小楢(こなら)家 8

「_____スイコ、お前こそ


 『須田さんの息子』を


 突き落としただろ?!!」


「あ、見てたんだ。

 だってさ、酷いこと言われたんだよ


「お前も、お前の家も、本当の家族じゃないじゃん!」ってさ


 私の苦労も知らず、ケラケラとさ。

 生まれた時から、何もかもに恵まれている事も知らずに。

 だから、突き落とした、川に。


 きっと川のなかで、家族を思いながら、必死に帰ろうとしていたんじゃないかな?

 でもまさか、見られていた・・・なんてね。」


「っ!!!」


「『今度こそ』って思ってたんだけどなぁ・・・」


 仁がスイコの話を呆然と聞いていると、いつの間にかスイコが、仁の目の前に来て

 いた。

彼女の目は虚ろで、感情もない。その目が、まるで自分を責め立てているように感じた仁。

 

 ___いや、分かっていた。スイコが自分を許さない事を。

今までずっと、誰に許しを乞うわけでもなく、ひたすら『弁解』と『言い訳』を繰り返してきた仁を。


 しかし、やはり仁も、自分が可愛かった。他者よりも、自分の方が大事。

つぼみも自分を守るため、『共犯者』であった仁を置き去りにして、逃げたのだ。

 そして、仁もつぼみも、考えることはほぼ同じ。

仁は原太と同様、片手を振り上げ、「離れろぉぉ!!!」と叫ぶ。




 しかし、それよりも先に、『スイコの足』が、仁の胸を押す。

そして仁はそのまま、後ろにある用水路へと転げ落ちる。

 川へと落ちる最中、仁は水路の壁に頭をぶつけ、着水すると同時に意識を失う。

これでは、いくら用水路でも、陸地に戻っては来られない。


 スイコは、白目をむきながら流れていく仁を、哀れな目で見続けていた。

発見されるまでどのくらい時間がかかるか分からない。

 もしかしたら、見つからないままかも。

___そう、つぼみが『流した子供』のように、誰にも気づかれずに。






『集落全焼 火元から2名の遺体を発見 奇跡的に生き残ったのは小学生

 川の下流からは男性と男児の遺体 逃げる際に足を踏み外したか


 今日未明、○○県◇◇市の△△集落にて火事があり、集落全体を焼く大火事になり

 ました。

 消防の調べによると、火元は集落から少し離れた、森に近い家屋。


 そこからは焼死体が2名発見され、警察の調査によると、その2名は連絡のとれて

 いない、集落の住民である可能性が高いとのこと。

 しかし、遺体の損傷が激しく、はっきりした身元の特定は難しいとの事。


 家事が起きた際、集落の住民は大方避難したものの、唯一逃げ遅れた小学生の女の

 子は、無事発見されました。

 その小学生の供述によると、


「おじいちゃんが私を川の向こうに投げてくれた。

 でもおじいちゃんは流された」との事。


 供述によって、用水路の下流から、小楢 仁(63)が発見されました。

 さらに、警察が下流にある沼を調べたところ、行方不明だった 須田 まことくん

 (7)も発見。


 二人とも、肺に水が入ったことによる溺死と判明。

 小楢 仁さんの頭部には打撲痕がありましたが、「用水路に落ちた際にできたもの

 である」と、専門家は述べています。




 家から出火して、周囲の森林にまで及んだ今回の火災。

 未だに鎮火はしておらず、他県からも消防車を派遣しているとの事。

 出火に至った経緯は、火元で発見された遺体が激しく損傷している為、捜査は難航

 しています。』

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