第22話 狼の群と、二人の男女

牧場で待機する事3日目の夜、


遂に奴らがやって来た。


「キャイン!」と甲高い鳴き声とガサガサという音が鳴り、


罠が発動したことを告げる。


アナをお姫様ダッコして、声の方に走り、脚力まかせに柵を飛び越えると、狼が一匹逆さ吊りに成っていた。


ぶら下がった狼の下には数匹の狼が、あたふたして、〈何とか仲間を降ろそうと〉上を向いている。


お姫様ダッコ中のアナに、


「ぶら下がったの宜しく!」


と言って、アナを地面に降ろした後、


いきなりの俺達の登場に戸惑っている数匹を脇差しを使い倒していく…


三匹倒したところで、遠吠えが聞こえたとたんに、残りの狼は帰って行った…


〈司令官は遠くで高みの見物を決め込んでいたようだ…厄介だな…統率の取れた大規模な群の可能性があるな〉


今回の狼の討伐数は4…侵入口の補強と合わせれば依頼達成で話しは付きそうだが…


困った…


初めての討伐依頼で妥協はしたくない…


しかし、アナを守りながら狼の大群を倒せるだろうか…


〈う~ん…〉と悩んでいると、


アナが、


「凄いよこの弓、狙ったところにバシッと飛んでいくよ!


森狼を倒しちゃった。


オルナス、追いかけよう!足跡とか消えちゃう前に…ねっ!」


と提案してくる。


狼の速度に追い付けるか解らないが、どこかに隠れ住んでいるのであれば、巣を突き止めれば、


こちらから仕掛けることも出来る…


〈よし、殺るか!〉


と、腹を決める。


俺は、


「アナは、遠距離攻撃をお願い…絶対突っ込まない様にして。」


と、お願いしてから


俺は、ツナギのボタンを外し、パンツ一丁になり、本気の俺を解放する。


神様から頂いた青と白の縦縞パンツが現れたとたん、


アナが、


「オルナス…狼を追いかけるんだよね?


えっ、それとも、エリスお姉さまが言っていた、男の人すぐ〈狼〉になるって言ってたアレかな?


どうしよう…エリスお姉さまから服を脱いだ後、どうしたら良いか教えて貰ってない…」


と、また要らぬ知識に振り回されているアナに、


「アナ…敵にも突っ込んで行かないで欲しいが、


俺にもツッコませないで欲しい…


本気モードなので宜しく」


と、いう俺に、アナは


「了解」と言って追跡体制に入った。



月明かりが有るので、そこそこ明るい…


思えば生まれて初めての〈フルパワー〉での狩りかもしれない…


視野も夜なのに遠くまで見える。


音、香りは勿論、野生の勘の様な直感も冴え渡り、


逃げ帰った狼達の足取りを着実に追いかける…


アナをエスコートしながらでも狼達を見失う事はなく、夜を通して後を追い、森の奥の洞穴まで追い詰めた。


早朝の光りが差し込むなか、


狩りを失敗して腹ペコの狼達が洞穴の前で集まっている…


〈バラバラに狩りに向かうかも知れない。〉


俺は、


「アナ、集まっている今がチャンスだ。


倒すよ!


逃げだした奴を中心に宜しく!」


と言って洞穴に向かう…


狼の群は30匹はいる…パンツ一丁の俺が飛び込むと、


〈餌が向こうからやって来た!〉


とばかりに色めき立つ狼達…


一回り大きなリーダーの指示で俺を囲む様にグルグル回りだす。


俺ばかりに気を取られていた狼達に、


アナの一撃が放たれ、イキッて前に出てきた一匹の首筋に鉄の矢が刺さり、


「キャン!」と叫んだ声を合図に飛びかかってくる狼達…


俺は、アイテムボックスから鉄の槍を取り出して、


〈ブン!〉と横に振ると、槍の刃先に切られなくても軸の部分にひっぱたかれて数匹まとめて弾け飛ぶ。


その間もアナの援護射撃が続き、


あっという間に狼達は半分の数になる…


すると、離れた位置のリーダーが、遠吠えで何かの指示をだした。


何か嫌な予感がした次の瞬間に、残っていた兵隊達は指揮官の命令でアナを標的にして走りだした。


〈マズイ!〉


と焦った俺は、槍をリーダーに向けてぶん投げてから、アナに向かい走り出す…


しかし、先頭の狼達が今まさにアナを噛み殺そうと中に舞う…


俺は、全速力で走りながら、


「アナに触るんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」


と出せる限りの声をだすと、


電気が走った様に〈ビクン〉となった狼達はパタパタと倒れて痙攣していた…


勿論アナに飛びかかった奴らも白目を剥いて痙攣している。


そして、


アナまで痙攣していた…


〈なんか…ゴメン…〉



ピクピクしている狼を倒してまわり、


串刺しのリーダー狼から槍を回収し、狼達も全てアイテムボックスにしまった後で、


アナを介抱する…


アナを膝枕しながら、


〈爺さんから聞いた、俺を拾った時の状況で、狼達が気絶していたらしいが、あれは倍率プラス身体能力強化で声を強化した音爆弾的な攻撃だろうな…


赤ちゃんの時でもオシメ一丁の8倍だったが、今回はフルパワーの一撃だったからな…


アナ、鼓膜破れてないかな?…


心配だ…


本当なら着替えもしてやりたいが…


ツナギしかない。


でも目覚めてズボンビシャビシャなのはショックだろうし…〉


などと、気を失いチビってしまったアナを見ながらあーでもない、こーでもないと考えるが、兎に角アナの回復が先だ!


と、アイテムボックスからハイポーションを取り出したが…


〈飲ませないといけないのだった…〉


アナは、自力ではどう考えても飲めそうにない。


〈俺がしてしまった事だ!ヤってやる!!〉


と、


ハイポーションを自分の口に含み、


アナに口移しで飲ませる。


気絶していたアナの喉が〈ゴクリ〉と動き


ゆっくり目を開けるが、まだハイポーションを1/3ほど保有している俺は、


〈飲ませる〉事に集中していて、その事に気がつかない…


全てを飲ませた時にアナと目が合い、


俺は、事態が飲み込めない状態のまま固まる。


するとアナは、


「ご馳走さまでした。」


と、意味深なセリフを放つ…


〈グハッ〉っと、心の中のリトルオルナスが血反吐を吐く音が聞こえた。


アナは、今の状態を確認して、ズボンも確認した後に、


「また、恥ずかしいところ見られたね…責任取って貰うからね…」


と笑う…


俺は、


「アナ、痛いとことかない?」


と心配して聞くと、


アナは、


「狼に食べられる!って思った瞬間に気絶しちゃったみたい…カッコ悪いね…」


と、落ち込んむ彼女を抱きしめて、


「ゴメン、俺が範囲攻撃を出したから、アナを巻き添えにしたんだ…」


と白状した。


俺とアナは森の奥でしばらく抱きあっていた。


パンツ一丁と失禁娘だが、


とても優しく、穏やかな時間が流れていた…。

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