第9話 〈お兄ちゃん〉の旅立ち


神様と話し合いの結果、


神様の〈使徒〉として、12歳に成った後に〈旅〉に出て、各地を巡り神様に報告する、


という〈お役目〉を賜るはこびと成った。


大層な事を言っているが、


冒険者として好きな所へ行って、楽しく生きて、

たまに神様に祈りを捧げたり、


ちょっと人助けをして、


〈使徒様が助けてくれた…神様ありがとう。〉


みたいな、神様のイメージアップキャンペーンをする役目…


なので、神様が、


「教会関係者は全力で旅のサポートをして下さい。」


とお告げを出せば、貴族もそうそう手を出さないだろうという神様のアイデアだ。


そして俺には、


時間停止機能付きで、超大型魔物の死体も楽々入る

〈アイテムボックス〉と、


パンチやキック、回避能力が上昇する

〈体術スキル〉に


〈剛力〉〈頑強〉〈スタミナ〉〈跳躍〉〈俊足〉

という、体強化五点セットのスキルでステータスの基本値を底上げしてもらった。


体がツヨツヨに成っても毒等は効いてしまう…しかし、


〈裸一貫〉のスキルで耐性も治癒力も上がるので、ちょっとやそっとでは状態異常にもならない…


最悪、スッポンのポンに成って、内蔵に〈力〉を集中させれば〈解毒〉も可能らしい…


それどころか、精神攻撃や呪いすら打ち砕く凄いスキルなのだが…


〈スッポンのポンがネックだ。〉


悩める子羊に神様は、


「安心しろ、オルナス君に〈お告げ〉と同時に〈神器〉も与えるので、唯一お主のスキルでは守れぬモノを守れる様にしてやろう。


さぁ、そろそろ戻りなさい…」


と言われて、



現在、


興奮する神父様が、


七色の光に包まれた俺を見て、


「神よ、おぉ!神よ!!」


と騒いでいる。


お祈りの順番を終えた人達も礼拝堂の異変に気が付き戻って来たり、


教会の奥からシスターや修道士達も集まって来た…


そして、観客が集まったのを確認した様に、


虚空から穏やかな声が響く。


「この少年に〈使命〉を与える…

各地を巡り、その目で見た事を我に伝えよ…


神よりの〈使命〉の証に〈神器〉を授ける。


〈使徒〉オルナスよ…任せた…」


というと、俺を照らしていた七色の光りが頭上の一点に集まり、


〈ヒラヒラ〉と俺の頭上に舞い降りる…


〈パンツ〉…


なぜ?…と手にしたパンツを眺めていると、


神様の声が頭に響いた。


〈聞こえるぅ?オルナス君?…


そのパンツは、オルナス君専用だよ。


自然修復機能付き、いつでも清潔、体に合わせてサイズが自動で変わる神器!


オルナスパンツだ。


オルナス君の体の一部としてカウントされるので、履いたままでもフルパワーが出せる…


つまり、


オルナス君のイチモツを出さなくてもフルパワーが出せる夢のアイテム!!


これで君の大事な〈尊厳〉はガッチリ守られる!


さぁ、この世界を楽しんで来なさい…〉


と…


この日、俺はこの教会の神父様の報告書により、この世界の教会の総本山から、


〈パンツの使徒・オルナス〉


として、正式に認められて…しまった…


同日、神様は総本山にも〈神託〉がくだり、


〈使徒、オルナスは12の歳より旅に出る、


彼の旅の邪魔をせぬこと…そして、可能な限り協力をする事…〉


と根回しをしてくれていた。


なので、


〈パンツの使徒・オルナス〉の噂が流れるのが早く、


ド田舎のウチの村に、使徒に会いに来る教会の偉い方々が押し寄せてしまい…


俺は、村に居辛く成ったので、次の春に村を出る事を決めた…


数えで12歳なのでセーフだろう…


〈だって、使徒様生誕の地みたいにされて気まずい、気まずい…〉


俺は、あの〈神託〉の日に、冒険者登録を済ませて、今まで狩った魔物の角や魔石などの買い取りを頼み、


手にした銀貨で、


ジルには本と、シーラにはお人形〈ウサギ獣人の女の子…なんとかバニア風〉をプレゼントとして買い、


ついでに、紙の束を買い、俺の知っている料理のレシピや知識を可能な限り書き残すことにした。


ジルやシーラにじっくり教えてやる時間も無いかも知れない…


などと考えていた不安が的中してしまう結果に成ったのは残念だ…


冬の間に、ジルに料理と、シーラに読み書き計算の基礎を教える予定だ。


最悪シーラの残りのお勉強は、俺がミッチリ叩き込んだジルが代わりにやってくれるだろう…


そして、ジルならば、狩の罠の設置方法やトドメのさし方に、血抜きの方法も書いておけば理解してくれる…


あとは、俺の鍛治師としての力を見せる為に、毎日鉱石集めと、鍛治仕事を頑張り、


神様からもらった〈アイテムボックス〉スキルをフル活用して、


冬の到来を待たずして、裏の井戸の隣に〈風呂〉を作った。


前世の記憶を頼りに、横の焚き口に火をくべると、パイプを伝って、熱くなったお湯が湯船へ行き、湯船から水がパイプに流れ込む方式の風呂だ…


薪は例年よりも必要となるが、アイテムボックスも使い木を斬り倒してきたから当面は大丈夫だろう…


案の定、爺さんは〈お風呂〉に魅了され、毎日では無いが楽しそうに風呂を沸かして、ジルやシーラと入浴していた…


そして、冬になり


ジルとシーラに、この家恒例の〈引き継ぎ〉も終わり、俺が旅立った後は、お料理はジルがリーダーで、お掃除はシーラがリーダーとして、爺さんとオルフェス兄さんは仕事をしながら二人のサポートにまわる予定だ。


そして、


春になり、いよいよ旅立ちの日がやってきてしまった…


〈使徒様の旅立ち〉と聞き付けて村の皆も爺さんの鍛治屋の前に集まっている。


爺さんは朝から…というか数日前から泣いている…エリス姉さんの時もそうだったが、


これでは、俺も泣きたいが…泣いたら悪い雰囲気なので少し冷めた…


しかし、オルフェス兄さんが、


「親父と一緒に選んだ餞別だ。」


と言って


簡易の鍛治道具一式と、商業ギルドカードを渡してくれた。


「これは?」


とカードについて訪ねると、


オルフェス兄さんは、


「それは、親父から…というか、オルナス、


お前の貯金だ…


お前の発明品を商業ギルドに登録した〈特許使用料〉だが…


正直、金額を見たら腰を抜かすかも知れないよ


風呂が爆発的に売れているらしい…


〈使徒様考案〉の肩書きと、実際の使いやすさで…」


と教えてくれた。


俺は、そのカードをオルフェス兄さんに渡して、


「爺さんや、兄弟達の為に使って。


俺は、〈冒険者〉をするからジャンジャン稼ぐよ…


当分は村に帰れないから〈仕送り〉だと思って。」


と伝えた。


続いて、ジルは泣きそうなのを我慢しながら、


「オナ兄ぃのメモで僕…頑張るよ!」


と…


〈村の皆さん…解りますが、感動的なシーンなのでザワザワしないであげて…〉


と願いながら、


「あとは、任せたよ」


とジルに語りかける…


そして、シーラは、


「嫌だぁ、オナ兄ぃ行かないで、行っちゃ嫌だ!!」


と、駄々をこねる…


〈だから村の皆さん、ザワザワしない!〉


俺は変な汗をかきつつ、我が家のお姫様に、


「シーラ、は神様からのお願いで色んな所に旅に行かなくちゃ駄目なんだ。


でも、一生帰って来ない訳じゃないよ。


シーラが良い子にしてたら、お土産いっぱい持って帰って来るからね。」


と、優しく語りかけると、


シーラは、


「ほんと?」


と聞いてくる。


俺は、


「本当に本当だよ。」


と答えると、シーラは〈ギュッ〉っとしがみつき、


「オナ兄ぃ、頑張ってね!

アタシ…良い子にしてるから…」


と俺のツナギで涙を拭く様にグリグリしている。


〈可愛いなぁ…シーラは…


あと、周りの方々、もう馴れたでしょ?!


そうです、私が〈オナ兄ぃ〉です…


はいはい、ザワザワしない!〉



こうして、俺は、長年暮らした〈故郷〉から旅立った…

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