第44話 急な旅立ちと変わる目的地
「オルナス様…」
と、壇上から〈イナリー嬢〉が必死で呼び止めるが、
「失礼する!!」
とだけ言って広間を出た。
〈ルボール侯爵〉は、俺に敵意を向けたまま、
「好きにしろ!」
と言っていたが、
神様パンツを目の当たりにした一部の貴族が、〈謝罪を〉と言っている声が立ち去る会場に響いていた…
だがもう、謝っても許してやんない!
メイドさんに部屋を借りて、
とりあえずこの〈なんちゃって貴族服〉から、アイテムボックスにある着替えを出して、いつもの格好に戻る。
〈神様パンツが一番しっくりくるよ…〉
パーティーメンバーが、いつもの旅支度に戻り、城を去ろうとするが、
廊下で再びイナリー嬢がすがりつき、
「申し訳御座いません…」
「申し訳御座いません!」
と、あまりに悲壮な感じだった…
しかし、
俺が、
「イナリーさんが悪い訳では有りません。
ただ、あなたが無事だったこと〈のみ〉が、ここに我々が来た意味がありました。
これよりあと、ルボール侯爵家がどうなるか解りませんが、少なくとも、もう会うことも無いでしょう…では、お元気で。」
と、いうと、イナリー嬢は、
もう、〈許される事はない〉と悟り泣き崩れた…
〈思えば可哀想なお嬢さんだ…
盗賊に弄ばれるルートを回避したのに、
命の恩人にすらお礼も出来ない家族に、多分神様も怒ってたから、すぐに王様とかにもバレるよ…
破滅ルートしかないお漏らし令嬢だよ…〉
と、少し哀れに思いながらも、パーティーと城を後にした。
暫く荷馬車に揺られた時に、
「あっ!ツナギとか洗濯されたまま回収してない!!」
と思い出したが、
今さら取りにも帰れない…
ポー君とチーちゃんは自前だったので元の服をおば様軍団に奪われずに済んだが、
俺とアナは一着ずつ普段着を奪われてしまった…
俺は、
「アナ、普段着一着無くなっちゃったね…ゴメン。」
というと、
アナは、トロンとした表情で、
「要らない、要らない…オルナスが居れば何も要らない…」
と、ポヤポヤと答える。
〈大事な人〉や〈嫁〉だの〈妻〉などと俺に言われ続けた後遺症が出ている様子…
〈ゴメン、怒り過ぎてアナに配慮出来なかったよ…〉
そして、荷台から、
「説明して頂けますか…オルナス兄ちゃん?!」
とポー君とチーちゃんが見ている…
街を出て街道を進みながら、
ポー君とチーちゃんに、あの日の教会の話を説明し、
ポー君に
「オルナス兄ちゃん…先に教えてよ…
そしたら、アイツらの失礼さがもっと理解できたのに、
もう、神様が祝福しちゃってる〈夫婦〉なんだ…
やるね、オルナス兄ちゃん。」
と言ってもらった。
仲間からも〈夫婦〉と言われて、
更に
「デヘヘヘッ」っと恥ずかしがるアナ…
チーちゃんは、
「死なない程度に暴れるか、街は壊さないが城くらいは破壊しても良かったですね。」
と、悪魔的発想を提案してくる。
ポー君も
「今からでも〈カオル君〉にお城全体にファイナルアタックかけてもらう?」
と言い出す…
こちらはこちらで、似た者カップルだな…
発想が…おっかない…
まぁ、アナも含めてお仕事に成らないし、
王都に行く予定も白紙になった。
かといってイースナにまた二週間かけて帰るのも…ちょっと恥ずかしい…
涙ながらに送り出されたからね。
〈じゃあどうする?〉
となり、
〈南下して獣人族の国でも目指すか!〉
となり、街道を南に向かい荷馬車を走らせた。
人族の国から見て、ざっくり、
北には竜人族の国、
西には魔族の国、
南の暖かい地域には獣人族が多く住んでいて、
世界に散らばる神樹が生えている森にはエルフ族や妖精族が住んでいる。
ドワーフは〈鉱山〉が有れば何処へでも行くし、
良い鉱石や良い酒を求めて一族単位で旅をすることもある種族なので、鉱山の街には希に居る…
オルビス兄ちゃんの奥さんもそのタイプらしい。
人族は当分関わりたくないからと、安易に〈神様のオススメ〉の獣人族をチョイスしたのだ。
南に走り、日が暮れると〈魔物避けの香〉を使い、小屋で休む日々に戻る。
〈なんと平和な毎日だろう…〉
しかし、イースナの街を出て1ヶ月近く…食糧も少なく成って来たし、人族の国では有るが辺境に当たるため、商人は勿論、旅人も少ない様子で、馬車とすれ違う事すらまばらに成って来た。
アナが、
「着替えも追加で欲しいし、静かな街だったら寄ってみない?」
と提案して、
ポー君も、チーちゃんも賛成したので、久々の〈街〉に向かう事にした。
街道の石碑に〈サウスフィールドの街〉と書いてある矢印に従いウマウマの引く荷馬車を進めた。
久々の冒険者としての仕事をしても良いかもな…
だが、貴族とは関わらない!
よし、暫くサウスフィールドの街を拠点にしてから獣人族の国を目指そう。
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