第5話 何かおかしいと気がつく親

〈育ての親、オルグス視点です。〉



力の弱いオルナスが、今日も食卓に肉料理を添える…嬉しい事ではあるが…


おかしい!…絶対におかしい!!


角ウサギや牙ネズミを毎日狩って来るのは、百歩譲って良いとしよう…


しかし、毎日の様に荷車を引いて出掛けて、最近は、鹿や猪の魔物まで仕留めてくるのは納得出来ない。


〈オルナスは成長して強く成ったのだろう。〉と、一度はワシ自身に言い聞かせて、納得しようとしたのだが、


オルナスの〈力〉ではどう考えても倒せない獲物だ…


怪しく思い、ワシがたずねると、


オルナスは、


「最近、やっと罠の仕掛け方が上手になったからね。」


と、言っていたが、


だとしても、あの非力なオルナスの力で切りつけたとは思えない傷を負い絶命した猪を見たワシは、


〈何かしら善からぬ力をオルナスは使っているのでは?〉


と心配になり、こっそり後をつける事にした。


長男のオルフェスには


「考え過ぎだ…」と言われたが、


あの時の狼達の意識を飛ばしたのが、赤子の〈何か〉が邪な力だとすれば…ワシは…


〈どうすれば良いのだ?!〉…


もしも、もしもだ、


可愛い我が息子が、邪悪な者 として世界に解き放たれる前に手を打たなければならないかも知れない…


覚悟を決めてオルナスの後を追う…


ワシも元は冒険者だ、


年端もいかぬ子供の後を気付かれずにつけていくなど造作もない…


オルナスはワシに気づかず、鼻唄を歌いながら森の奥を目指して進んでいる…


〈鉱石集めは後回しか?…〉


と思いながらも、尚も荷車を引き、森の小路を進む息子の前に、


まんまと〈ククリ罠〉 に足を取られた鹿が現れた。


〈オルナスの言っていた、罠の腕前が上がったというのは、まんざら嘘ではないようだ…


しかし、相手はオルナスにトドメが刺せるとは思えない大物だ。〉


すると息子は、何を思ったのか服を脱ぎはじめた。


〈な、何をしている!?〉


と、驚くワシを他所に、オルナスは綺麗に服をたたみ、パンツ姿に刃渡りの長いナイフの用な武器を鞘に入れたまま腰の辺りに持ち、


〈スッ〉と立ち上がり、〈跳ね鹿〉という魔物に近づく…


蹴られたならば子供などひとたまりもない魔物に、臆する事無く近寄り、


あろうことか、深々と頭を下げるオルナス、


〈何をする気だ?!危ないだろう!!〉


と焦るワシだが、


次の瞬間、オルナスが動いた…いや…動き終わっていた…


まるで、達人の動きである。


とても十歳の子供が放てる〈技〉では無かった…


刃渡りの短さから一刀のもとに首をはね飛ばす事は出来なかったが、確実に獲物を絶命させる一撃で有った。


オルナスは、パンツ姿のまま倒れて尚も血飛沫が舞う鹿に近づき、鹿の瞼をそっとおろしてやる…


〈鹿は死んだ事すら気がついて無いのかもしれない…〉


ワシは感心すると共に恐れた…


オルナスは普通の子供では無い…〈邪〉な物は感じなかったが、その動き、敵に対しての心使い…


攻撃前の〈一礼〉も、命を奪う相手に向けたものだろう。


確実にオルナスの中に〈武人〉がいる…それが、オルナスなのか、オルナス以外の何かなのかは解らないが…


少なくとも邪悪な者では無いのは確認出来た…


そして、続けざまにオルナスは鹿の足の筋辺りを切りつけ、木に吊るして血抜きと解体を始めた…


あの非力なのオルナスがである。


ワシは、鮮やかな技よりも腰を抜かす程の衝撃を受けた…


井戸の水汲みバケツすら必死でたぐり寄せなければ成らないオルナスが、いとも簡単に大人でも手こずりそうな大きさの鹿をロープを使い〈ヒョイ〉と吊るしたのだ。


オルナスは返り血で汚れるのが嫌なのか、パンツ姿のままで手際良く解体をしている…


ワシは、もう…動けなかった…動くことすら忘れていた…


そして、次の瞬間オルナスと目が合ってしまった。


…いや、合うはずは無い…はずだった。


オルナスの姿はワシの〈身体能力強化〉スキルで視力を上げて見える距離…


しかし、ワシには、


「えっ?!爺さん!!」


と、口を動かすオルナスが見えた…


〈やはり、気が付いてワシが見えているな…オルナスのやつは…〉


ワシは諦めて、パンツ姿の息子のもとへと向かった…

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