第58話 ヌキッサス城突入


ドラゴンの速さは…チビりそうな程速かった…


正直、ドラゴンさんが結界を使えなかったら全員大変な事に成っていただろう…速度と寒さと、たまにぶつかる鳥魔物などで…


〈怖い、怖い…〉


しかし、そのおかげで二週間近くのかかる道のりを半日程度で着く事が出来た。


運良く夜の闇に紛れて地上に降り立った俺は、

皆に別れを告げて、


ツナギと愛の指輪の〈6倍スキル〉の〈2倍祝福〉状態で城の離宮を目指した。


城の離宮の地下には秘密の地下施設が有り、


歴代当主の遊技場と呼ばれる地下牢があるそうだ…


〈まさか、誘拐した直ぐに俺が来るとは思わないだろうが…余裕なのか?

見張りの兵士すら少ない…〉


城の石垣をカサカサと上り、


音、香り、そして暗闇さえも見渡せる目で、辺りを警戒しつつ、


壁を乗り越えて、城の中庭を突っ切り離宮の地下に繋がる中庭横の道具小屋を目指す。


にしても、やっぱり見張りの兵士が少ない…


ザル警備は有難いが…


あまりに順調だと不安しかない。


しかし、ジルとシーラを助けるのが先だ!


道具小屋に入り、床の扉を開くと階段が現れる…


〈隊長さんの言っていた通りだな…イナリーさんも知らない地下施設かぁ…〉


と、思いながら覗き込むと、


地下の方から明かりが差し込む…


階段をくだると、檻が並ぶエリアと工房の様な空間に、数名のエルフが見える…


エルフの女性達はほぼ裸の様な衣裳で、何かの薬草を調合している。


エルフの一人が、


「誰?」


と俺に話しかける…


「弟と妹を助けに来たものです…あなた方は?」


と、聞くと、


「一番奥の部屋に入れられた兄妹の知り合いなの?


お願い!私達もここから出して下さい。


私達をこの地獄から…」


と懇願するエルフ達…


先にジル達を助けたいが、ついでだしと、壁に掛けてある鍵を使い彼女達の檻を開けて、奥の檻をめざして進む…


あからさまにお楽しみ用のデカいベッドの有る部屋に、拷問器具の有る部屋…


有る意味〈お楽しみ部屋〉か?…胸くそが悪い…


そして、ドンつきの独房の様な狭い部屋に、ジルとシーラが閉じ込められていた。


「ジル!シーラ!!」


と呼ぶと、


「オナ兄ぃ!!」


と、二人は分厚い扉に駆け寄り、食事を差し込む扉の隙間から手を出す。


俺は、その小さな手を握り、


「今出してやるから少し待ってろ。」


と伝える。


シーラは我慢していた緊張の糸が切れた様で、

〈ヒック、ヒック〉と泣き出してしまった。


俺は、


「シーラ、大丈夫だよ」


と良いながら鍵の束からこの部屋の鍵を探していると、


〈チクリ〉と背中に痛みが走り、


意識が遠退く…


「うぅぅぅ…」と唸る俺の声を聞き、


ジルが


「オナ兄ぃ?…どうしたの?…何が有ったの?!」


と今にも泣き出しそうな声で問いかける…


俺は、フラフラしながらも、


「大丈夫だよ…を持ってシーラと一番奥で隠れてな…扉の側は危ないから…」


とだけ伝えると、


俺の後ろから先程のエルフの声がする…


「フロント様、本当にこれで里に返してくれるのですね…


これで…これでもう、〈夜魔の香〉を作らなくてもいいんですよね?!」


と…


すると、下品な笑い声と共に、


「どんな能力が有るのか知らないが、まさかこんなに早くお出ましとは…


使徒様宛の手紙はサウスフィールドの冒険者ギルドに向けて走っている最中だろうに…」


と、言っている…フロントの野郎…


そして、エルフ達は、


「フロント様、フロント様」


と、解放についての言質を取ろうと必死だ…


しかし、


「うるさい!」


と叫ぶフロントの声の後に、


「ぐあぁぁぁぁ!」


と苦しむエルフ達の声が響き、続けて、


「お許しを、お許しおぉぉぉぉ」


と叫びだす。


それを聞きながら楽しそうにフロントは、


「静かにしないか…私はオルナスの野郎が麻痺毒で痺れてる間にお前達と同じ〈奴隷の腕輪〉をはめて、生きながらにして地獄を見せてやるんだから…」


とウキウキで俺に近づき、


〈カチャン〉と金属製の腕輪を俺に着けた…


〈ゲヘヘヘヘッ〉とご機嫌なフロントは、


ぐったりしている俺を見て、


「おい、コイツはいつ頃起きる?!」


と、エルフの女性に聞くと、


怯えながらエルフの女性は、


「数時間はこのままかと…」


と答えているが、


フロントの野郎はイライラしながら、


「ケッ!使えねぇ…おい、!


お前とお前!時間潰しの相手をしろ!!」


と命令する。


すると、エルフの女性が、


「解放してくれるのでは?」


と抗議すると、フロントの野郎は、


「うるさい!解放などするわけが無いだろう!」


と言って手をかざすと、再びエルフ達が苦しみ出す。


叫び声を聞きながら満足そうにしているフロントは、


「ふん!もういい…


お前らは〈夜魔の香〉を作っていろ!


私は休む…〈執事長〉にコイツの仲間が来るかも知れないから索敵を怠るなと伝えておけ!!」


と指示している…


だが、残念…麻痺毒も、呪いの腕輪も俺には効かない…


〈裸一貫〉スキルで出力をあげて体に闘気を纏わせれば、


瞬時にして異常状態から回復する…


なので、勝ち誇り去っていくフロントに、


「残念だったな…お前の悪事は今回も神様経由で放送されているぞ」


と、腕輪を外しながら教えてやる…


〈さぁ、暴れるぞぉ!〉

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