13話 匿名掲示板はほどほどに!
(一応、ホントに一応参考にするだけだからね!)
具体的にどうすれば良いのか何の案も思い付かないままだったので、仕方なく私は例の匿名掲示板を覗いていた。
もちろんファンの人たちの意見を知ることは大事だが、私たちはファンの人たちの言いなりになってはいけない! ファンの意見に左右され運営がブレブレになることは、意見を全く聞かないことよりもタチが悪い! そんな運営はファンの人に不信感を抱かせるだけだ!
……だからこれは本当に仕方ない行為なのだ。間違った情報に踊らされメンタルが削られる危険性があることは知っていたが、今は参考になりそうな情報を得るに背に腹は代えられない行為なのだ。アイドルのマネージャーというのは匿名掲示板を覗かねばならない過酷な仕事なのですよ……トホホ。
と呟きながらも、ギンギンに血走った眼で私はスマホを睨み付けていた。やっぱりこういうサイトは中毒性があるよね……。
(そもそも、スレッドが圧倒的に少ないんだよね……)
WISHの人気メンバーのスレッドは毎日多数のレスが付きどんどんと更新されていゆくのに対し、笙胡のスレはとても更新が遅かった。良くも悪くも注目されていないということなのだろう。
「池田笙胡とかいうマイナーメンバーのスレいる? そもそも圧倒的に過疎ってるんだから他の雑魚メンと一緒にしてあげた方が良いんじゃね?」
「いや俺は好きよ。パフォーマンスは今のアンダーの中ではダントツじゃない?」
「
「WISHのお遊戯会ダンスの中でドヤられてもな。っていうか彼女ダンスは元々子供の頃から習ってたとかでしょ? それならある程度出来るのは当然でしょ」
「いや一回生でパフォーマンス見てみろよ。マジで一瞬で持ってかれるから」
「俺は顔もめちゃくちゃタイプだけどさ、今さらフレッシュ感みたいのは無いもんな。それなら3期生の方推すわ……ってオタクがなるのも理解出来るっているか、人気出ないのも頷けるっているか」
「お前。池田オタならそこは意地でもアピールしてやれよ。オタがそんなだから人気出ないんじゃねえのか?」
「俺は正直なんだよ。ドルオタやってても嘘はつけないの!」
「アイドルなんて嘘を売る商売なんだから、そこは嘘に乗ってやれよ」
「笙胡たんペロペロ~!」
(……なんか、どの意見もそれなりに頷けるっていうか、的は射ている気はするなぁ。悔しいけど)
人気メンバーのスレだと明らかに的外れで無意味な叩きもかなり見受けられるのだが、このスレはそれすらなかった。不人気メンバーは叩く意味もないということなのだろうか?
「俺はあのリア充感が嫌いだね。腰掛けにアイドルやってる感がにじみ出てるよな。大学生やっている時だけの青春の思い出作りだろ? 部活感覚なんだよ」
「バカ、お前マジで彼女の握手行ってみろよ!釣ってくるようなあざとさはないけど、めちゃくちゃ全力で握手してくれるぞ?」
「手の骨砕かれそう」
「いや文脈で分かるだろ。ずっと手を握って目を見て真剣に話を聞いてくれるってこと。めちゃくちゃ好感持てるよ」
「俺は本人ってよりあのオタクたちのコミュニティがイヤ。排他的っていうかさ『お前ら今さらウチの池田笙胡に手を出すんか?』みたいな雰囲気出てるじゃん?」
「手を出すって、握手って意味ね」
「そりゃあ5年もキャリアがあって人気の出ないメンバーのオタクたちは『笙胡は俺たちが支えてきた!』みたいな自負があるやろ。別に彼女に限ったわけじゃない。しゃあない。そんなことが気に障るならドルオタ向いてないよ?」
「ああいう厄介オタってマジで自覚ないんか? 自分らのせいで推しの人気を下げてることにマジで気付かないんかな?」
「でも本人的にもアレで良いんじゃないの? オタサーの姫みたいに古参オタ相手になるとスゲー安心した笑顔見せるじゃん」
「いや、それは古参と新規じゃ対応違うのは普通でしょ。ずっと新規と同じような対応だったら逆に握手に通う意味もないでしょ」
「待て待て待て。何か話の流れ的に笙胡のオタが悪いみたいになってきてるけど、そんなことないだろ? 別に普通だろ、なあ?」
「そうだな。俺はWISHの過疎メン一通りしたが、もっと囲い込みがヒドイところも結構あった。池田推しは別にそこまで選民意識が高い方ではない。大人しすぎる……というよりも大人すぎてアピール弱いくらいに感じたな」
「良かった。客観的に話の出来るヤツがいて。なあお前に聞くがぶっちゃけ笙胡が人気出るにはどうしたら良いと思う」
「それは難しいな。アイドルはフレッシュ感が命だからな。転生でもしてくるしかないんじゃないのか?」
「もう良いって。転生系の3流ラノベは飽きた。いつまでアレやるんだろうな?」
(う~ん、イマイチ分かんないなぁ……)
大抵こういったスレッドは無意味なレスも多いのだが、ここは比較的それも少なかった。割と冷静で客観的な意見が多かったように思える。もちろん過激な言葉もあったがほとんどは頷けるような……自分も薄々思っていたことを言語化してくれたようなものが多かった。
(ってか、逆にこれじゃダメなんだよね……)
私が知りたいのは笙胡の客観的位置付けではない。彼女の濃いオタクの人たちが何を望んでいるのかだ。
彼らが笙胡に何を求め、どんな方向に彼女の活動を向かわせるのか……そのヒントを私は得たかったのだ。出来れば卒業までに少しでも笙胡の人気を上昇させ、彼ら笙胡推しの人たちに彼女を推していて良かったと思ってもらうようにしたい。
それは一マネージャーの私には難しいことだろうけれど、使命のように感じられていたのだ。
(う~ん、やっぱダメだ! 顔が見えない!)
私には握手会の時に見た笙胡のオタクの人たちの顔が浮かんでいた。だけどこのスレの人たちはどう見ても彼らとは違う人たちだ。
私は匿名掲示板を閉じ、別の場所を探し始めた。
(あ、これなんか良いんじゃない? 治安も良さそうだし写真も上げられてるし……あ、あの人は握手に来ていた人だよね?)
それはとあるSNSで見つけた『池田笙胡応援コミュニティ』だった。握手会で笙胡のレーンに並んでいた顔も幾つか見つけることが出来たような気がする。
当然匿名掲示板に比べ情報量は圧倒的に少ないが、名前も出して(今はSNS上のニックネームからでも本人に到達することが比較的簡単に出来ます。責任の持てない発言は控えましょうね!)人によっては顔も出しての交流がされているわけだから、比較的信用度は高いだろう。
(え、オフ会? オフ会なんてあるんだ。いつ?……って今週末!?)
そこには都内近郊で行われる池田笙胡推しによるオフ会が催される旨が書いてあった。
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