第43話 もう、知らない宣言


なんか、場違いな場所に来ています…


お貴族様でも色々な方が居るのがわかった。


何故なら、広間に何人もの高そうな服を着た方々が並んでいるのだ…


がっちり体型の貴族

ぽっちゃり体型の貴族

細い貴族…


貴族様の見本市の様だ。


そして、その中でも一際異彩を放っている方が、中央前方に立っている。


「よくぞ我が妹〈イナリー〉を賊の手から守ってくれたぁ!


ルボール侯爵家当主、〈フロント・ニア・ルボール〉、心から礼をいう…」


と頭を下げる青年は、ゆっくりと起き上がり、


とある塚の男役みたいに整った顔の青年が、

ニコリっと八重歯を光らせている…


俺は、


〈あぁ、勝ち組ってあんな感じだ。〉


と、妙に納得してしまった。


昨日のお嬢さんは〈イナリー〉さんと云うらしい、

アナにブロックされていた為に名前さえ知らなかったが…


やっぱりお貴族様ですよね…


〈マジで厄介事に首を突っ込んだな。〉


と後悔しつつも、


「いえ、タマタマ居合わせただけですので…」


と俺が答えると、


ルボール侯爵様は、


「パンツの使徒様が、ぶらり旅の途中でタマタマとは…!」


と、ゲラゲラ笑っている…


〈…性格…というか、笑いのセンスに難アリだな…〉


まぁ、悪い人では無いの…かな?


そして、


今回の騒動は、お貴族様の〈派閥争いに絡んだ騒ぎ〉だった様で、


先代が病死して、若くして当主と成ったルボール侯爵派閥を〈イナリー〉さんを人質にして一本釣りする計画だったらしい。


捕まえた盗賊の証言から、敵派閥の下っぱの〈子爵〉までは辿れたが、

証拠も無いので、子爵を切り捨てて、知らぬ存ぜぬを決めこむだろうから打撃には成らないらしく、ルボール侯爵様とその派閥の方々は悔しがっていた。


〈嫌だねぇ権力争いなんて…一般市民の俺からしたら、そんな事に労力を使わずに各自の街に還元しろ!って言いたいね。〉


と思いながらも〈お貴族様達〉と話していたのだが、


ルボール侯爵さまが、


俺の仲間を紹介している最中に、


マジで〈づかの方か?〉と思うぐらいに、


「おぉ、何と美しい…」


とアナに近寄り、


「お名前は?」


と、聞く…


〈名前がお宝っぽいし、行動がづかっぽい…〉


アナは圧倒されながら「アナ」です…


とだけ答えると、


「あぁ、〈アナ〉…何と美しい響き…おぉ!アナ…」


と、やりだした…


〈おーい、貴族のオッサン達ぃ~、お宅のリーダーが壊れたよ。


早く止めてあげてぇ~。〉


と見回すが、


全員ニコニコしている。


〈イナリー〉さんも、


「まぁ、お兄様がこんなに積極的なアプローチを…」


と、暖かい目で見ている。


アナはアナで


〈助けて…〉


みたいに見つめているし…


あぁ、神様…いきなり難しい〈お貴族様クイズ〉は止めて下さい…一般市民にはムズ過ぎます。


〈止めい!〉とツッコむのも違うし…


〈お戯れ…〉というか本気っぽいし…


悩んだ挙げ句に、


「ルボール侯爵様…アナは〈私の大事な人〉なので、お戯れは…」


と、一か八かでストップをかけてみた。


しかし、ルボール侯爵様は、


「私は本気だ!」


と…


〈しくじった?!…どうしよう??


怒らせたよね…〉


と、焦っていると、広間の扉が〈バタン!〉


と開き、ヒラヒラと光を纏ったパンツが宙を舞い、それを追いかける使用人や兵士が見える…


〈神様パンツだ…〉


と驚いた次の瞬間、


「聞け!皆の者…使徒オルナスとその妻アナは、既に私が祝福した〈夫婦〉である。


この夫婦の使命を害する事は負かりならん!」


と、神様の声がするのだが…


パンツなんだよねぇ…神様って感じが…しないんだよ。


すると、心の中に、


〈神様って呼ばれたから見てみたら変な事に成ってるね。〉


と、ちょっと楽しそうな神様の声が聞こえる。


そんな俺をよそに、


ルボール侯爵様は、


「この様な奇術で、我が愛を止められぬ!」


と…


〈うわぁ、愛って言っちゃってるし…〉


ルボール侯爵様は本気だ…


「アナ嬢には、どこかしらの養女になり、正式に私、フロント・ニア・ルボールの妻に成って頂きたい!」


と宣言してしまう。


パンツは、


「だから、駄目だって言っている。」


と光るが、


ルボール侯爵様は、


「アナ嬢は、私の妻…アナ・ニア・ルボールに成る運命なのだ!」


と引かない。


〈いやいや、ヒドイ名前に成るから止めてあげて。〉


と思う俺とよりも、


〈奇術〉呼ばわりされて相手にされない神様が、少し怒ったみたいで、


「フロントよ、そなたには婚約者が居るであろう。


財務卿の娘が…1人の女性も愛せない者が〈愛〉を語るでない!!」


と厳しい言葉をルボール侯爵に投げ掛けるが、


侯爵様は、


「あのような丸太令嬢…愛してなどおらぬ!」


と…


〈最低だ…最低男だ…〉


俺は、思わず。


「貴族様だから我慢していたが…もう我慢出来ない!


そちらが我々の旅を邪魔してまでここに呼び出したのに、


我が〈妻〉を奪う算段…到底我許すことが出来ません!」


と言ってやった。


パンツは、


「そうだ、そうだ!言ってやれぇ~」


と、威厳ゼロの合いの手を入れるし、


アナは、真っ赤な顔で〈ポーッ〉と成っている。


〈ゴメンよ、恥ずか死なないでね…〉


教会で〈祝福の前払い〉のくだりをしらない、ポー君とチーちゃんは首を傾げている。


〈ゴメンよ、後で話すよ…〉


パンツはヒラヒラと俺の頭上に移動し


〈キラキラ〉と輝きだした。


数名の貴族は神の輝きを感じ、祈りの姿勢をとるが、


ルボール侯爵様は、いまだパンツを睨んでいる。


俺は、輝くパンツの下で、


「フロント・ニア・ルボールさん…


貴方は他人の妻を奪おうとされるのか?」


と、もう一度聞くと、


ルボール侯爵は、


「既に妻ならぱ、正妻にして王家より賜った側近の証〈ニア〉を名乗らせる事は出来ませんが、


それでも側室として…アナ・ルボールとして…」


と話す侯爵の言葉を遮る様に、


「愚か者!ますますダメだ!!


派閥争いで、事件まで起きているのに、足場を固め事を治めることもせずに、


人の妻を奪い、自分の欲を満たす事のみ…


貴族とはこれ程までに愚かなのか!!」


と、怒ってやった。


お礼の為にと、俺達を呼んできた〈イナリー〉さんは、俺が本気で怒っているのでオロオロしている。


〈愚か〉と言われて怒ったのか数名の貴族から殺気のこもった視線を浴びるが…


〈知るかボォケェ!〉


俺は、


「神様、人族の教会に、〈使徒は貴族のイザコザに呆れて国を出る〉と言ってやって下さい。


王様にも〈会いに行く途中で貴族に愛想が尽きました。会えなくて残念です。〉


とお伝えください。」


と、大声でいうと、


パンツから、


「了解だよオルナス君、


財務卿の娘も、フロント君に相応しく成ろうと頑張って痩せて絶世の美人さんに成ったのに…


先程のやり取りをそのまま流してやるから。」


と、神様もご立腹のようだ。


もう、この街を〈滅ぼしてやろうか?!〉とも考えたが、チーちゃんが困るから我慢してやる…


〈都市破壊〉もダメらしいからね。


もう、こんな国は知らない!

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