第2話 父の魔法


久しぶりに故郷こきょうに帰ってきた。

島の周囲を海が囲い、農業と漁業が中心の総人口20000人程の小さな離島。

若い人が少なく、少しずつしぼんでいく私の故郷。


私の故郷には高校までが、この島の中にある。

そして高校を卒業した多くの人が1度は島を出る。

残る人は高校を卒業した後、家業を継いだり地元を支える1人として生活を送る。

そしてまた島を出た人の半分が再びここでの生活へと戻っていく、そんな故郷ところ

私はと言うとそのどちらでも無く。

島を出た後は本土の大学に進み、そのまま其処の土地に残っていた。


私は思い返していた。

故郷に帰るのは数年振りだろうかと。

別に映画やドラマ、漫画のように自分の夢を叶える為、親の反対を押し切って家を飛び出したとか、家業を継ぐのが嫌で飛び出したとか、そう言う訳では無く進学の為に見送られて島を出たので、実家に帰りにくいとかそう言う事は無い。

事実、成人式や冠婚葬祭等もそこそこに帰っているのだが、今回のように誰にも連絡せずに帰るのはう無い事だった。


私の故郷は離島にある。

電車や車でパッと帰れる所では無い。

帰る為には飛行機と船に乗る必要がある。

だから帰る為には帰る準備がいる。

帰る理由やそれぞれに必要なチケットがいる。

いつもは帰る理由を親に話し、帰る為の理由のチケットを手に入れる。

でも今回はそれが無い。


故郷に着いても私は真っ直ぐ実家には帰らず、学校や学生時代に通った地元のラーメン屋を巡った。


変わらない学校の建物。

変わってしまっていた制服。

無くなってしまっていたラーメン屋。

新しく入っていたチェーン店のラーメン屋。


何処か同じで何処か違う。

変化があるし変わらないこともある。

それが確かめたくて、故郷に帰りたくなったのかもしれない。


狭い故郷だ。

見る所も限られている。

程なくして私は実家へと帰る。


「ただいま」


実家は田舎だから鍵など閉めない。

私は玄関のドアを開け中へと入る。


「あれ、お帰り。どうしたの?帰ってくるなら連絡してくれたら良かったのに」


母が驚いた顔をして玄関まで迎えに来てくれた。


「急に2~3日、仕事が休みになってね」


私は靴を脱ぎながら母に答える。


「そうなの?それでも連絡くらいはやっぱりくれたら良かったのに。あっ、そうだ。ちゃんとお父さんにも挨拶しておいで」


母は台所に戻りながら私に話した。

私は母の言葉を聞きながら、奥の父の部屋へと向かった。父の部屋の扉を開けると少しひんやりとした空気が廊下に流れてきた。


「ただいま。父さん」


私は部屋の中に入ると父に話しかけた。

そして線香に火をつけて仏壇の前で手を合わせた。



大学に行く前に父は一言だけ私に言葉を残した。

「いつでも帰っておいで」

私が故郷に帰る為に父がくれたチケット。

帰る理由を作ってくれていた父の言葉。


私は今 ここにいる。


「今日の晩御飯、折角あんたが帰ってきたんだからあんたの好きなカレーにしよっか。甘口のカレー粉買いに行かなきゃ」


母が台所からそう、声をかけてきた。


「有り難う。でも、もう子供じゃないんだから甘口じゃなくてもいいんだよ」


私は父の顔を見て笑いながら母にそう答えた。


















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