第12話 初採集で起きた事


翌朝、体も洗い、ベッドで眠れる喜びを噛みしめながら目覚める。


朝早くからバタバタと、依頼を受ける為に隣の冒険者ギルドへと急ぐ足音が聞こえる。


俺は、昨日、冒険者ギルドの職員さんから聞いていた〈常時クエスト〉という発注無しで幾らでも持ち込んで良い〈素材集め〉にチャレンジする予定だ。


狙うは、


〈薬草〉一束の納入

※根っ子は傷付けず茎から採集したものを十本


〈毒消し草〉一束の納入

※根っ子ごと採集したものを十本


の二種類だ。


昨日のうちに、現物も見せてもらい、色や形も覚えた。


〈Fランク〉に昇格したから、最悪夜通し探して次の日に帰って来ても街の入場料を取られる心配はない。


冒険者ギルドの売店で、麻袋を幾つか購入したし、ナイフやスコップやシャベルは実家で作った物がアイテムボックスに入っている。


俺は、サンダルを履き、直接〈イースナ〉の街の門に向かい、門兵さんに、


「採集に行きます。」


と、鉄製の〈Fランク〉のギルドカードを提示する。


門兵さんは、


「おう、新人か、

え~っと、〈オルナス〉だな…


おし、記入した。


頑張ってこいよ!」


と握り拳を見せて応援してくれた。


〈何かノリの良いお兄ちゃんだな…〉


等と思いながら南に向かい三十分ほど移動し、草原地帯にやって来た。


出てくる魔物も弱くて、駆け出し冒険者のたまり場的なエリアだ。


草原のあちらこちらに冒険者の子供が下を向きながら〈薬草〉等を探している。


採集物を見つけるスキルも世の中にはあるらしいが、持っている駆け出し冒険者は少ない…


この世界の庶民のスキルは大体1つか2つ、中には〈スキル無し〉なんて人間もざらにいる。


そして、スキルを手に入れるには、ひたすら努力しかないらしい…


努力の方法が解るスキルは良いが、〈レア〉なスキルは生まれた時のガチャしかない…


しかも、人間族は〈魔力〉が少なく〈魔法〉が放てるのは〈お貴族様〉ぐらいらしい…


〈残念だ…〉


他の種族ならば、


魔法が得意な魔族やエルフ族、


技術や特殊なスキルを習得しやすいドワーフ族や妖精族


ひたすら身体能力自慢の獣人族


そして、完璧超人の〈竜人族〉


と、色々あるが、この世界の人間族は、


〈脳筋気質の力こそパワー派閥〉が圧倒的に多い。


なので、回復魔法の使い手も少なく薬草類はとても大切な物であり、安定して採集できれば、それなりの収入になる…


剣と魔法の世界を期待していたのだが、俺の種族には〈力と冒険〉の世界らしい…


と少しがっかりしながらも、


俺も、先輩方を見習い下を向いて探す。


しかし、毎日探されている〈薬草〉はなかなか見つからない…


二時間ほど探して、ようやく〈薬草〉が一束と、〈毒消し草〉が六本…これでは明日の夕方まで這いずり回ったとて知れている…


俺は、少し考えて、


まず、脇差しをアイテムボックスにしまう…


〈角ウサギ程度なら武器は要らない〉


そして、サンダルも脱いでアイテムボックスにしまう…


〈急に草原の香りが濃く感じる…〉


そう、俺は、〈採集〉に集中するあまり〈装備〉が多い事を忘れていた。


ツナギとサンダルで既に〈6倍〉まで低下し、


脇差しで〈4倍〉…


そして、麻布とシャベルで〈基本ステータス〉…


ライバルと同じ能力では、採集経験の多い先輩に勝ち、草原の〈薬草類〉を手にするのは難しい。


そうと解れば、


俺は、カウントに入らない神様パンツの他は、ツナギとナイフだけを装備して、後の物はアイテムボックスにしまい、


〈6倍〉のステータス状態にする。


そして、嗅覚を〈身体能力強化〉で研ぎ澄ませ、既に採集した薬草を〈クンカ、クンカ〉と嗅ぐ、


薬草をアイテムボックスにしまい、


覚えた匂いを探すために、

四つん這いになり〈探索〉を開始した。


犬には遠く及ばないにしても目で見るよりは周囲に〈薬草〉が有るか無いかは瞬時に解る、


鼻を近づければ、尚更鮮明に探せる。


端から見れば、真っ青な何かが、人間の動きではない速さで〈カサカサ〉と草原を動き回っている…何とも気持ちの悪い映像だろうが、


〈知った事ではない、こっちは生活がかかっているのだ!〉


と、割りきり、草原をカサカサと移動し〈薬草〉だけを採集していく…


嗅ぎ付けて、ナイフで切り取り、アイテムボックスへ…を繰り返し


なんと初めの二時間とは比べ物に成らない量が短時間で集まった。


〈よしこれならば、勝てる!〉


と、手応えを感じつつ辺りを確認し、あまり先輩が居ない方向を目指して、〈カサカサ〉していく、


すると、少し背丈の高い草むらに女性の先輩冒険者が居たらしく、凄い勢いで〈カサカサ〉と迫りくる音に驚いたのか、


「きゃっ!!」っと小さな悲鳴を上げた


〈ゴメンね、お嬢さん…驚かせるつもりは…〉


と、心の中で謝ろうとした瞬間、


俺は、


「うわぁぁぁ!」


と叫び、のたうち回る事になった…


なんと、少女は、〈野原で薬草摘み〉ではなく、


下半身丸出しで、お上品にいうと〈お花摘み〉の最上位〈薔薇の伐採〉…


平たくいうと、〈野う○こ〉をしていたのだ。


そして、基本ステータスは地球の三倍に、更に六倍の補正と、〈身体能力強化〉を嗅覚に集めた俺が、


スメル…


いや、もう…ソレは香りではなく〈目にシミル〉ほどの〈衝撃〉に、思わず、


「くっせぇ」


と言ってしまった…


〈本当にごめんなさい、悪気はないんです…

強化していた俺が悪いんです。〉


と思いながら少女をチラリと見ると、


傷付き、泣いている…


が、下の方も止められずに、もう、何か凄いカオスな状態の少女は、


「うわぁぁぁん、止まらないよぉぉぉぉぉぉ!


見ないでぇぇぇぇ!ゴメンなさい!


これは違うのぉぉぉぉぉ!!


お嫁に行けないよぉぉぉぉぉぉぉ…」


と、泣くのか、出すのかどちらかにして欲しいが、結果、〈どちらもしながら叫ぶ〉を選択し、


大声を上げている。


俺も俺で、パニック気味に


「ゴメン、居るの知らなくて…

大丈夫、見てない…少し香っただけ!」


と、最悪なフォローを入れてしまった。


すると、少女は、更に泣き叫び、


「嗅がれたぁぁぁぁぁ!」


と言いながら首を左右に振り〈イヤイヤ〉をする…


しかし、自分が中腰の不安定な体制なのを忘れていたらしくバランスを崩し、


自分の出来立てホヤホヤの作品に、尻餅をつきそうになる…


「おっと、危ない!」


と、思わず駆け寄り支えてしまった…俺…


〈気まずい…〉


少女は涙でグシャグシャな顔で


キョトンとしながら、


「ありがとう」


とだけ呟いた


何とも言えない時間…


ほんの数秒だが、情報量が多く、無限にも思える…


俺は、いたたまれなくなり、アイテムボックスからハンカチを取り出し、


涙と鼻水まみれのレディに、


「これで、拭いて下さい」


と、差し出す。


少女は驚きながらも、


「ありがとう…ございます…」


と、言って、頬を桜色に染めながら、



少女はそっと、



ケツを拭いた…


〈いや、そうじゃねぇだろ!!〉


と、つい思ってしまった俺の表情で、


〈ハッ〉とした少女は更に慌てて、


「えっ、あっ、そうですよね!


洗って返します!」


と、ヤバい提案をしてくる…


俺は、呆れるのを通り越して少し楽しくなっていた。


俺は、


「いや、洗わなくて良いから」


と、優しく声をかける、


すると、少女は、


「恥ずかしい!!」


と顔を隠すが…


顔の前に隠すべき場所があるのに…

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