第16話 妖怪決闘小僧の罠

酒を片手に、オッサン達が、


「いいぞぉ、やれぇ!」


と囃し立てる…


〈無責任な…〉


妖怪決闘小僧は、


「もう、逃げられないぞ卑怯者!


正々堂々と勝負しろ!!


さぁ、アナ…こちらへ、僕が守ってあげるよ…」


と自分に酔いしれている…


俺は、


「アナ、お呼びだよ…」


と言ってみると、


アナは、


「オルナス、あの人は何を言ってるの?」


と、蔑むような視線を妖怪決闘小僧に送る…


なぜか、ショックを受けているリーダーに取り巻きの二人が、


「タダノ様、しっかりしてください。」

「奴を倒せば、アナさんもタダノ様の事を好きになりますよ。」


と、フォローをしている…


妖怪決闘小僧は、


「そ、そうだよな…強い男に惚れるらしいからな…」


と、持ち直す


〈もう、無視して帰りたいが…毎日これでは…それも面倒臭い…〉


観客達が、


「やらねぇ~のか?


何時間も演説ぶってたんだぜ、からの挑戦を受けてやれよぉ~」


と、俺に言ってくる…


俺は、アナに


「えっ、元カレなの?」


と聞くと、


「たまに見かけて挨拶されたぐらいだけど?


名前も知らない…」


と答えるアナ…


すると、


妖怪決闘小僧は、


「アナ、君は僕に〈おはよう〉って笑顔をくれたじゃないか!


僕の事が好きなはずだ!!


ええい、卑怯者!僕のアナに何をした!!」


と叫んでいるが、


〈特に何もしていない…とんでもない現場に出会しただけだ…〉


周りの観客が、


「アイツやべ~奴だな…」


「元カレって言ってたが…痛い奴か…」


「どうでも良いから始めろ!こっちは元カレに大銀貨一枚賭けているだ!」


などと、アイツのヤバさを理解したらしくザワザワし始める…


〈それにしても、賭けの対象か…あまり娯楽は無いのかな?〉


と、呆れている俺をよそに、


アナが、


「アタシのオルナスが、負けるわけない!


アタシは〈オルナス〉に大銀貨一枚賭けるわ!!」


と言い返す…


〈やっぱりやるんだね…決闘は…〉


と、うんざりな俺をよそに、


観客のオッサンの一人が、


「嬢ちゃん、今なら三人組が2倍で兄ちゃんは1人なら6倍のオッズに成ってるよ?


良いのかい?」


と聞いてくる…


すると、アナは、


「アタシとオルナスの二人分で、大銀貨二枚、3対1の決闘でもオルナスの勝ちに賭ける!!」


と宣言してしまい、


…決闘とあいなりました…


ルールは、一対一が基本だが〈助っ人〉を二人まで参加可能…


今回の武器のレギュレーションは、木製武器を使用するルールで、相手は用意しているが、俺は木剣など無い…


仕方ないので素手での参加となり、


武器持ちの三人に、素手の俺が戦う形となる…


すると、オッズが三人1.5倍になり、


俺のオッズは8倍まで上がってしまっている…


「よし、賭けは出揃った、いつでも良いぜ!」


と騒いでいる観客達…


声援はほとんど三人組を応援する声だ…


〈剣道三倍段と言って同じ段位でも剣を持っている方が三倍強いらしいし…人数も三倍…


賭けるならば仕方ない判断だが…敵の方が大声援だと、


…なんだか、悪者に成った気分だよ…〉


と、少し凹みながら、


俺は、急に動いてサンダルを駄目にするのも嫌だから、サンダルも脱いで、


ツナギのみの状態〈8倍〉モードで観客の輪の中に進み出る。


すると、知らないオッサンが


「この決闘、Bランク冒険者〈守りの大樹〉リーダー、グランツが仕切る!


両者名乗りを!!」


と叫ぶと、


妖怪決闘小僧が、


「タダノ・モーブスだ、卑怯者!」


と名乗り、


「助っ人、ジャイル」

「同じく、スネイル」


と…手下も名乗る。


〈どっちが卑怯者だよ…武器まで用意して…〉


と思いながら、俺は、


「オルナスです。」


とだけ答える…


グランツさんとやらが、


「両者正々堂々と戦う様に、


始めっ!!」


と叫ぶと、


タダノ坊っちゃんは


「ジャイル、スネイルっ!


アイツを取り押さえろ!!」


と指示をだす…


〈清々しいほどの糞野郎な作戦だな…〉


ジャイルとスネイルという下っぱが、俺の左右の手を一本ずつ掴み、たまに攻撃を加える重し代わりになる作戦らしい。


そしてその隙に、タダノ坊っちゃんが真正面から〈正々堂々〉と斬りかかる予定らしいが…


〈そうはいかない…〉


ジャイルとスネイルが、俺の左右の腕を掴んだ瞬間に、〈ガッチリ〉と俺も二人を掴み腕力を強化して羽ばたく様に振り回し、アメリカンクラッカーみたいに正面で衝突させる。


〈ビタン!〉と肉がぶつかる音がして倒れ込む二人…


こんな無茶苦茶な戦法に出られるのも、〈裸一貫〉のスキルでステータスが爆上がりしているからだ。


もしもリーダーのアホが突っ込んで来ていたら〈一網打尽〉に出来たのに…


と残念に思いながら、地面に落とされた木剣を一本拾い、唸っているジャイルとスネイルの頭を、


〈ポコン〉、〈ポコン〉とハタキ、静かにさせる…


相手に賭けた観客は落胆し、


俺に賭けた少数の観客がにわかに色めき立つ…


木剣を装備して〈6倍〉状態で、


残るタダノ坊っちゃんに近寄り、


「どうする?


まだヤるかい?


それとも降参かな…?」


と聞くと、


タダノ坊っちゃんは、


「騎士の血筋が、卑怯者に負ける訳がない!


食らえ!!」


と、斬りかかるが、


前世の俺は、虚弱体質でまともに動けなかっただけで、長年にわたり師範の爺さんにしごかれた〈剣術〉は体に染み込んでいる…


軽く受け流し、〈ポン〉と軽い一撃を入れる…


「力の差が解っただろ…いい加減に諦めろよ…」


と俺がいうと、


タダノ坊っちゃんは、


「これぐらいで、アナを諦められるか!」


と叫ぶ、


〈イヤ、決闘の方だよ…〉


と思っていると、


相手に賭けている観客が、


「いいぞ、頑張れ!それでこそストーカー!!」


「ヤってやれ!ストーカー!!」


と〈ストーカー〉コールが巻き起こる。


俺に、賭けている観客は、


「諦めろ、ストーカー!」


「挨拶ぐらいで勘違いするんじゃねぇ、ストーカー!」


「いい加減に、ストーカーを楽にしてやれ!」


と囃し立てる…


〈ストーカーは確定したんだ…〉


と、哀れみの視線をストーカーに向けると、


「僕は、タダノ・モーブスだぁぁぁぁ!」


と大振りで斬り込んでくるので、


仕方なく、袈裟懸けに木剣を打ち込んだ…


ストーカーは〈グルリ〉と白目を剥いて倒れ、


グランツさんの、


「勝者!オルナス少年っ!!」


という勝ち名乗りを聞くなり、どっと観客が押し寄せ、


「やったな!」


「儲かったぜ!」


「これで嬢ちゃんは兄ちゃんのモノだな…」


などと好き勝手な事を言った後で、賭けの主催者から配当金を受け取っている…


すると、


「道を開けろ!」


と叫ぶ声が聞こえて、モーゼさんでも来たかの様に人の波が割れていく…


割れた海の向こうには、馬に乗った騎士団の様な鎧姿が並び、


俺の前まで馬を進めた後に、


「館までご同行願います。」


と言ってくる…


そして、辺りを確認して、


「そこでノビているアホも連れていけ!」


と指示を出す騎士さん


続けて騎士団はグランツさん達に事情聴取したあとで、


「よし、事情は解った。


協力感謝する!」


と言って、観客は解散と成った…


騎士さんは、アナに、


「お嬢さんも、館までご同行お願い致します。」


と、いって、


結局、館とやらまで馬車にてドナドナされる事に成った…

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