第15話 楽しい仕事と面倒な奴


変なガキに絡まれたので、〈アナ〉をお姫様抱っこして、ダッシュで逃げた。


ある程度引き離し、追ってこないのを確認すると、

腕の中で、アナが真っ赤な顔をしながら俺を見ていたので、ソッと降ろす…


「ゴメンね、厄介事に成りそうで…」


と謝る俺を無視するように、


アナは、何かブツブツ言っている…


〈何を言ってるのかな?〉


と、思いつつ近寄ると、


アナは、


「これが、プリシラさんが言っていた、〈お持ち帰り〉かな?


どうしよう…一緒に寝るんだったよね?…確か…


えっ、どうしよう?


…一回プリシラさんに聞きに行こうかな…」


と…


〈プリシラさん…なんちゅう知識を 少女に教えているの…〉


と、思いながらも、俺は、


「アナ、一回落ち着こうか…


【これは、〈お持ち帰り〉では〈無い〉。】


はい、一緒に!」


と俺が促すと、


「「これは、〈お持ち帰り〉では〈無い〉。」」


とハモるアナに、


「ハイ!、良くできました。」


と誉めると


アナは、ようやく落ち着いて、


「じゃあ、今のは?」


と、聞いてくる、


俺は、


「緊急離脱?…かな…?」


と、苦しい言い訳をしながら、その日は解散と成った。



ー 翌日 ー


昨日と同じように、ギルドの宿屋前で待ち合わせをして、アナと二人で草原を目指すだが、


しかし、門の所で待ち伏せに合ってしまう…


例のタダノ坊っちゃんと手下二名だ。


坊っちゃんは懲りもせず、手袋を投げつけ、


「これだけの人の目の前で、挑戦を受けないなどという〈恥ずかしい〉真似は出来ないだろう!!」


と叫んでいる…


しかし、俺も〈中身は大人〉なので、〈ガキの戯れ言〉に付き合って居られない。


勿論〈ガン無視〉で、「アナ急ごう。」と、


わざとアナと手を繋ぎ、手続きを済ませて外に出る…


いつもの門兵さんに、


「おい、流石にアイツが可哀想じゃ…?

たしか、アナちゃんの追っかけだぞ…」


と声をかけられたが、


俺は、小声で、


「だから、わざと精神攻撃をしてるんです。」


と言ってアナと繋いでいる手を見せる。


アナも少し恥ずかしそうにしているが、


「行ってきます。」


と挨拶をして草原に向かった。


午前は〈薬草採集〉、


午後は街の壁の外の邪魔にならない場所で鍛治仕事をする。


〈街中では、うるさいだろうし、あまり街から離れると魔物が厄介だから…〉


オルフェス兄さんと爺さんからの餞別の〈簡易鍛治セット〉を取り出し、


先ずは〈鉄の弓〉から作り始める。


レシピブックに従い、長さや等をお手本にして作業をしていくのだが、


正直レシピが無くても出来るが、やはり基本は大切だ…何回かやって、微調整を繰り返し、アナの好みが解れば、アナのオーダー通りの武器や防具も作れる様になるだろう…


簡易鍛治釜戸の火を眺めながらアナは作業をしている俺に


「暑くないの?」


と心配している。


ツナギに革エプロンにヤットコと金槌の装備で〈2倍〉状態


わざとサンダルは脱いでいるし、本当ならば革エプロンもしたくないが、火花でツナギ焼きたくないから仕方なくエプロンを着けている…


〈パンツのみで打ったならば、6倍で打てるが、流石に外では難しい…


鍛治専用の小屋でも作ってアイテムボックスにしまって持ち運ぼうかな…〉


等と考えながらも、〈トンテンカン〉と慣れた感じで金槌を振り、金床の上の鉄を鍛え上げていく。



夕方になり、アナに、


「今日はこのくらいにして帰ろうか。」


と言って片付けを始める。


俺は、アナに、


「半日、鍛治仕事を眺めてて飽きない?


別に魔物も来ないだろうから、明日は午後は解散でもいいよ…明後日は〈微調整〉が有るから居て欲しいけど…」


というと、


アナは


「見てるの楽しいから見てちゃダメ…?


だって、〈アタシの〉が出来るところを見てたいし…


それに…」


と、言いかけて、「もう、恥ずかしい!」


と言って、続きを話すのを止めるアナ…


〈もう、かなり恥ずかしいイベントは終了したので、恥じる事など特に無いと思うが…〉


二人で門をくぐり、


門兵さんに、


「はい、アナちゃんとオルナスだね、


お帰り、採集は出来たかい?」


と聞かれて、


「ハイ、」


と返事するが、


俺にだけ、親指を立ててニヤリと笑う門兵さん…


不思議に思いながらも街に入ると、


そこには、


〈妖怪、決闘小僧〉が居た…


面倒臭い…


そして、奴は数時間前から、


〈いかに俺が卑怯か、〉〈いかに自分が正義か、〉


そして、〈いかに自分がアナを愛しているか、〉


を民衆に訴えかけて、入り口付近に人だかりを作っていた…


主にクエストや採集を終え、酒を片手に屋台で飲んでいる冒険者や、暇を持て余した住人達であるが…


〈門兵さんのあれは、グッドラックの印か…〉


と納得しつつも、


酒の肴としての〈余興〉と化した〈決闘〉が待っている…


あ~、面倒臭い…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る