小楢(こなら)家 2

「お父さん、お母さん、おじいちゃんは、あのままで大丈夫?」


「いいのいいの、飲みすぎて体が冷えても、『自業自得』なんだからさ。

 それに、おじいちゃんはそんなに弱くないからね。」


「スイコちゃん、そろそろ寝ないと、また朝慌てるから、もう寝なさい。」


「はーい、おやすみー」


「おやすみ」「おやすみー」


 スイコを引き取ってから、約一ヶ月が経過した小楢家。

もうすっかり、スイコのいる生活が当たり前になった三人。

 学校でも、スイコはお友達を沢山つくり、学校が終わると三人に報告して回る。

宿題を忘れかけて、怒られることもしばしば。


 そして、スイコは三人の仕事場でもある畑に来ては、一緒に野菜作りをしている。

ちょっと力加減が分からなくて、『雑草』ではなく『苗』を毟ってしまう事も。

 まだ農作業に慣れていなかったつぼみも、そんなミスをしょっちゅうやらかした。スイコを見ていると、自分がまだ初心者だった頃が懐かしく感じるつぼみ。


 原太とつぼみは、家で自分たちの作った野菜を産地直送するホームページを作成・

 管理している。

近くの道の駅にも、週に何回か、三人がつくった野菜を売りに行く

 

 慎ましくではあるが、きちんと生活できる。

スイコが混じっても、経済面は特に問題はない。


 毎日野菜の出る食卓に文句一つ言わず、家内に虫が入ってきても動揺しない。

これ以上にないくらい、スイコは良い子で逞しい。

 最初は色々と戸惑うことが多くて、家族間でもめる事も覚悟していた三人。

だが、今ではスイコのいない生活は考えられなくなっていた。


「スイコ、此処での生活に慣れてくれて、本当によかったね。」


「そうね、私よりも生活に順応できて、ちょっと妬いちゃうくらい。」


「おいおい、スイコはまだ子供なんだ。大人より変化に対応できるのは当たり前だ。

 ___でもいずれ、「こんな田舎は嫌だー!!!」とか言う日が来るのかなぁ。」


「何年後の心配してるのよ。」


 原太の部屋で、彼に寄り添うつぼみ。

二人は、これから続くであろう、穏やかで幸せな生活を、心から楽しみにしている。

 スイコの未来を、時には心配して、時には期待する。


 仁も、賢くて可愛い孫に、毎日べったりな様子。

時折電話で、親戚にスイコを自慢している。


「あの子は俺が疲れているのに気づいて、冷えたお茶を持ってきてくれる。」


「小学一年生なのに、もう俺や息子たちの名前を漢字で書ける!! 

 あの子は天才だ!!」


「今時の女の子は、どんな物を買ってあげたら喜ぶだろうな・・・」


 仁はすっかり、スイコを溺愛して、暇さえあればスイコと一緒にいる。

前は暇になると、そこら辺をブラブラするしかなかった仁。

 彼の変化に、原太もつぼみも遠くで見守っている。


 スイコを引き取ったことで、一番喜んでいるのは、仁だった。

仁の妻は、原太を産んですぐに亡くなり、男手一つで彼を育てた。

 高校・大学と、この集落を離れ、地方の寮に住んでいた原太。

バイトをしつつも、学費はほぼ仁が出していた。


 そのおかげで、原太は大学を無事卒業。

卒業した原太は、大学で知り合ったつぼみを連れ、この集落に帰ってきた。


 仁は、「卒業できたら、好きなところで就職しなさい」とは言っていた。

しかし原太も、この集落から離れる事はできなかった。

 集落を離れ、寮住まいをした事で、原太は集落での生活が、一番住み心地が良い事

 に気付いたのだ。


 今は、何処にいても仕事ができる時代。

ネット等の設備が整っていれば、サイトの立ち上げや管理もできる。

 おかげで原太は、集落で一番ネット関係に強くなった。

おまけに『機械修理』も、大学時代に学んだ。


 だから原太は、この集落には必要不可欠な存在として、『村長』のような立ち位置

 になっている。

集落では数少ない『若者の力』が戻ってきた事で、集落の住民も彼を歓迎していた。


 そんな原太の家族の変化ともなれば、集落の住民も黙ってはいない。

スイコが集落の人とすぐ溶け込めたのは、スイコの元気で朗らかな性格もあるが、いつも真面目で愛情深い原太を、集落の人が信じているからこそ。


 もし原太に機械修理の才能があっても、農業が上手でも、集落の住民から良い印象 

 を持たれなかったら、スイコの件も『他人事』になっていた。

つぼみが集落の住民に気に入られているのも、それが理由である。


 今でも集落に原太が住み続けているのは、人の多い場所より、集落の方が居心地が

 良いのも理由の一つ。

だが、父親と一緒に過ごしたかったから・・・という理由が大きい。


 時には喧嘩して、言い合いになる事があっても、幼い頃からいつも一生懸命自分の

 面倒を見ていた父親が、原太に取っては『人生の見本』

人生の見本が、常に傍にいるだけで、安心感が違う。


 寮生活も確かに楽しかった原田。

しかし、その楽しさも、寮に入ってから数か月で、もう感じなくなった。

 『父の居ない生活』が、こんなに虚しく感じるなんて、思いもよらなかったのだ。

それくらい仁は、原太の人生を懸命に支えていた。


 仁の愛情を沢山受けてきた原太は、『常に』親孝行ができるように、集落へ戻る。

そして、将来共に小楢家を支えてくれる彼女と共に、一緒に楽しく生活する事こそ、親孝行になる・・・と考えたのだ。




 つぼみは元々病弱で、講義やサークルに、無理をして出ることもあった。

体調の弱さのせいで、頭は良いのに単位が毎回ギリギリ。


 そんなつぼみと原太が出会ったのは、『菜園サークル』

大学の敷地内にある畑で、野菜や花を育てる。


 本格的な『大会』や『作品発表会』があるわけでもない。

ただ農業や花が好きな学生が集った、かなりゆるいサークル。

 目立った行事といえば、学園祭に育てた野菜でつくった料理や、『押し花』『フラ

 ワーボックス』を売る。


 毎年資金ぶりに困っていた菜園サークル。

だが、原太の培った農業技術や知識で、彼が部長を務めていた期間は資金ぶりが順調だった。


 それに、菜園サークルに『花』のジャンルを持ち出したのも、原太の発案。

寮暮らしをしてからというもの、あちこちが灰色で覆われた世界が、息苦しく感じていた。


 そんな自分の生活に、少しでも彩りを与える為でもあり、菜園サークルの『女性部

 員』確保の為。

つぼみが菜園サークルに通ったのは、彼女の体調に合った、のんびりしたサークルだったから。


 畑の手入れは体力勝負だが、押し花やフラワーボックスなら、座りながらでも、お

 喋りしながらでも作れる。

おかげでつぼみは、サークルで初めてキャンパス仲間をつくる事ができた。


 彼女の作る作品は、学園でも割と有名に。

そこからつぼみは、『ハンドメイド』や『花に関する資格』を調べた。

 病弱な体でも、しっかりお金が稼げる道を自ら発見する。


 原太は幼い頃から根が優しく、明るい性格。

あまりサークルに来ないつぼみの事も、熱心にサポートしていた。

 つぼみは原太のサポートもあって、無事に大学を卒業。

その後も、もう既につぼみは決めていた。


 自分に楽しい大学生活を送らせてくれた原太とは、どんな形でもいいから、これか

 らは自分が支えたい。


 そんな考えを巡らせている最中、つぼみはたまたまサークル活動中、原太の実家が

 どんな場所なのか聞いた。

都会生まれのつぼみには、異国の話に聞こえたものの、つぼみは本能的に感じた。

 原太さんの住う集落なら、自分の体調も少しは落ち着くのではないか・・・と。


 そんな彼女の予想は大当たり。

こっちに来てからは、病院へ頻繁にに通う必要もなくなった。

 原太の父親である仁も、つぼみを気に入っている。


 集落の過疎化が心配される昨今、息子だけではなく、将来結婚してくれるパートナ

 ーも一緒に住んでくれるのなら、文句なんてつけられない。

最近では、集落に引っ越して来る都会の人も徐々に増えて、その人たちの面倒も、原太やつぼみが見ている。


「そういえば、この前引っ越してきた須藤さんの息子さん。

 この前私に、「『ようじょ』って何?」って聞いてきたの。」


「それは・・・・・説明が難しいな。」


「多分、スイコが喋っちゃったのね。

 あの子、まだ小さいのに、そうゆう知識は覚えちゃってるんだから・・・」


「あはははっ、まぁ俺も小さい頃はそんな感じだったよ。」


「___まぁ、私もそうね。

 何かと『難しい漢字』とか『難しい言葉』を覚えては、友達に自慢して。」


「多分スイコも、そこまで詳しい事は、まだ知らないんだろう。

 須藤さんとこの息子さんも、数日経てばケロッと忘れてるだろ。


 父さんですら、施設に見学へ行くまで、『養子縁組』については何も知らなかった

 んだから。

 子供が理解できる筈もないよ。」


 三人が養女を引き取ることにした、そのきっかけは、つぼみの体質。

つぼみが集落で暮らし始め、その生活に慣れてからしばらくして、車で約1時間もかかる産婦人科に行った原太とつぼみ。


 『結婚』を考えれば、当然『妊娠・出産』も考えなければいけない。

せめて結婚する前に、つぼみの体を調べてから、今後について考えようとした。

 診断結果によって、小楢家の今後も変わるかもしれないから。


 しかし、医師からの診断結果は、原太やつぼみも、薄々分かっていた。

やっぱり出産した際、母子共に健康なのが望ましい。

 出産中のトラブルならまだしも、事前に出産が危うい事が、予め分かるに越したこ

 とはない。


 案の定、つぼみは妊娠が難しい体質だった。


 だが、それを仁に直接伝えることができなかった二人。

口には出さないが、仁も孫を楽しみにしている様子だった。

 親戚にいる『孫持ち』の話を聞いていると、どうしても憧れてしまう。

仁はその気持ちを隠していたのだが、時折そんな心情が伺える言葉が漏れていた。


「孫を持つって、どんな感じなんだろうな」

「俺もまだ、孫を抱けるくらいの力があるかな?」


 そこで原太は、『養子縁組』についての情報を、ネットで調べた。

色々と条件があることを知り、研修も三人で受けた。

 その後、三人はスイコと出会い、彼女を小楢家に迎え入れることに。


 スイコの実の両親は、実の娘を残して『夜逃げ』 今も行方は分かっていない。

施設の職員ですら、「希望は薄いと思います・・・」と言う始末。

 

 これには三人も、怒りを隠せなかった。

実の娘を残して、自分たちだけ姿をくらます・・・なんて、『育児放棄』も甚(はなは)だしい。


 それでも、しっかり者に育っていくスイコを、施設の職員も哀れに思っていた。

「警察の人が発見してくれるまで、自分で何とかするのが当たり前になって・・・」

 と言いながら、目に涙を浮かべる職員には、三人も同情する。

いつも朗らかで明るい彼女からは、想像もつかないくらい、壮絶な過去。


 施設にいる子供たち全員に、何かしらの事情はある。そうゆう場所だから。

しかし、スイコに関しては、数少ない『訳あり物件』の一つ。

 彼女の過去を聞いてしまったからには、三人も責任を重く感じる。

それを知ってか知らずか、スイコはこの生活を心の底から楽しんでいる様子。


「やっぱり血じゃないよな。『親子』とか『家族』って。」


「そうよね。

 私も原太さんやお義父さんと一緒に生活していくうちに、この家が我が家みたいに

 なったの。

 

 今はもう、この場所以外のところで生活するのが、考えられなくなっちゃった。」


「そうか、それなら良かった。

 辺鄙な場所だから、長くても数ヶ月で、音を上げると思っていたけど。」


「確かに不便なこともあるけど、それ以上に『環境』と『美味しいご飯』と


 『理解者』の方が、便利よりよっぽど大切だったの。」


「___俺は、つぼみの理解者になれたのか。嬉しいなぁ。」


 原太は、つぼみの小さい肩を寄せ、額を彼女の頭に乗せる。

つぼみは一瞬ビックリしたが、すぐ彼に身を預けた。

 そしてそのまま、原太はつぼみの肩を撫でる。


 集落の真夜中は、車の走る音も一切聞こえない、静かな時間帯。

互いの耳に入ってくるのは、互いの心音。

 小さいけれどしっかり聞こえるつぼみの心音、大きすぎるくらいの原太の心音。

その音が、心地良く二人の全身を巡り、温かい温もりでいっぱいになる。


 まるで溶けるように、原太に身を預けるつぼみ。

この集落に来て、ようやく自分の生き方を見つめ直せた。

 忙しなく走る車や人々が目に入るだけで、心が焦ってしまう。

親族からの『小言』すら聞こえない、そんな場所を、つぼみは追い求めていた。


「そんなに体が弱くて、ちゃんとした場所で働けるの?」


「今は家にいても仕事ができるけど、仕事というのは、会社に行ってこそ・・・」


「専業主婦になるには、金持ちを捕まえるしか・・・」


 実の両親でさえ、つぼみの将来に対する不安を溢していた。

そんな生活からようやく抜け出せた開放感は、つぼみの体調を良い方向に導いた。

 つぼみにとって、一番大切な存在、一番そばに居てほしい存在は両親ではない。

自分の体質を理解した上で、ペースを合わせてくれる、原太や仁のような存在。


 大学で原太と知り合ってからは体調が見違えるほど良くなった。

つぼみの両親も一安心したものの、やっぱり心配になるのが親心。

 今は、そんな両親の小言もサラッと受け流せるくらい、つぼみは強くなった。


 仁はつぼみに、「畑仕事は心も体も鍛えられる!!」と言っていたが、言った本人 もびっくりするくらい、つぼみは心身共に鍛えられた。

挫けても、苦しくても、とにかく気長に頑張り続けた結果、いつの間にか原太と同じペースで草刈りができるようになっていた。


 サークル活動で、土いじりには慣れていたつぼみ。

だが、本格的な畑仕事は初めてだった。

 しかし、そんな彼女に対しても、二人は笑って教えてくれた。

そのおかげで、今は集落にすっかり馴染めているつぼみ。


 子供が産めない体でも、二人は落ち込むことなく、別の手段で家族を増やした。

こうして、3人の希望は、安定した形で、丸く収まる事に。


「ねぇ、結婚式は、スイコも一緒に出席させようね。」


「当然だよ、スイコだって俺たちの家族だ。

 父さんが側にいれば、トラブルにはならないと思うぞ。」


「スイコが式場で暴れる事はないと思うわよ。だってあの子だもん。」


「それもそうか。じゃあ今度の休みは、一緒に『スイコの服』でも買いに行こう。」


 結婚式場については、まだ決めていない。

まさかスイコが、こんなに早く家に馴染んでくれるとは思わなかったから。

 娘が家に馴染んてから、色々と決めようとしていた二人だった。


 しかし、まさかこんなに早く決めることになるなんて、誰も想像していなかった。

同居も成功、子供(スイコ)もできた、後は結婚式を挙げるだけ。


 原田とつぼみは、当初「結婚式は、無理してあげる必要ないよね」と言っていた。

しかし、お嫁さんが来てくれた事で、仁は二人の想定以上に喜んでくれた。

 「式の代は俺に任せろ!!」と言われてしまったら、挙げないわけにはいかない。


 原太には、なぜ父がこれほどまで、つぼみを歓迎してくれたのか、何となく分かっ 

 ている。

『集落』という『小さな社会』では、パートナーを探すのも一苦労。

 

 今はどの企業・商業でも『便利』が問われる時代。

不便が当たり前のこの集落は、ある意味この世界から切り離された、『独自の世界』

 ホラー映画や漫画で、題材になってしまう『集落』や『村』

この時代では、『不便』=『ホラー』なのかもしれない。

 

 それでも原太と一緒に、この集落へ住んでくれる女性は、仁にとっても、とてつも

 なく絶好な存在。

親戚に自慢しても、最初は信じてもらえないくらい。


 仁は、もうつぼみを『小楢家』の一員として認識している。

そして、また新たにスイコも一員として、小楢家に加わった。

 今の仁は、これ以上ないくらい、幸せな気持ちを抑えきれない。

だから、飲むお酒の量も増えてしまう。ここ最近、仁は毎日浮かれている様子。




「_____お父さん?」


「うわぁぁ!!!」 「ひゃっ!!!」


 二人で寄り添い合い、『いいムード』になってきた二人。

その後ろで、純粋無垢な子供の声が。

 互いに後ろを振り向くと、眠そうに目を擦りながら、こちらを見ているスイコが。


 焦った二人は、まるで磁石の同極と言わんばかりに、勢いよく離れる。

その拍子に尻もちをついた原太が、慌てて体勢を戻す、まるで『ピエロ』のような姿は、一周回って滑稽に見えた。



「す、スイコちゃんトイレかな??」


「うん、でもどこだったっけ・・・

 ふわぁぁぁ・・・・・」


「あはははっ、寝ぼけてるのか。お父さんが連れて行ってあげようか!」


「うん、ありが・・・


 ドゴォッ!!!


「いちゃぁ!!!」


「おいおいスイコ!!」 「スイコちゃん!! 大丈夫?!」


 寝ぼけながら歩いたせいで、柱に頭を打ちつけるスイコ。

つぼみがスイコの額を確認したが、血は出ていなかった。

 原太はスイコを抱き上げ、トイレへ向かう。

もしこのまま歩いて行ったら、またどこかにぶつかりそうだったから。


 その最中(さなか)だった。



「お父さん、「『血』じゃない」って何?」


「っ!! 

 スイコ、聞いてたのか?」


 原太の心臓は、一瞬だけ跳ね上がった。


「私ね、お父さんもお母さんも好きだよ。でも、私は『本当の子供』じゃない。

 _____お父さんは、私が本当の子供ならよかった?」


「___そうだな。

 でも、今が幸せなら、そんなの関係ないだろ?」


 原太は無事にスイコをトイレへ連れて行き、自室へ戻してあげた。

一応、彼は障子の隙間から様子を確認した。

 だが布団に飛び込んですぐ、スイコは寝息をたてる。

安心した原太は、またつぼみの部屋へ戻ろうとする。


(_____まさか、な。

 あの子は色々と気が回るし、賢いけど、そこまで深い知識はない

 ・・・と思いたい。


 でも、まだ子供なのに、『生まれの親』と『育ての親』を別個にしなくちゃいけな

 いのは、かわいそうだな。

 仕方ないことではあるんだけど・・・・・


 『賢い』っていうのも、考え方によっては残酷なのかもな。

 元から賢かった子なのか、それとも、境遇のせいで・・・・・



 ___ん?)


 原太がつぼみの部屋に戻ると、廊下に『大きな影』が伸びていた。

さっきまで居間で寝ていた筈の父が、つぼみと話し合っている。

 部屋に原太が戻ると、二人は口をつぐんだ。

そして、二人とも、目を泳がせている。


「___スイコちゃん、もう寝たのか?」


「あぁ、結構寝ぼけてたみたいで、トイレを終えて戻ったら、すぐ寝ちゃった。

 ___というか父さん、ちゃんと布団で寝ないと、また頭が痛くて明日起きられな

 いぞ。」


「もう既に痛くなっちまったんだよ・・・・・イデデデデデ!!」


 顔を歪ませながら頭をさする仁に、二人は呆れ顔をするしかない。

こんなやりとりを、今年に入ってからもう十数回はしている。

 

 集落の桜並木へ、お花見に行った時、頭が痛くて運転できず、結局数日は頭の痛み

 が取れなかった。

それから、しばらくはお酒の量が減ったのだが、スイコが来てからは、またその量が増えてしまう。


 原太は、父を部屋へ連れて行き、つぼみは寝る準備を始める。

せっかく良い雰囲気だったのだが、横槍が『2本』も入ってしまった。

 布団を敷いて、父を寝かせ、戻る頃には、もうつぼみは布団のなかにいた。


(___『家族が増える』っていうのも、良いことばかりじゃないか。

 それもそっか、なんか、安心した。)


 布団に入った原太は、隣で寝ているつぼみの手を握ると、彼女も握り返す。


「_____あのさ、つぼみ。」


「何?」


「さっきの話さ、スイコが聞いちゃってたみたいなんだ。」


 その言葉を聞いたつぼみは、原太の手を一瞬だけ強く握る。

びっくりしているのだ。


「___でも、そんなに気にする事ないと思うぞ。

 あの子は賢いし、勘のいい子ではあるけど、明日になれば忘れてるよ。」


「_____そうかな?」


 つぼみも原太と同様、少なからず心配している様子。


「そうだって、俺もガキの頃は、昨日のよりも明日の方が大事だったし。

 

 「歯医者行くって何度も言っておいたのに、山へ遊びに行ったんだー!!!」


 って、よく父さんに叱られてたな。」


「ふふっ、そういえば私も。」


「今は『週末のお出かけ』のプランを考えておいた方がいいと思う。

 町に行ったら、色々と買い足さなくちゃいけない物があるからな。」


「そうね、必要なものはメモしておかないと・・・」


 気づけば二人は、布団のなかで向かい合いながら、お出かけの話で盛り上がる。

家族揃って町に行くのは、集落の人間にとっては『特別』

 1時間以上車を走らせないと、ショッピングモールには辿り着けない。

でも、まだまだ町でやらなければいけない事はたくさん残っている。

 

 どんなウエディングドレスがいいか どんな式のプランがいいか 

 スイコにはどんな服を着せてあげようか 

 式場でスイコにどんな料理を食べさせようか

 集落の人も招待するか 招待するとしたら、何人くらいがいいか




 そんな話をする二人を、『小さな二つの瞳』が覗いていた

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