第24話 司祭様の本気

お祈りが終了した後に、


礼拝堂の扉が力強く開き、


目がバッキバキになった司祭様が飛び込んで来た…


「我、天啓を得たりっ!!」


と、お告げを受けた司祭様がヤバいぐらいに興奮している。


「神様にお仕えして早40数年…


初めて、神様より直々に、


〈哀れな違法奴隷を救う為に使徒オルナス様に協力せよ〉


と…


生きてて良かった…」


と、鎧を身に纏った僧侶さん?達を連れて礼拝堂に現れた。


司祭さまは彼らに、


「皆の者、今回の敵はアンデットや人々を脅かす魔物ではない…


しかし、神よりの我イースナ教会が受けた使命である!


〈違法奴隷を解放〉せよ!!」


と指示を出している。


お祈りに集まった住人は、


「ありがたやぁ…」と厳つい集団に祈りを捧げている…


〈あー、この方々が僧兵さんね…聖なる魔法や治癒の力を使う聖騎士って感じではなくて、


ゴリゴリ物理でねじ伏せる、教会の兵隊だね。


しかも、ありがたがられる職業なんだ…〉


と感心していると、


司祭様は、


「さぁ、使徒様、


イスタ伯爵様に軍を出してもらい、数日中に来るとお告げの有った奴隷商人をすり潰してヤりましょう!」


と、聖職者と思えない発言をしている。


教会の馬車に乗り、伯爵様の館に着くと、


司祭様が話しを進めてくれるので、俺とアナはお飾り状態である。


司祭様の一世一代の大舞台を眺めていると、


広間に騎士が集められ、


今回の作戦の説明をした後に、


イスタ伯爵は、


「街中での戦闘を避ける為に街道にて網をはる!


失敗は許されない!!


特にモーブス第三騎士団長!


使徒様に償うチャンスだ、死ぬ気で事に当たれ!」


と、指示を出す。


あの時の顔色の悪いオッサンでは無くて、感情すら感じないマシーンのような目をしたモーブスさんとやらが、


「イエス・マイ・ロード!」


と言って他の騎士達と一緒に広間を出て行った…


〈伯爵はギアスでも使うのか?〉


と、不思議そうにしていると、


イスタ伯爵様が、


「使徒様、


モーブスと息子のタダノと、

取り巻き二名とその親の騎士団員に、


〈罰〉として、街の地下下水路の掃除を隅々までやらせました。


だいぶ懲りた様で、周囲の騎士団員達にも噂が広まり、〈罰〉を恐れて各自が己を磨いて、日々の職務に当たっておるようです。


いやぁ、良かった、


しかし、使徒様にお詫びに何かを…と考えておりましたが、街中探しても見当たらず…


今回の一件が終わりましたら、一度ゆっくりと…」


とニコニコしながら言ってきた。


〈下水路の掃除って、臭いし、汚いし、スライムや、よく解らないカサカサする虫達のパラダイスなのに…


今の騎士団は、罰を恐れて頑張っているのか…


職場としてどうなのよ…ちょっと心配…


皆さんカサカサハラスメントに負けないでね。〉


と、心の中で祈りつつ、作戦の開始と成った…



そして、


結果から言うと、呆気ない程に簡単に終了した。


興奮した司祭様と8名の僧兵


そして、奴隷商人のキャラバンを取り囲む100を越える騎士団…


少しの抵抗は見せたものの直ぐに鎮圧した。


〈俺達いらなくない?〉


と、ボーッと眺めていたが、


ひとつ、驚きだったのが、


あの、タダノお坊ちゃんと取り巻きのジャイルとスネイルも〈見習い騎士〉として作戦に参加していたのだ…


箱形の檻馬車に乗り込み、エルフ達を解放しているタダノお坊ちゃんは、そこで、一人のエルフに一目惚れした…


超絶美形、ロングヘアーエルフは、


なんと、御歳160の…男性だったのだ…


ストーカーすることも許されず、彼はまた失恋して、今は訓練所で剣を振っている。



そんなこんながありまして、


無事に鳥籠に詰め込まれた妖精さんと、


エルフの皆さんを解放することに成功したのだった。


司祭様はお役目を全うしたと喜び、


イスタ伯爵様は、ようやく使徒様のお役に立てたと満足していたし…


奴隷商人達は勿論お縄になったが、


困ったのは妖精族の男の子〈ポー〉君と、二十人近いエルフの男女だ。


多分妖精の隠れ里も、今回襲われたエルフの集落の近くだろうと思う。


送り返すのにも手間がかかりそうだ…



実に困った…


〈困った時の神頼み〉と言うことで、


ポー君やエルフの方々をぞろぞろ連れて教会に来て、司祭様が見守る中で祈りを捧げると、


七色の光りが降りて来て、


神様の声が響く…


「皆、良くやってくれた。


しかし、


駄目でしょ!隠れ里をフラフラ出たらっ!」


と、〈ポー〉君はひとしきり叱られたあと、


「ゴメンなさい、でも、僕…外の世界が見たかったんだ。


神様…妖精族には自由に世界を見る〈自由〉も無いのでしょうか?!」


と、涙ながらに訴えていた…


〈確かに、気の毒と言えば気の毒…

俺も前世では、虚弱体質で、酷い時にはベッドから動けず、外の世界に憧れる気持ちは痛い程に解る…〉


神様も、〈ポー〉君の気持ちを察したのか、


「では、ポー君…使徒オルナスを助ける役目を与えます。


彼の仲間になり世界を見て回りなさい…」


と言っている…


〈丸投げかよ!〉


と、思う俺に、神様は、


「妖精族のポーに、力を授ける…」


〈だから、一緒に旅に連れて行って…お願い。〉


「人々の為にその力を使いなさい…」


〈オルナス君、しか頼めないんだよ…宜しく。〉


と、器用に俺の頭に直接お願いしてきた。


神の奇跡を目の当たりにした司祭様や、エルフ達はそんな事を知らずに泣いている…


〈やるしかないか…神様、了解しました。〉


と俺が心の中で答えると、


「ありが…ではなく、では、先ずはエルフ達を里に送り返す事を頼みました、


使徒オルナスよぉぅぉぅぉぅぅ」


と、エコーつきの声で消えていき、七色の光りも弱くなり…消えた。


神様って結構演出上手だな…

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