第52話 ご近所へのご挨拶


サウスフィールドの街から東に約3日、山の麓の森の近くに川が流れ込む湖があり、


そこで〈イナリー〉さんの連れてきたルボール侯爵領からの脱出組を匿う村を作る事にした。


まぁ、大工さんも居るし、体力自慢の隊長さんも居るから、木材さえ取ってくれば、30人ぐらい寝泊まり出来る家などすぐに出来るので心配はしていない…


問題は先住ドラゴンに話しを通す事だ。


アナとイナリーちゃんが神様からドラゴンの居場所も聞いていたので、


とりあえず、仮設のテント村の設営を〈イナリー〉ちゃんをリーダーにお願いして、


ドラゴンさんがお住まいの山に、新装備を纏った四人で向かった。


先に言っておくが、


ドラゴンさんは、種類により強さが違い、高齢なドラゴンほど、知能も高く、


最下級の羽の無いドラゴンですら、倒すと英雄として語り継がれる勢いで、


青や赤や緑などは数千年単位で生きて、強さを認めた戦士に巣に落ちている鱗を与えてくれるというお伽噺が有る程度で、


そして、竜人族のルーツと言われる黒いドラゴンは数万年近く生きて、色々なドラゴンからやっと〈最終的に進化出来る〉最強生物らしい…


〈ドラゴンさんは寿命無いのかな…?〉


ドラゴンさんの死亡理由はドラゴン同士の喧嘩らしいからね…


そして、今、


〈なぜだ!?


なぜ…黒いドラゴンさんが洞窟に寝ている…〉


確実にドン引きしている四人…


〈無理、無理、無理!〉


と焦るが、何度見ても黒いドラゴン…


〈神様、無理だって…シバいて引き分けて友情…無理でしょ?!〉


アナ、ポー君、チーちゃんに、


「どうする…帰って別の場所に行く?」


と相談していると、


〈ぐるるるるぅぅぅぅ〉


と大きな音が鳴り、


目を覚ますドラゴンさん…


ポー君が震えながら、


「えっと、〈お腹空いたわねぇ〉と…」


と簡単に通訳してくれた。


そして、


「ガルルルウゥゥゥゥ!!」


と唸るドラゴンさん。


〈はい、お怒りですね。

はい、死んだ…今回の人生短かったが楽しかったなぁ…〉


と諦める俺に、


ポー君が、


「えっと、〈あら、嫌だ!お腹の音聞かれちゃった!〉と、申されてます。」


と…


〈えっ?殺してやる!!…的な重低音だったよ…〉


すると、


ドラゴンさんは、


「ギャオォォオォゥゥゥゥ!」


と咆哮する…


〈怖ぇぇぇぇぇよぉぉぉぉぉ…チビりそう…〉


アナは


ギュッと俺にしがみつき、


「大丈夫?」


と聞いて来るが…俺が、聞きたい…


すると、ポー君が、


ペコリと頭を下げたので、俺たちも頭を下げておく…


すると、ドラゴンさんは、


〈ブフーン〉と鼻息を吹き、


俺たちに飛ばされそうな突風が襲いかかる…


「どうなってるの?お怒りなの!?」


と、ポー君に聞くと、


「一つ前が、〈あら、可愛いお客さんだこと。〉


次が〈うーんでもおもてなしする物もあまり無いわね。〉


と、お困りのようです。」


…?


〈歓迎されてる?…そうは見えないけど…〉


俺は、覚悟を決めて、


「黒いドラゴンさん。近くに引っ越してきました。


これ、つまらない物ですが。」


と、アイテムボックスから来る道中に狩ったスタンプボア等の肉が食べられそうな魔物を〈ポイ、ポイ、ポイ〉っと取り出した。


ドラゴンさんは、


「グアァオォォォオォォォォグルルルゥゥゥゥ」


と、再びの咆哮をあげる。


ポー君は、


「えっと、


〈えっ?良いの?…助かるわぁ…数百年前に獲物を追っかけてスタンピードを起こして少し離れた村を滅ぼしてから、狩りを控えてたのよ…食べて良い?〉


と申されてます…」


と…


俺は、「どうぞ、どうぞ。」とジェスチャーをするが、


内心、


〈内容と反応の違いで…しんどい…〉


と思っていると、


アナが念話で、


〈アタシ帰りたい〉


と言ってくるし、チーちゃんは気を失いそうになりながら通訳するポー君を支えながら、耳元で、


「もうひと頑張りしたら、今晩ご褒美ですわ…」


というと、


折れそうなポー君が奮いたつ…


そして、ドラゴンさんは、


〈バシュゥ〉〈ゴリ〉〈グチャ〉〈ゴックン〉


と、美味しそう…というか、


少し引く音を立てながらモリモリ食べている…



全て平らげたドラゴンさんは、


「グルルルゥゥゥウゥゥゥゥ…」


と、唸る…


…?


ポー君に、


「ドラゴンさん何だって?」


と、俺が聞くと、


「ドラゴンさんは、


〈良いご近所さんが出来て嬉しいわぁ、


でも、狩りをする時はどうしましょう?


スタンピード起こしてまた悲しいお別れするのは嫌だし…〉


と、困ってます…」


と教えてくれた。


俺は、


「ドラゴンさん…今ぐらいの量で良ければたまにお持ちしますよ。」


と提案すると、


ドラゴンさんは、


「ギャアァァァオォォォオォォォォォゥ」


と雄叫びをあげる。


ポー君は


「えっ?本当に?!」


と驚くが…〈ねぇ、怖い…ドラゴンさん何だって?〉


と不安に思っていると、


ポー君は俺の方を向いて、


「えっと、


〈凄くお腹が空いてたから、がっついちゃったけど、こんなに食べたら一年ぐらい飛んだり暴れたりしなければ十分過ごせるし、寝て過ごせば今のままでも十年は大丈夫よ〉


と笑っておられます。」


と…


〈案外燃費の良い事で…〉


すると、ドラゴンさんは巣の近くから落ちている鱗を咥えて俺たちの前に差し出す。


ポー君は


「御礼だそうです…


〈沢山有るけどあまりいっぺんにあげると戦争が起きたりするから一枚だけね。


たまにお話しに来てくれると嬉しいわ。〉


とのことです。」


と…


心配していたが、お隣さんは強面なだけで、良いドラゴンさんのようだ…


安心して村が作れるが…


今日はもう…休もう。

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