第32話 チーちゃんとポー君


チーちゃんが仲間に加わったが、


ポー君に、


「マスター、ワタクシがこの体に馴染む迄に数日のお時間が頂きたいのですが…


魂が隅々まで馴染めば、指先を動かしたり、


もう少し表情も作れますので…」


と言っているが、


ポー君は、


「チーちゃんは今のままでも十分可愛いから、


そ、その…ぼ、僕の側にいてくれるだけで…


最高です。」


と真っ赤な顔で言っている…


あれでは、ポー君がマスターなのか、

愛の奴隷なのか…解らない…


チーちゃんは、


「フフフッ、ありがとうございます。


でも、マスターの手を握ったり、


微笑みを返したりしたいので…待って頂けますか?」


と…


ポー君は、


「ハァハァ、


チーちゃん、

だったら、僕たちのお部屋で待っててね…


何か欲しいもの無い?」


と興奮している…


正直、アナも俺も〈ドン引き〉している…


ポー君はチーちゃんをお部屋に案内して中庭に戻ってくると、


「オルナス兄ちゃん、アナちゃん!


僕頑張るっ!


頑張ってお金を稼いで、


チーちゃんの欲しがっている〈メイド服〉を買う!」


って言っている…


俺が、


「イヤイヤ、中身が魔界のメイドさんだから欲しがるのは理解するけど…


人形サイズのメイド服って服屋で売ってるかな?」


と首を傾げると、


アナが、


「チーちゃんの〈産みの親〉のご夫婦ならば作れるんじゃない? 」


と、アイデアを出してくれた。


もうそろそろ、市場が閉まる時間だか、


ポー君は止まらない…


再び市場に向かい、あのご夫婦の店に到着するなり、


「お義父さま、お義母さま…


チーちゃんにメイド服を作って下さい!」


と、注文していたが…


〈勝手に義両親〉にされた夫婦がキョトンとしている…


着せ替え用の衣類は〈お義母さま〉が担当で、


「あらあら、あの子は良いオーナーさんに買って貰ったみたいね…


メイド服…3日程で仕上がるけど…家まで取りに来てくれる?


来週まで待ってくれたらまたココで出店予定だけど?」


と言っていた。


ポー君は結局三着のメイド服を注文して、来週店にくる事に成ったが、


「オルナス兄ちゃん、小銀貨二枚貸して!


足りないから…」


と騒ぎ、俺に借金までして注文していた…



ポー君は、


「狩りにいこう!


もっと、チーちゃんの欲しいものが有るかも知れないから、


お金になる仕事をやろう!!」


と…やる気に成ってくれたのは良いが、


今度は買い取りで込み合う冒険者ギルドに向かい、


一番奥のクエストボートまで、空中を飛べるポー君は良いが、アナと俺は揉みくちゃにされながらの移動と成った…


〈よりにもよって、一番込み合う時間に…〉


と心の中で悪態をつきながらも依頼を探す…


有るのは近場の安い依頼か、遠方の厄介そうなヤツばかり…


〈まぁ、目ぼしいのは受注された後だからな…〉


と諦めムードで眺めていると、


ポー君は、


「これにしよう、オルナス兄ちゃん…


アナちゃんも良いでしょ?!」


と指差す先には、


『シルクスパイダーの糸の納入』


と書いて有った…


比較的近い森での依頼だが…


糸を集めるだけならば〈Eランク〉でも大丈夫だ…


しかし、


問題の〈シルクスパイダー〉さんが〈Dランク〉相当の魔物で、春先は恋の季節で強い個体が縄張りを主張しているらしく、この時期は不人気依頼である…


と、去年イースナの街に来てすぐにギルド酒場で先輩達が言っているのを聞いたのだ。


少し難色を示すが、


ポー君は、


「コイツが要るの!」


と後に引かない…


アナも、


「糸の回収だけだから大丈夫よ…多分。」


と云うので


渋々クエストを受けた。



ー 翌朝 ー


ポー君がフラフラだか幸せそうに食堂に来た…


チーちゃんは赤いワンピース姿でピシッとしている…


俺が心配して、


「どうしたの?」


と聞くと、


ポー君は、


「チーちゃんと一緒のベッドだから、緊張して…眠れなかった。」


と言っている。


〈いやいや、ポー君サイズなら五人は寝れるでしょ…あのベッド。〉


と考えていると、


チーちゃんは、


「マスター、本日からワタクシ、床で寝ます。」


と宣言すると、


ポー君は、


「チーちゃんがベッドで寝るの!


僕が床で寝る。」


と暫くじゃれている…


〈知らんがな…〉


俺が、


「簡単な小型のベッドを作ろうか?」


と提案すると、


ポー君は、


「要らない!」


と拒否する…


チーちゃんは、


「では、勝手にマスターが床でお休みになられない様に一晩中手を握ってますね…」


と…


〈胸焼けしそう…〉


まぁ、ポー君が幸せそうだから良いけど…


俺は、


「でも、ポー君…しっかり寝てくれないと、依頼に差し支えるよ。」


と、注意すると、


チーちゃんは、


「あらあら、イケませんわね…


マスター、今夜はワタクシが子守唄を歌って差し上げますわ。」


と…


ポー君は、


「イャッホゥーイ!!」


と喜んでいる…


〈まさに小悪魔的…?…マジ悪魔?〉


等と思いながら二人を見ていると、


ある事に気が付く…


〈?!おや、チーちゃん…確かに昨日より表情豊かかも…〉


と、〈体に馴染む〉発言を思い出して感心していると、


ポー君がチーちゃんの前にスッと立ち、


「僕の!!」


と叫んでいる…


〈はいはい…〉


と呆れながら朝食を食べて狩りに向かう事にした。

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