第45話 全てを捨てて無になる


街に入ると…既に異国の様な風景が有った。


冒険者や町の露店にも、


ウサミミのオッサンや、ネコミミのおばちゃん、


犬や、ゴリラ…はあれは彫りの深い普通のオッサンかな?


そして、ドワーフさんも普通に居るし…


〈多民族国家みたいだ。〉


露店から香る料理の匂いも、異国というか、また違うスパイスの香りがする。


冒険者ギルドの宿屋で1ヶ月パーティー用の部屋を借りて、皆で街にくりだす。


といっても、チーちゃんはご飯を食べなくてもいいので、ポー君はチーちゃんと服屋さんや生地屋さんに行くらしい。


アナと二人で屋台を巡り、ガンガン味見して、美味しい物はポー君にもアイテムボックスにお土産として買い込み、


宿屋で食べる事にする。


〈しかし、味見という名目で二人ともお腹が膨れている。〉


ご飯の時、


チーちゃんは、小さな魔石を飴の様に舐めるだけで大丈夫らしいが、食べ物を食べる事も出きる。


しかし、チーちゃんは、たまに味見程度に食べるけど、基本おトイレが、嫌だから魔石のみで過ごしている…


俺が、


「栄養足りてる?本当に大丈夫??」


って聞いた事があるのだが、


チーちゃんは、ポー君を見つめながら、


「マスターが居ますので〈食糧〉の問題は有りませんわ。」


と、言っていた…


あまり深く聞かない方が良さそうなので、


「ふぅ~ん」


とだけ答えたのだが…


ポー君は、ある意味チーちゃんに〈食べられて〉いるのかもしれないなぁ~と、うっすら思う…


〈あれかな?チーちゃんがアバドンさんに召喚された時にケシカラン格好だったけど…サで始まり、キュバスで終わるタイプのお姉さんなのかな…〉


と予想はしたが、


あえて触れないでおいた。



この地域の食べ物は、香り豊かで、味付けも美味しいのだが少し辛い、


素材は新鮮で、何より


量が多いし安い。


広大な耕作地と、獣人族の冒険者による狩の獲物の供給量の多さと、暖かい気候で収穫量も豊富らしい。


住むには良いところだな、活気は有るがゴミゴミしてないし、


食後に宿屋で今後の話しをすると、


皆もこの街を気に入った様で、とりあえず1ヶ月ほど冒険者仕事をしながら装備や食糧、それに獣人族の国の情報を集める事に決定した。


そうと決まれば、この〈サウスフィールド〉の街の教会にご挨拶の礼拝なのだが、


やはり、チーちゃんとポー君はお留守番するらしい。


チーちゃんが、教会の結界がダメだからか…仕方ない。



アナと二人で教会に向かい、二人で祈りを捧げると、


何時もの白い世界に呼ばれ、神様が


「待ってたよ。」


とウキウキで話し出した。


あの後、各地の教会の偉い方々と、王族と財務卿一家に神様が夢の神託として、洗いざらいバラしたらしく、


ルボール侯爵派閥は、あの一件から亀裂が入り、


〈謝罪を〉と言っていた貴族達がまとめて離脱した上に、即日教会からの抗議と、


王族からの呼び出しに、


財務卿からの婚約破棄と、


今、正に王都にて、まぁ色々な事に成っているらしい。


フロント・ニア・ルボールが縮み上がっているだろう…二つの意味で。


それと、


誘拐をそそのかした方の派閥も、ぶちギレた王族の指示で隠密集団が、洗いざらい調べているらしい。


この際、全部の膿を出したら良い…


殆どの貴族が〈膿〉の判定を受けて排除されたって俺は、構わない。


それから神様は、


「でも、イナリーちゃんは、あれからずっと泣いて暮らしてるから…あまりにも可哀想で…


オルナス君の足取りを教えちゃった。」


と、ペロッと舌を出している…


〈あまり可愛くないですよ…って?!〉


「えっ、イナリーさん…どうするの!?」


と俺が聞くと、


いま神様は絶賛〈アナ〉に詰め寄られているらしく俺に返事どころでは無い様子で、


「だから、アナちゃんの奥さんポジションは揺るがないから…


イナリーちゃんは貴族社会に嫌気がさして、全てを捨てて、何もないただの〈イナリー〉として、


助けてくれた皆の役に立ちたいと必死に…それこそ泣きながらお願いしたんだよ…ダメかな?


よし、アナちゃんの為に奮発しちゃう。


結婚指輪あげるね。オルナス君と一緒の〈特別〉なヤツ…


ねっ。


だから、イナリーちゃんを仲間に入れてあげてよ。


彼女って、魔法も使えるんだよ。


ねっ!?」


と、必死にアナを説得している。


〈アナは声は出してないが、心で直接、

神様に色々言っているのだろう…


すみません神様…〉


と心の中で謝ると、


神様に


「ちょっと待っててね。


受信するのに混線するから…」


と焦っている…


〈普通に喋れば良いのに…二人とも…〉


と思うが、これすらもノイズに成るかもしれないからと、


アホの子みたいに口を半開きにして斜め上を眺めて〈無〉に成ってみた。


白い空だなぁ…神様の世界って…あぁ、白い、白い…

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