第54話 ようやく気が付く者
避難した大工の親方〈ビル〉視点です。
領主様に〈不良品の馬車を納入〉したと言われ、一家全員罪に問われる事になり、
莫大な罰金を背負わされた…
三年前に納入した馬車が壊れて〈不良品〉って…狂っている。
しかし、貴族の言うことは絶対…逆らえる訳がない。
そんな時、領主様の妹の〈イナリー〉様が、家を捨ててまで我らを助けてくだされた…
母親が違うとは言え、同じ父親…先代ルボール侯爵様の子供で、これ程までに違うのか?
と、思ってしまう。
仕事仲間、鍛治師の〈リーカー〉のヤツも同じように〈不良品の馬車の車体を作った〉罪で、
馬車の車体が壊れた事で侯爵家が被害を被ったと、言われ、俺よりもヒドイ罰金を負わされた。
お互いの工房の人間全員…弟子の家族も合わせて、あの街より助け出して下さったイナリー様に子々孫々お仕えすると決めたのだが、
イナリー様が頼りにされてる〈使徒様〉と呼ばれる方を探して、王国の南の果てまで来たのは良いが…
普通の冒険者で、しかも子供達だった。
…その身ひとつで避難してきた我々の為に色々と購入していただいた〈有難い方々〉だが…
イナリー様のお知り合いの何処かの貴族のお子さんだろう…
イナリー様に〈使徒様〉について伺っても
「命の恩人の、小さな勇者様です。」
としか話されないし…得体が知れない部分が多い…
メンバーも、人の良さそうな少年に、初めて見る〈妖精族の奇術師〉さんはいつも上手に人形を動かしている…あれほどの技術があれば、冒険者などしなくても食べていけるだろう…
それと、多分、冒険者パーティーのリーダーの娘さんだが…優しそうではあるが…ただならぬ感じがする…
彼らと合流したあと、
王国の領土の外に住むと提案された時には腰を抜かしそうになったが、イナリー様が〈神様のお告げで聞いた〉というこの土地に来て、
更にイナリー様があの方々を頼る気持ちが解りはじめてきた…
なぜなら、オルナスの兄さんが切り倒した木の断面が、カンナをかけた様に真っ直ぐ一撃で切り倒されているのだ…
冒険者パーティーの一員のオルナスの兄さんでさえあの実力…リーダーのアナ様はいかに凄いのか…
そんな事を思っていたある日、
ウチの娘が変な事をいうのだ…
オルナスの兄さんがパンツ姿で森から帰って来て、川で体を洗っていたと…
森から帰って来て、パンツ姿で体を洗うのならばまだ解る…しかし、娘は、森からパンツ姿だったというのだ…
〈まさか、あの働き者のオルナスの兄さんが…変態だったとは…娘を近づけてはいけない!〉
そう思っていました…あの日までは…
冬のある日、無事に寒さに耐えれる場所が出来た事を神様に感謝するために、
オルナスの兄さんとリーカーの弟子達が冬の暇潰しがてら神様の石像をこしらえたらしく、
俺は、弟子に余った材料で神様の祠を作らせた。
村の広場の祠に神様の石像を置いて、皆で、
「神様のおかげで冬を越せそうです…」
と、祈りを捧げる…
すると、その時初めて、自分が思い違いをしていた事を知る…
オルナスの兄さんが七色の光に包まれ、神様がご光臨されたのだ!
優しく暖かい声が冬の広場に広がる…
姿は見えないが、〈神様だ!〉と確信できる。
神は我々にも
「とばっちりで災難だったね…
少し不便だけど、頑張ってね。」
と、労いの言葉をかけて頂いた…
〈なんたる光栄…〉
そして、次の瞬間、俺は全てを理解した。
オルナスの兄さん…いや、使徒オルナス様の股間の辺りが光り輝いているのだ…
数年前に酒場で噂に成っていた、
神様からパンツを賜った〈聖人〉の話しを思い出した。
「パンツを賜るとは多分〈性なる人〉だぜ。」
と、酔っぱらい達の戯言…
そう思っていたし、そんな事すら忘れていた…
イナリー様も人が悪い…いや…パンツの使徒と正直に教えていただいても、我々はかえって不安に成ったかもしれない…
オルナス様は神様と仲が良さそうに、
この地に住んでいるブラックドラゴンの話を…
〈ブ、ブ、ブラックドラゴン!!?〉
あっ、鼻水が垂れた…
…なんと、神様と友達の様に話し、
ブラックドラゴンと話しを付けたあのお方は…
正に聖人…
生まれが良いだけで威張り散らす〈貴族〉など道端の小石と同じ…
〈使徒〉、〈聖人〉そんな事など何一つ鼻にもかけずに、我々と一緒…いや、我々以上に働く…
あの方こそ真の〈神の使徒〉…
おぉ、神よ…愚かな私をお許し下さい。
そして、ありがとうございます。
使徒様を我々に使わしていただいて…今の我々が有るのも神様の〈愛〉有ればこそ…
あぁ、使徒オルナス様…この命の限りあなた様にお仕え致します…
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