第40話 王都を目指して


季節は夏、


お屋敷はハーツ兄ちゃん達にお願いして、


「行かないでぇ~」


と、叫んでいる、〈プリシラさん〉と〈司祭様〉に別れを告げて、


一路、この国の王都を目指す事にした。


まぁ、ご挨拶も兼ねて、この国の中心を見物するのが目的だ…


しかし、街道を西に約1ヶ月かかるとは…なかなか大きな国らしい…


ポー君にお願いして、馬魔物を3頭ほど従魔にしてローテーションを組めば走りっぱなしで半月ぐらいで付きそうだが、


街灯もない暗闇を走るのは得策ではない…


日が沈めば、ポー君がウマウマをお屋敷の厩舎へ〈送喚〉すると、


屋敷の馬担当〈モーリー〉さんがケアをしてくれる。


俺たちはアイテムボックスから小屋を出して、エルフの魔物避けの香を炊いて眠りにつく…


〈本当に快適な旅だ〉


食糧もアイテムボックスにいっぱい入っているし、なんの問題もなく王都〈ミリュー〉に向かえる。


しかし、


旅を始めて二週間…半分程来た所で問題が起こる。


近道の山越えルートか、迂回して平坦な道を通るルートかの選択で、


近道を選んでしまったのだ…


今思えば、街伝いに行けば良かったと後悔している。


ぐにゃぐにゃと曲がる山道の、追い越しが出来ない場所で、立派な馬車が脱輪して立ち往生している…


行商人は迂回路を通るし、


旅人も運悪く来なかったのだろう…


馬車の馬は、立派な馬車が坂道を落ちない様に頑張っているが、溝から車輪を出すまでには至っていない。


馬車から降りた鎧姿の人が二名、奮闘しているのが見えた。


俺は、


「このままじゃ通れないから手伝って来るよ。」


と言って、荷馬車に車止めを噛ませてから、


三人を残して、


坂道を上り、立派な馬車のもとに向かった。


ピクリとも動こうとしない馬車を、


「ふん!ふん!」と押している騎士の方々に、


「手伝いましょうか?」


と声をかけると、


鎧のオッサンが、


「有難いが、子供一人増えたところで…」


と、露骨にガッカリしている。


隣の鎧の青年は、


「隊長、一人でも多い方が良いですよ。


少年、すまないが力を貸してくれ。」


という。


〈隊長と部下ね…〉


と、理解したが面倒臭い香りがしてきた。


俺が、


「馬車には誰か乗って居ますか?」


と聞くと、


隊長さんは、あからさま警戒して、


「貴様、何が知りたい!?…どこの派閥の回し者だ!」


と剣に手をかける…


俺は、


「手伝いに名乗り出て、威圧されるとは心外です。


俺は、アイテムボックス持ちだから、生物で無ければ収納して、溝の隣に出すことも可能なのに…


もう良いですよ。


俺の馬車をアイテムボックスに入れて歩きでここを通ります。」


と言ってプリプリ怒りながら坂道をくだって、荷馬車まで戻り、


アナ達に状況を説明して、


荷馬車をアイテムボックスにしまい、


ウマウマも一旦屋敷に〈送喚〉してもらい、テクテクと四人で、馬車の横を歩いて進もうとすると、


何故かガラの悪い方々に立派な馬車は包囲されていた…


〈盗賊か?…もう!ちょっと目を離したら更に厄介な事に成っている…〉


俺が近くの岩に隠れて様子を伺いながら、


「感じの悪いオッサンだけど…どうする?」


と聞くと、


アナは、


「助けてあげようよ」


という。


ポー君は、


「どっちでもいいよ。クマクマ君を召喚して凪払うか、カオル君を召喚して、感じの悪いオッサンごと倒すかだけど…オルナス兄ちゃん…どうする。」


と、聞いてくる。


チーちゃんは、


「ワタクシが行けば一発ですが、


〈殺人〉〈暗殺〉はアバドン様に迷惑をかけるので、今回は不参加でお願いします。」


と頭を下げる…


〈仕方ない…〉


そう、これは仕方ないのだ!


と割りきって、ポー君に


「カオル君にお願いします。」


と告げると、


50メートルほど離れた事件現場に一匹の特殊鎮圧兵器〈カオル君〉が出撃する。


「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」


と叫び、バタバタと倒れる人々しかし、


カオル君の出撃が遅かったのか、脱輪した馬車の少し向こうに、数名の人影が走り去るのが見えた。


俺は、


「ごめん皆、何人か逃げたみたいだから後を追いかけるね。


匂いが薄まったら捕縛よろしく。」


とだけ告げて、走り去った影を岩影に隠れながら追いかけた。


〈カオル君の出撃あとは、俺には厳しいから助かった…


三人程が山間の洞窟に入って行ったけど、なんだかデカい袋を持っていたな…


お宝かな?


奪還したらご褒美くれるかな?〉


とウキウキしながら、


俺も洞窟に向かう。


しかし、


俺の甘い妄想は打ち砕かれる…


洞窟に近づくと、


「離して!私をどうするつもりよ!!」


と、女性の声がする。


そして、ゲスい男の声で、


「グヘヘッ、


叫んでも助けは来ねぇよ。


今頃あの二人の騎士も、使用人の婆さんも俺の手下が始末してる…


お嬢さんも、聞いただろ?


あの断末魔の悲鳴を…」


と、言っているが、


〈多分カオル君アタックの悲鳴かと…〉


しかし、いよいよ面倒臭いぞ、


誘拐かぁ…人質いるし、相手は三人…


大丈夫かなぁ…?


犯人も、人質も殺さずに終わりたい…

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