第59話 裸一貫の怒れる男


「何故だ!何故動ける!!

奴隷の腕輪は〈解放の呪文〉でしか外せない呪いも有るんじゃないのか!?」


と騒ぐフロントの野郎に、


俺は、


「予定が狂って悪かったな…

今まで色々と思い通りに成って来たようだが、


あんまり調子こいてると…


てめぇのフロントに付いてるボールを引きちぎるぞ!ゴラァ!!」


とフロント侯爵に、調子こいている事について〈制裁を加える〉と、丁寧に報告をすると、


得体の知れない者に、えも云われぬ恐怖を覚えたフロントの野郎は、


「者共!あやつを…あやつを殺せ!!

見事殺した者には褒美を与えるぅ!!!」


と、裏返る声で叫びながらへっぴり腰で兵士の裏に隠れる…


既にフロントと地下まで降りて来ている兵士数名が笛を鳴らすと、


兵士がぞろぞろと階段から降りてくる…


そして、


隊長らしい男が、


「構わん殺してしまえ!」


と指示を出す…


すると、剣を構えた数十名が俺に向かい〈ジリジリ〉と、迫ってくる。


〈放っておいたら数が増えそうだし、フロントが逃げると厄介だ…やるぞ!〉


と、腹をくくった俺は、


「殺そうとするのなら、殺されても文句はねぇな!


大事な兄妹を拐ったんだからきっちり罰は受けて貰うぞ!


来いよ三下!!」


と言って獣人族の師匠達から教えてもらった、〈闘気〉を使った遠距離攻撃〈遠当て〉で先頭の数人を吹き飛ばす。


そこそこ広い場所では有るが、壁まで飛ばされた兵士が〈グエッ〉と鳴きながら壁に叩きつけられる…


一瞬他の兵士が怯むが、隊長格が、


「怯むな!取り囲め!!」


と、叫ぶ。


数で何とかしようと兵士達がわらわらと俺を取り囲み始める…


そして、兵士の列の後ろに数名の貴族も見え、


フロントの野郎が安心したのか偉そうに、


何か指示を出している…


隊長格の、


「かかれ!」


の合図で斬りかかる兵士達だが、


体術スキルに、獣人族の移住組にしごかれた〈闘気〉を使った戦い方で、


相手の攻撃をかわして〈フッ〉っと撫でる様に衝撃波を強化して触ると、辺りを巻き込み吹っ飛ぶ兵士は、在らぬ方向に曲がった手足を庇いながら唸っている…


〈一撃で死なない様にはしているつもりだが、実戦で上手く手をぬける程の経験も無い。〉


〈痛いだろうが許せ…〉


と、思っている、次の瞬間、


「この化け物がぁ!」


という声と共に四方から炎が襲いかかる…


〈流石、腐り切っていると云えど貴族だ…魔法も撃てる様だ…〉


俺は、息を止め、全身に闘気を纏い〈防御力〉を上げて炎を我慢しながら反撃の機会を伺う…


しかし、炎に焼かれ、俺の装備〈青いツナギ〉が焼け落ち、


うっすら焦げた俺は、全裸の姿に成った…


フロントの野郎は、


「ゲヘヘヘヘッ。


良い気味だな…パンツの使徒様のパンツすら焼け落ちたらしい、


全裸の使徒とでも改名すればどうだ?」


とご満悦だ。


俺は、アイテムボックスからハイポーションと脇差しを取り出し、


〈グビリ〉とハイポーションを煽った後に、


脇差しを引き抜き、


「ガタガタうるせぇなぁ!

兵士も貴族もまとめて相手してやるよ。


俺は、全裸でも強いぜぇ~。」


と構える。


〈剣の道ならばそこらの兵士に負けない自信がある…あれ程キツくて死ぬ思いで身につけた剣術が今、役に立つ事になるとは…〉


と複雑な気持ちになるが、


厳しくて嫌いだったが…〈じいちゃん〉…ありがとう…


と素直な気持ちで、前世の剣術の師匠である祖父を思い出し感謝した。


全裸に愛の指輪と脇差し〈無名〉の装備で、


6倍のスキルに2倍の祝福…つまり12倍の〈剣士〉、


そこらの兵士に負ける訳がない!


敵の動きを見てから動き始めても先に一撃が入れる事が出来る。


無名が煌めけば、血飛沫が舞い、


地下室に悲鳴が轟く…


俺は、


「鎧を着た兵士が素っ裸に勝てないのかよ…


悪事に手を染めてる暇が有ったら鍛練に励めよ。」


と呆れながら皮肉を言っていると、


「ゲヘヘヘヘッ


残念だったな、動くなよ使徒様!


お前の可愛い、可愛い兄妹が丸焦げになるぞ!!」


と、ジルとシーラの入っている独房の扉に向かい手のひらを向けて、勝ち誇った様に下衆な笑みを浮かべるフロント…


しかし、俺は、


「好きにすれば?


俺は、その隙にここに居る全員を倒してお前もぶっ飛ばすだけだ。」


と宣言する。


「何故だ!兄妹が大事じゃないのか?!」


と吠えるフロントに、


「どの口がその台詞をたたく!?


イナリーさんに罪をかけて、追放させようとしたのはドコのどいつだ?!!


…まぁ、イナリーさんからお前を捨てたのだかな。


先に言っておく、ジルとシーラにはこれ以上、指一本触れさせない!


やりたければやれよ…


それでも俺は、二人を守る!!」


というと、


フロントの野郎は、


「何を訳のわからない事を!


吠え面をかかせてやる!!」


と炎魔法を放つ…


真っ赤な炎は扉を焼き、その奥の小部屋へと進もうとウネる…


俺は、アイテムボックスに脇差しをしまい、


本当の〈裸一貫〉で敵に向かい、


〈スーッ〉っと息を吸い込むと、


素っ裸に愛の指輪…16倍の状態で、


「いい加減にしろぉぉぉぉぉ!!!」


と声に〈強化〉を加え、過去最大の〈音爆弾〉を放った…


地下の閉鎖空間で使った為に過去最高の威力で敵陣営を叱りつける事になる。


俺以外の人間が〈バタバタ〉と意識から何から何まで手放し倒れて行き、


勿論フロントも白目を剥いて泡を吹きながら倒れている。


焼け落ちた扉の奥から、


「オナ兄ぃ、うるさいよぉ。」


と、少しご立腹のジルとシーラが、

七色の光りに包まれて現れた。


手には神様パンツを握りしめながら…


神様の、


「パンツは大事なモノを守る為にあるんだよ。」


というジョークを笑う事も忘れ、


二人は、俺に駆け寄り抱き…付こうとして…止めた…


そして、シーラは


「オナ兄ぃ、メッでしょ!


パンツだけでも履かなきゃ。」


と、呆れながら叱られた…


〈そう、扉越しに手を握った時に弟に神様パンツを渡して、神様に結界を張ってもらっていたのだ。〉


俺は、


「ゴメンね。」


と言って神様パンツを受け取り履こうとした時、


「くっせぇ!」


と顔を歪めるはめになった。


いそいそとアイテムボックスから服を取り出して可能な限り嗅覚の〈弱体化〉を目指した。


…なにせ、地下室で気絶している奴らは、


漏れなく漏らしていたからだ…


〈ゴメンよエルフの女性達…〉


とも、思うが、騙して麻痺針を飛ばしたから…俺は、ギリギリ悪くないよね…

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