第21話 ビジネスの為仕方なく

やっと、町外れ…というか広い放牧地の向こう側にある隣村的な場所まで移動して、


牧場主さんに会うことが出来た。


ここは、ただでさえ凄い毛量の羊の魔物を交配し、沢山の羊毛の収穫が出来る品種や、


染めなくても鮮やかな色の毛になるような品種を目指して、食べ物や飼い方を調べる研究牧場の一つらしい…


それが少し前に、ラム肉の味を追及している放牧地に狼が入り込み、七頭の被害を皮切りに、定期的にお肉の美味しさを追及したエリアの羊ばかりが狙われていると、牧場主さんは説明してくれた。


〈どうも、今回のターゲットはグルメな森狼さんらしい…肉がおいしいヤツばかりを…〉


俺は、


「狙われている〈品種〉が絞られているなら迎え討つのは容易です。


その、狙われている羊達のエリアに案内して下さい。」


とお願いして、


牧場主さんと一緒に柵に囲まれたエリアに到着した。


…確かに柵の中には、何というか丸々とした食べ応えが有りそうな羊が、〈ポヨン、ポヨン〉と歩いている…


〈初回にアイツ達を七頭って…馬鹿デカい群れに当たったのでは無いだろうか…


一頭の羊で、五から六匹の森狼が腹一杯になりそうだぞ?!〉


と思いながら、


俺は、


「すみませんが、立派な羊を一回の狩りで七頭狩る群れならば、数が凄く多い可能性が有りますので、侵入経路を探して〈罠〉を設置しても構いませんか?」


と聞くと、


牧場主さんは、


「このエリアは一番奥なので、入口の通路以外スタッフも柵の外には出ませんのでご自由に使って下さい。


見張りも厩舎の側の用具倉庫をお使い下さい」


と言ってくれた。


早速、アナと二人で侵入経路探しを始める…


と、言ってもアナに周囲を警戒してもらい、サンダルを脱いで、装備しているのが神様パンツとツナギのみの〈8倍〉状態になり、


狼の痕跡を探すのだが…


脇差しをアイテムボックスにしまい、サンダルを脱いだ瞬間に…


我慢の限界を迎える…


〈羊さんも十分臭いのだ。〉


とても清潔に飼育されている羊さんとはいえ、


地球の3倍の身体機能に更に8倍の補正がついている…


つまり24倍…近くで1頭が〈ポロポロ〉っと出されただけでも、


24頭の一斉放出と同じ破壊力…


数メートル離れていても、〈0距離〉と変わらない…


馴れるまで小一時間かかった…


しかし、馴れてくると、香りの中に少しの違いが解る…


そう、違いの解る男に成っていた。


アナは、初めは心配そうに悶える俺を見ていたが、


「これは、羊の匂いだな…

おっ、これはまだ子供の羊かな…」


と言いながら放牧地を四つん這いでうろつく俺を眺め、


「オルナスって、う◯こ の匂い好きなの…」


と〈ポソリ〉と聞いて来た…


俺は、思わず、


「好きな訳あるかぁ!!仕方なくお仕事としてやってるの!!!」


と否定するが、アナは、


「だってアタシの時も…それに、今だって膝とか手のひらに…その…う◯こ まみれに成りながら嬉しそうに地面に這いつくばっているし…」


と、哀れみの目で見てくる…


〈香りの向こう側という、ある種の発見は有って驚いてはいたよ…しかし、断じて好きではない!〉


呆れてアナを見返していると、


アナは、


「ねぇ、教えて…

アタシが好きなの…アタシのう◯こが好きなの?」


とモジモジしながら聞いてくる…


〈アナは可愛いが、純粋に好きかと聞かれれば…微妙だ…


そして、アナのう◯こは、全く好きではない…


なぜ、この二択を投げ掛けたのか…そこからして謎だ…


いっその事、この羊 う◯こ まみれの手で、アナの手を包みこみ、「お前だよ。」とか言って欲しいのか?〉


と、散々心の中で文句を言っていると、


アナは


「えっ、そんなに悩む事なの!?」


と、更に軽蔑した様な視線を俺に向ける。


…もう知らない…仕事に戻る!


訂正する事すら面倒に成った俺は、集中して狼の侵入経路探しを再開した。


かなり高い柵に囲まれているが、一ヶ所、放牧地に流れ込む小川の周辺に水の流れで、柵の根元がえぐれている場所が有った。


流石に川の水で洗われた地面には香りの痕跡は無かったが、柵や、柵の外側には、


確実に〈獣〉の強い匂いを感じた。


「くっせぇ…ここで決まりだな…」


と、確信して辺りを探すと、


柵の周辺や森に向かい伸びている川沿いに狼の足跡を見つけたので、


アイテムボックスからロープを出して罠を仕掛ける…


と言っても、狼にロープで作った罠など時間稼ぎにしか成らない…


噛み切る迄に駆けつけて迎え討つか、噛み切って逃げた場合は巣まで追いかけて討伐すれば良い…


もう、アナは無視して黙々と作業を続けていると、


アナは、


「うん、覚悟は出来た…


アタシは、オルナスも含めて受け入れるわ!」


と、決意表明するのだが、


〈どんな俺をイメージしてるのやら…〉


俺は、呆れて、


「アホな事言ってると、パーティー解散するぞ…」


と、言うと、


アナは、


「オルナス…離婚…?」


と、瞳を潤ませている…


〈結婚もしていないよ…〉


「また、変な知識を、プリシラさんに教えてもらったのか…」


と、ため息交じりで俺がいうと、


「えっ、エリスお姉さま達だけど?」


と、答えるアナ、


〈…リア充パーティーの姉達か…〉


と思いながら、遠い空に向かい、


〈恨みます…姉上…〉


とだけ呪っておいた。


罠も仕掛け終わり、近くに居たら狼達が来ない恐れも有るので、


牧場主さんに言われた通り、〈資材倉庫〉の様な場所で見張りをする。


焚き火も出来ないので、藁にくるまり、罠の有る方向を見つめていると、


アナが、


「アタシ、おトイレしてくる。」


と言ってくるので、


「はい、いってらっしゃい。」


とだけ答えて、見張りを続けていると、


アナは、


「何か冷たい…怒ってる?…キライになった?」


と拗ねる…


俺が、


「馬鹿だな、本当にキライなら、藁に潜って一緒に見張りなんかしてねぇよ…」


と〈トゥース系〉のセリフをいうと、


アナのご機嫌が戻った様で、


「ウフフっ、行ってきます。」


と嬉しそうにトイレに向かった…



ウチのお姫様は〈う◯こ〉から一旦離れてくれないかな…

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