第29話 冬に向けて


さぁ、無料の寝床は確保出来たが、


依頼が少なくなり、人々の行き来も少なくなる冬が近づいて来ている…


遠征は辛いので、近場でコツコツ稼いで、冬の蓄えを買わなければヤバい。


実りの秋だからこそ、食糧が安く買える今のうちが勝負だ。


余裕が有れば、ポー君に馬魔物をテイムして貰い荷馬車でも有れば遠征も楽になるが…


そんな金は勿論無い…


中古の荷馬車でも買って、クマクマ君を召喚して貰い引っ張ってもらうかな?


とも考えたが…


〈デカ過ぎるから無理かな?〉


と、諦めた。


ちなみにだが、屋敷の厩舎にクマクマ君の姿は無い…


なぜなら、彼を食べさせるだけの余裕もなく、柵のなかとはいえ、あんなにデカイ熊がうろつくのは、ご近所さんも不安だろうし、

何より、クマクマ君自体、厩舎に入ることが出来なかった…


現在は、樹海で暮らして、必要時に召喚してもらう生活をして貰っている。


カオル君も…全く違った理解で樹海にて、クマクマ君の巣穴周辺で暮らしている…


樹海で狩りをして、生活している従魔の二人だが、


少し困った事がある…


ポー君は今まで隠れ里で生活していた、いわば〈箱入り〉だ。


レベルを上げる事もほとんど無かったのだが、


〈従魔〉と魂の繋がりが出来て、樹海でクマクマ君がご飯として倒した魔物の経験値が、ほんの少し〈ポー君〉にも流れ込むらしく、最近こそ数週間に一度に成ったが、


最初の頃は、1日に一度は、決まってご飯時に、


「あんっ…」


と、せつない声をあげていた…


不意にレベルアップして驚くのは解るが、


なぜ喘ぐ…?


まぁ、一番初日の樹海の中で、ポー君が、


〈びくん、びくん〉


となり、


「何かが、入ってくりゅぅぅぅぅ!」


と騒いだ時には、


〈こいつ大丈夫か?〉


と色んな意味で心配したが…


一発目の経験値で何個かレベルアップしたのが原因だろう。


徐々に反応も小さく、


そして、区間も長く成ったが、


いつも決まって飯時なのは勘弁して欲しい…


〈吹き出しそうになる。〉



さて、当面の目標は、


〈Dランク〉に上がる為にポイントを稼ぐ訳なのだが、


まだまだポイントが足りない…


冒険者ランクは上に行けば行くほど桁違いのポイントが必要に成る。


ハーツ兄ちゃん達はあんな大人数でバリバリ依頼をこなしてやっと先日〈Cランク〉に成ったばかり…


先が思いやられる…


その先の〈Bランク〉は更に大変で、


〈Aランク〉などは、噂になるぐらいの功績でも無いと厳しいらしい。


〈Bランク〉だったアナのパパさんに近づけるのはまだ、まだ先の話しだろう…


と、悩んでいても仕方ない、


イースナ周辺で出来る〈Dランク〉か〈Eランク〉な依頼をこなさなければ…


朝一番で屋敷を出発して、冒険者ギルドに、ポー君と二人で向かう…


アナは、プリシラさんが断固反対して、現在もプリシラさん宅で居候している。


屋敷には一応アナ専用の部屋も用意したのだが、


プリシラさんは、


「結婚するまではアナちゃんはウチの子です。」


と譲らなかった。


アナは、


「オルナス、遠征した時は一緒だから我慢してね。」


と言っていたが、別に我慢する項目は現在は無い。


云っても普通の12歳ではない…


〈分別はある!〉


あの、エリス姉ぇの様に四六時中ハーツ兄ちゃんとラブラブしてるのなんか…別に…


羨ましくなんか無いんだからねっ!!


と、思いながらアナと合流して、


クエストを受けて、狩りに向かう。


強い敵は俺とクマクマ君が前衛で討伐、


数がいる厄介な蜂魔物の巣の駆除等は、カオル君が一発かませば大概鎮圧出来て、


落ちた魔物をサクッっとするだけだが…


死ぬほど臭い…


倍率強化していたら〈死ねる〉まである。


倒した魔物も、しばらくアイテムボックスにしまわずに、風に当てて匂いを飛ばしてから持ち帰る…


最低でも三時間はかけないと、素材買い取りも困難となる程なのだ。


カオル君との駆除依頼は、簡単で良いが、


後片付けが手間なのが難点だ…


1日に複数の依頼をこなして、


お金とポイントを稼ぎ、


買い物をして、屋敷で料理して三人で夕食を済ませ、


アナを送り届けて、


1日が終わる。


そんな日々を繰り返して、


お金も多少は余裕が出来た頃には、街に雪が降り始めた。


魔物も冬眠する季節…


人々も冬ごもりをしているので、冒険者への依頼は少なくなる…


この時期の依頼は、現場に行くのでさえ大変な高難易度の依頼が中心となる。


移動手段の無い俺達も例外ではなく、


〈冬ごもり〉をしている。


アナは、朝に遊びに来て、夕方に帰るし


ポー君は、文字の勉強をして〈読書〉という趣味を手に入れた。


樹海の二人も冬眠中である。


そして、俺は、


屋敷の立派な鍛治場で朝から〈トンテンカン〉と金槌を振っている。


自分で依頼の合間に集めた鉱石や、お小遣いで買ったインゴットで、


とある物を作っている…


ハーツ兄ちゃん達からの防具の簡単な直しでもお小遣いを稼ぎつつ、


その全てを突っ込んだ、


サスペンションの着いた荷馬車を制作中で、


春までに完成させて、春に馬を買って馬車で快適な遠征をするのが次の目標だ。


〈あぁ、生きてるって感じがする…神様、健康な体をありがとう。〉

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