第56話 嵐の前の静けさ
村を開いて一年…
サウスフィールドの街との交易で、少し潤って来ている。
元々冒険者も多く肉の流通が多い〈肉食文化〉の強い地域な事もあり、村の燻製肉が受け入れられた。
ミンサーも鍛治師ギルドに登録し、
ソーセージ等のレシピも商業ギルドに登録してある。
今ではサウスフィールドの肉屋が組合を作り、美味しい加工肉の研究に励んでいるらしい…
ソーセージやベーコン、更にはミンサーを使ったハンバーグ、更にはハンバーガー等の聖地と成ったサウスフィールドの街は以前より活気に溢れている。
何故ここまでウチの村の加工肉や、肉料理が広まったかというと、
料理長さんから話を聞いた辺境伯様が、
「是非とも屋敷に招待して、いけ好かない中央の貴族がカレーやトンカツを食べて悔しそうにしていた話をしたい。」
と、冒険者ギルドに招待状を託していてくれたのが大きな要因だ。
サウス辺境伯様は、なかなか気さくな領主様で、
売り込む予定の加工肉も大層気に入ってくれて、料理長も一緒に食い物の話で盛り上がり、
皆で旨いモノを作ろうと街をあげて取り組んでくれたのが大きい。
ご領主様は、他国や他種族の方々にも友好的に接して居るために、
俺が、
「ライスの栽培をしたい」
というと、知っている獣人族の米農家を沢山抱える村の長に〈農業技術支援〉のお願いの書簡を書いてくれた。
領主様は、
「中央の貴族をギャフンと言わせるレシピのお礼にはまだ足りないが、後はツケにしておいてくれ。」
と、笑っていた。
お隣さんといい関係が築けたのは喜ばしい。
それから、
パーティーで獣人族の国に向かい、
幾つもの集落を取りまとめる長に手紙を渡すと、米を作っている村に案内され、
一組の若い夫婦を紹介された。
彼らは農家の次男夫婦で本家の田んぼや畑を手伝って細々くらしていたが、自分達の土地が欲しいと考えていたところだったらしく、
技術を教える代わりに土地が欲しいと言われた。
土地は鍛治師チームにウマ用のスキを作ってもらい、村人総出で耕せば好きなだけ増やせるし、
大工チームが小屋も建てれるから移住は大歓迎だった。
家も畑も貰えると解り、
若夫婦の友達も二組、小作農家を止めて村に越して来てくれる事になり
ウチの村は新たに農家チームが増えた。
初年度は作付けは出来ないだろうと、獣人族の集落で、〈ライス〉と種籾を大量購入して村に帰り、
受け入れ態勢を整え、次の買い出しの時にサウスフィールドで合流する手筈に成った。
1ヶ月後…夏の日差しの中、三組の獣人の若夫婦と、沢山の苗木を詰んだウチの村の自慢の揺れにくい荷馬車を出迎え、
我が村の自給率向上作戦が始まった。
三組の獣人族の夫婦は良く笑い、良く働く善良な方々だった。
そして、
彼ら獣人族は、人族よりも闘気の使い方が上手く、
素手で岩を粉砕することは勿論、
畑を荒らす鳥魔物に、地上から闘気を飛ばして打ち落としたのだ。
その日から俺は、彼らの弟子として闘気の使い方を学び、
修行の合間に農業も学んだ。
大量の穀物や、葡萄等の果物で酒が出来れば、
主食、肉、野菜、果物に酒…塩やスパイスが有れば大概自給自足できる強い村になる頃には、俺も村も強くなる予定だ。
酒が出来ればドワーフさんも呼べるかもしれないし、
酪農がもっと軌道に乗れば、近くのエルフさん達と交易が出来るかもしれない…
違う種族との交流は、新たな発見がある。
魔族と竜人族は出会ったこと無いが、遠い国だから仕方ないかな?
もしかしたら獣人族の村の様に〈米〉みたいな出会いが有るかもしれないが、
先ずはウチの村を良くするのが第一だ。
…そう思っていた…
あの時までは…
村で過ごす二度目の秋、村の神像が光り出し、
村人が集まる…
すると七色の光が降り注ぎ、
焦った神様の声が響く…
「オルナス君…大変だよ。
ルボール侯爵の一味が…ジル君とシーラちゃんを拐っちゃったよ。」
と…
驚くイナリーさん達だが…俺は、怒りで震えていた。
ジルとシーラには俺が勉強を教えた為に、イスタ伯爵様の目にとまり、王都の学校でエリートとしての教育を受ける事に成ったらしいが、
ルボール侯爵一派がその情報を掴み、
俺への嫌がらせと、まだアナを諦めてないらしく…
冥土の土産を持たされた御者のおじさんがその命をかけて神様に報告して、輪廻の輪に戻ったらしい…
神様が調べてくれた結果…
因縁のルボール伯爵領の城に二人は監禁されていると教えてくれた…
許さない…
ウチの家族に手をだした事を後悔させてやる!
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