スイコ
スイコ
それは『仮の名前』
彼女は 名前すらもつけてもらえず 親にも愛されなかった
周囲に認知されることもなく ひっそり生まれ ひっそり亡くなった
親より先に亡くなる子供は『親不孝』とされ
永遠にも思える長い時間 ただひたすら 石を積み続ける
一つ積んでは父を思い 二つ積んでは母を思う
しかし せっかく子供たちが作った石の塔は 鬼によって破壊される
それでも積み続けなければいけない
それが、 親不孝者になってしまった子供に与えられた罰
しかし 近頃その罰が与えられない子供が多くなった
何故なら彼らは 思う人間がいないから
誰にも愛されず 誰にも大切にされず 誰にも手を合わせてもらえない
そんな子供たちは 河原をただボーッと眺めているだけ
スイコにも 産んでくれた母親や父親がいた
だが 生まれたばかりのスイコは
愛されることなく 惜しまれることなく死んでいった
そして 冷たくなった彼女は 気がつけば河原に立っていた
そこには 愛する父や母のために 延々と石を積み続ける子供たちがいる
「お母さん、先に逝っちゃってごめんね」「お父さん、大好きだよ」
そんな言葉の数々でさえ スイコは羨ましかった
言葉を教えられる事なく亡くなってしまったスイコ
両親の温もりを感じる事なく亡くなってしまったスイコ
せめて 父か母 どちらからでもいい
ほんの少しでもいい 愛情を注がれていたなら 川辺に留まることもなかった
名前を与えられていたら 優しい言葉をかけられていたら
自分の死を 悲しんでくれる人がいたら
スイコにはそんな人はいない 自分の死を憐れむ人すらいない
産んだ母親は 出てきたスイコを病院に連れて行くでもなく その場に放置
彼氏のもとへ相談に行っている間に 事切れてしまった
事が発覚することを恐れた二人は 我が子をコインロッカーに
そのまま放置されたスイコ・・・の入っているロッカーは 業者へ引き渡される
しかも そのコインロッカーは中身を確認される事なく
中にいた彼女も まとめて処分された
こうして 誰にも存在が知られることなく亡くなってしまったスイコ
言葉どころか 愛情も知らぬまま終えてしまった人生だった
だが そんな子供たちが河原で溜まってしまってはいけない
そこで スイコ達に貸された『あの世へ行くための条件』は
愛されて 死になさい
そこでようやく 石を積むことが許される
「やぁ、君も私の仲間だね。今回で『何回目の家』?」
「___4回目。」
「そっか、じゃあ私の方が先輩だ。
だってもう、『50年以上』は頑張ってるんだから。」
「えっ・・・・・」
「まぁ頑張ってよ。」
「こんにちは、あなたも私の仲間ね。」
「煩い、近寄らないで。私は『今度こそ』逝くんだから。」
「そっか・・・・・まぁ頑張ってね。」
「あれ? 君も仲間かー」
「やぁ、もう『何十回目』くらいだよ、仲間を見つけたのは。
君はどう? どれくらい家を渡り歩いたの?」
「地方の田舎だった時もあれば、大都会だった時もあるかなー
___まぁ、私は相変わらず、留まり続けてるんだけどね。」
「じゃあ私もそれくらいは覚悟しないといけないのかぁ、先が思いやられるなぁ。」
「それはお互い様だよ。私もできる事なら、早く『川辺』に行きたいんだけどね。」
だが、最近『河辺にすら行けない子供』が、増えつつあるのが現状である。
地上を泳ぐ子供たち @akaneironofude
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます