第37話 早く起きた朝は…

翌朝、小鳥のさえずりではなく


小屋の外から少女達の声が聞こえて目が覚めた。


「違いますぅ、オルナスはアタシの事がすきなんですぅ~。」


「違うもん、オナ兄ぃは昔からシーラの事が一番だもん!」


と…


〈二人の女性が俺を奪い合っている…〉


と、半分夢の中で聞いていると、


アナがムキに成り、


「アタシなんて、チューされたこと有るんだから!」


と…


〈ちょっ!ポーション口移しだよ…〉


焦る俺は、飛び起きるが、


シーラがアナと張り合い、


「シーラだってオナ兄ぃ大好きだし!

オナ兄ぃチューもしてくれたもん!!」


と…


〈シーラ!そんな事大声で言ったらダメ!

文面が特にダメ!!〉


俺は、小屋から飛び出して、


何故かご近所にも聞こえるように、


「アナ、おはよう!〈ポーション〉飲ました時は大変だったね…


シーラは、もう、大きく成ったから〈オナ兄ちゃん〉ではなくて、〈オルナス兄ちゃん〉って呼んで欲しいなー。」


と、会話に割ってはいるが、二人はプイっとした後に、

俺の左右に陣取り、

「オルナスあのね…」

「オナ兄ぃ、オナ兄ぃ」


と、話しかけてくる…


同じく早朝から起こされたらしいポー君とチーちゃんが小屋から出て来て、


「モテる男はつらいね…〈オナ兄ぃ〉。」

「マスター、あまり冷やかすと〈オナ兄ぃ〉様が可哀想ですわ。」


と、追い討ちをかけて行った…


〈ゴメンて…こんな早朝から、こんな起こしかたで…許してよ…てか、むしろ、助けてよ…〉


と、俺の〈助けを求める視線〉は、早朝から叩き起こされて不機嫌な二人には無視されてしまった。


〈誰か助けてよ!〉


と願った時、母屋から正義の使者が現れた!


ジル君その人である!!


ジルは、


「オナ兄ぃ…さん、朝ごはんの調理、一人では大変なんだ…て、てつだってほしいな…


シーラは酔っ払って寝ている二人を起こして水を飲ましてあげて…」


と、大根役者的な演技ではあったが、

ジルのおかげで緊急事態は一時的に治まった。


アナも張り合わなければ別に普通にしてくれて、


キッチンで俺は食卓の準備をし、


ジルがスープを作り、


アナが卵を焼いて…


ジルがアナに、


「すみませんでした、妹が…」


と謝っている。


アナは、


「良いのよ、妹と姉妹でケンカするの…夢だったの…私、孤児で一人っ子だから…」


と、少し嬉しそうだ。


ジルは、スープをかき混ぜながら、


「アナさんも孤児で、オナ兄ぃの〈彼女さん〉ならば、もう、ウチの正式な〈家族〉みたいなものです。


僕の事は〈ジル〉と呼んで下さい〈アナ姉ぇ〉。」


と言っている。


アナは、


「嬉しい!」


と言ってジルをギュッとしている…


〈微笑ましい。〉


しかし、急なバグでジルは真っ赤な顔になり固まっている。


俺が、


「アナ…弟が、ビックリしてるから、

卵とスープが焦げる前に解放してあげてね。」


というと、


アナは、〈パッ〉とジルを解放し、


「ゴメンね、姉弟に成れたみたいで嬉しかったの。」


と言っている。


…ジル君が軽く〈前屈み〉なのはあえて…あえてツッコまないでおく…


〈ジルも成長したんだな…兄ちゃん嬉しいよ…〉



などという、〈ドタバタ〉が有った後に、


爺さんを連れて街に行く事に成った。


オルビス兄さんにポー君の〈裁縫〉の特訓をしてもらう為と、


荷馬車のサスペンションを見た爺さんとオル兄ぃが大騒ぎした結果、鍛治師ギルドと商業ギルドに向かう事に成ったからだ、


小屋をしまい、ウマウマの引く荷馬車に揺られて街に向かう。


爺さんは、


「昨晩オルフェスと話しておったのじゃが、


乗ってみると、これは想像以上に凄い発明だ!」


と荷馬車の乗り心地に驚いている。


続けて爺さんは、


「オルナスよ、理屈は理解したが、実際にコイツを作ってみたいから、工房に戻ったらワシとオルフェスに指導を頼む。」


と言っている。


俺は、


「良いけど、指導を頼みたいのは、こっちの方だよ、魔物素材による強化や、


ミスリルとかの加工は、見たことは有ったけど、ヤったことが無いから…」


と、爺さんにおねだりすると、


爺さんは、


「お安いご用意じゃ、


素材を買って帰って、ミッチリ鍛えてやろうか、


金属もオルナスも…ってな!


ブァッハッハ!!」


と、面白くない鍛治屋ジョークを飛ばしていた。



街に到着し、服屋に向かう。


急な頼みだが、オルビス兄さんは、快くポー君の弟子入りを認めてくれて、


ポー君は暫く、チーちゃんと二人、


オルビス兄さんのところに住み込みで、


古着の服をバラして型を縮小し、チーちゃんサイズを縫い上げる。


という修行に入る…


ちなみにだが、何と、独身貴族だったオルビス兄さんに〈嫁〉が来ていた。


〈使徒様の服〉のデザイナーを探していて、オルビス兄さんに行き着いた女性らしく、


〈クロエ〉さんという、オッサンのオルビス兄さんには勿体ないぐらいの若くて…丸くて…健康的な…



ドワーフ娘さんでした…


〈ビックリしました〉


クロエさんは、


鉱山でも使えそうな俺の服装を見て、オルビス兄さんの洋服店を訪れ、


二人は〈親が鍛治屋〉という共通の話題で盛り上がり…結婚に至ったらしい。


〈おめでとう。〉


初めて見る〈ドワーフ〉さんが〈姉〉だとは…


人生って面白い…

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