第2話 息子の将来を案ずる親
〈育ての親、オルグス視点です。〉
森から煙が立ち上っている。
〈何か異変が有ったのでは?〉
と、ワシは心配になる…
「オルフェス、今日はオルナスのヤツは何処に行くと言ってた?」
と長男に聞くと、
「南の森近くの川で〈鉱石探し〉してくるって言ってたよ。」
と鍛治の手を止めて答える長男に、
「そうか…」
と返事をしながら、煙の昇る南の空を見る…
〈アイツ、また魔物の死骸でも見つけて焼いているのか?…〉
アイツは何か不思議な子供だ…
初めて出会った時から、横転した馬車の側で鳴き声だけで森狼の群れを気絶させ生き残り、
ワシの子供に迎えた後も、イヤに大人しい…というかオッサンくさい子供だった…
どんな傑物に成るかと思っていたら、成長するにつれて段々普通…いや普通よりか弱い子供に成長した。
鍛治仕事を覚えて、ワシ達の手伝いをしたいと鉱石探しに出かけるのだが、
〈…心配でならん…〉
ソワソワして仕事が手につかない…
村の周りには魔物もいるし、武器さえ有れば子供でも勝てるスライムや角ウサギならば単体での遭遇ならば問題はないが…
オルナスの体力では…三匹ほどのスライムに囲まれただけでも十分危機的状態になるだろう。
本当は〈鉱石探し〉など止めて家で帳簿でもつけていて欲しいが…アイツはワシやオルフェスが何時間もかかる計算をあっという間に仕上げて出掛けてしまう…
将来は、次男のオルビスの店に行かすか、長女のオルガの嫁いだ宿屋で会計の仕事でもと考えている…
がしかし、
何故かアイツはそんな器には収まらない気もする…
暫くするとバケツに鉱石を詰めて〈ヒィヒィ〉言いながら汗だくの〈オルナス〉が帰って来た。
「爺さん、鉄鉱石が大量だよ…
あ~、重かった。」
と笑う息子にワシは、
「なかなか帰って来んから心配したぞ!」
と叱ると、オルナスは、
「ゴメンよ爺さん、ゴブリンの死体を処理してたんだ…」
と答える、
〈やはり、あの煙はオルナスか…ゴブリンゾンビに成るのはマズイから燃やしたのだろうが…
まさか、倒したのか?!〉
ワシは、恐る恐る、
「戦ったのか?」
と聞くと、オルナスはニコニコしながら
「凄いよ、オル兄ぃの作ってくれたツルハシは!
ザクッと一撃だよ、一撃!!
いゃー〈単体〉で良かったよ…」
と言っている…
〈まぁ、いくら非力なオルナスでも、こん棒でも有れば子供でも倒せるゴブリンだ…ツルハシが有れば倒せるかもしれないが…
本当に、非力なオルナスがいずれ魔物に殺られないかが心配だ…〉
ワシは、
「今回は単体で良かったが、複数ならば絶対に走って逃げろ!
鉱石もツルハシも捨てて構わないから!」
と言い聞かせるが、
オルナスは
「解ってるよ爺さん。」
と笑っている…〈ワシの心配も知らないで…〉
一見、能天気そうなヤツではあるが、オルナスは驚く程に勉強熱心だ。
この鉱石も自分で鍛治の練習をする用に集めている。
技術は長男に遠く及ばないが、飲み込みは長男以上かもしれない…
これで〈力〉が有れば将来〈アダマンタイト〉を加工出来る一流の鍛治師の道も有ったかも知れない…
しかし、オルナスの力では鉄も厳しい…
だが、アイツは毎日、その非力に立ち向かう様に槌を振るっている…
ヘトヘトになり、金槌の音も軽くなり、
鍛治場の熱気に汗だくになり、上半身裸に成ってからがオルナスの真骨頂だ。
急に金槌の音が息を吹き替えした様に力強くなる…
アイツの諦めの悪さや土壇場の粘り強さは、生まれながらのアイツのスキルか何かかもしれない…
しかし、ヘトヘトに成らなければ一人前の鍛治仕事が出来ないのでは、食べていくには体が持たない、
〈…本当に勿体ない〉
神が丈夫な体を授けて下されば、オルナスはワシやオルフェス以上の鍛治師に成れただろうに…
しかし、
オルナスは変な物を打っているな…
ナイフにしては長いし、鉈にしては細い、
多分、鉈では〈重くて〉取り回しが出来ないので、オルナス用の〈軽い〉鉈か何かだろう…
オルナスは既に出来上がりがイメージ出来ている様に迷い無く槌を振るっている。
少し笑みを浮かべて、楽しそうに…
アイツの作る作品は何故か興味をそそる…
さて、何が出来るかな?
オルナスが前に作った〈長首ねじり鎌〉と言う草刈り鎌は、〈庭師〉からも使いやすいと評判だ…
鍛治師ギルドに登録した特許料は、オルナスが成人した時に驚かせる様に内緒にしてあるが…
出来れば色々と発明して、特許料を使い田舎でのんびりする人生ならば非力でも大丈夫なのだが、
そんなにポンポンとアイデアを閃くとは限らないな…
アイツの将来はどうしてやれば良いのか?…
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