第19話 バディ

 エイスケとハルは、第十二課テミス拠点内の訓練室に集まっていた。対面にはローマンとアレクサンドラが武器を構えている。再び、エイスケ・ハル対ローマン・アレクサンドラで模擬戦を行うのだ。


「何度戦っても同じことです」

「ほっほっほ。油断してはいけませんよ、サーシャ」


 柔和な笑みのローマンと、真顔のまま静かに闘志を燃やすアレクサンドラ。どちらも、自分たちが負けるはずがないと思っている。その余裕を、エイスケとハルは引き剥がす策を持ってきた。

 シンリが確認するようにエイスケとハルに問いかけた。


「エイスケ、ハル、やれるのか?」

「ああ」

「問題ない」


 二人で力強く頷く。先日とは打って変わったエイスケとハルの態度に、シンリは生真面目な表情のまま深く何度も頷く。


「どうやら、バディとしての自覚が芽生えたようだな。ついにチームワークの重要性を理解して貰えたようだな。見せてもらうぞ、二人の絆を」


 シンリの表情は変わりにくいため分かりづらいが、どうやら感動しているらしい。模擬戦を行うたびにチームワークを説いていた苦労が報われたのだ。感無量だろう。

 四人がそれぞれ構えて準備が完了すると、シンリが模擬戦開始を宣言した。


「それでは、始め!」


 試合開始の合図と共に、エイスケは巨大な障壁を部屋を割るようにして張った。部屋を真っ二つに割る、巨大な障壁。

 エイスケとローマン、ハルとアレクサンドラがそれぞれ『不可侵』の障壁によって分断される。


「は?」


 シンリの唖然とした声を聞きながら、エイスケは得意気に宣言した。


「俺は気付いた。ハルのことを理解するのは不可能だとな!」

「僕も気付いた。どうやら悪役ヴィランとバディを組むのは向いてないらしい」

「「だが、背中を少しだけなら預けてやってもいい」」


 譲れぬ確かな悪望がある以上、真に悪役ヴィランを理解することなどできないというのがエイスケとハルの結論だった。お互いの道は平行線で決して交わらない。しかし、同じペースで歩くことならできるかもしれない。

 エイスケは障壁越しに拳と拳をハルと合わせる。


「負けるなよ」

「そっちこそ」


 こうして状況を分断すれば、エイスケとハルはそれぞれの敵に集中できる。

 互いのソロプレーの盤面を整えるところまでがエイスケとハルのチームワークだ。エイスケはハルのことを意識から手放し、目の前の敵に集中し始めた。




 十分後、エイスケとハルは仲良く倒れ伏していた。


「負けてんじゃねえか」

「そっちこそ」


 障壁で状況を分断するという手段に無理があった。ハルの『正義』の悪望能力がたやすくエイスケの障壁を砕いてしまうため、あっという間にローマンとアレクサンドラに合流され、チームワークの差で見事に敗北してしまったのである。


「障壁をその剣でバリンバリン割ってたら分断の意味無いでしょうが!」

「透明で分かりづらいんだよ! 次から障壁を虹色に輝かせろ!」

「無茶を言うな!」


 エイスケとハルがうつ伏せのままいがみ合っていると、二人に影が落ちた。


 見上げると、シンリが見たこともない笑顔でこちらを覗き込んでいる。その笑顔には、二人が全く話を聞いていなかった怒りが混じっているようにも見えるし、二人に気持ちが全く通じていなかった哀愁が混じっているようにも見えた。分かるのは、今から、過去最大の説教が始まるということだけだ。


「「やべ」」


 エイスケとハルは一目散に逃げ出した。

 後日『秩序』の悪役ヴィランに聞いたところ、エイスケとハルの逃避行は、それはそれは息が合っていたという。

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