪夢の時間なのだから。


 今自分が話している相手が恋心を持つ少年などではなく、自分が好きな少年の死体を着た魔物だと知ったら一体彼女はどう思うのだろうか。


彼女の反応に少し興味はあるが私は彼女に微笑みながら答える。




「そうだね、その時はよろしく頼むよ」




 私は身体を借りている身だ、死体いしょうは時間が経てば腐敗が始まる。この衣装たけるも持って1日というものだろう。私は1日の間、衣装たけるに成り代わり歩んできた人生を観察させてもらう。その際は最低限この衣装にんげんの尊厳を損なわないよう振舞おうじゃないか。




 私なりにね。

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