57話 タイムスリップ!

「ちょっと、ちょっと! 2人ともそろそろやめて下さ~い!!! 」


 勇気一躍、無謀にもはるぴよは剣を振るう近藤と土方の間に飛び込んだ。


「ええい邪魔立てするな、小娘!」

「死にたいのか! この阿呆!」


「私、気付いたんです! お2人を仲直りさせるには、もう幕末に戻るしかないんじゃないでしょうか!? それもですね、タイムスリップしてきた戊辰戦争の頃じゃなくて、もう少し前の時間に戻るんです! そうすればお2人も新鮮な気持ちを取り戻して仲直り出来るんじゃないでしょうか!?」


「は?……何を言っている小娘……」

「……別に俺たちは仲良しこよしでやっていきたいわけじゃねえよ」


「でも! でもでも、もう少し前に戻ることが出来たら……幕府が傾くことを知っていてその当時に戻ることが出来たら……その後の世の中は変わっているかもしれないですよね? 薩長の世の中じゃなくて、幕府の世が続いているもしれないですよね?」


「……」「……」


「ねえ、ケットシーちゃん! タイムスリップしてきた当時じゃなくて、もう少し前の時代に戻ることも出来るんだよね!?」


「あ、え、はい。……えっと、全然行ったことがない時点に戻るのは物凄く魔法力を使うので今の私にはムリですけど。私が最初に向こうに行った時点……沖田さんに初めて会った時……皆さんがタイムスリップしてきた大体3年前くらいですかね、その地点なら時空の破れがまだあるので、簡単に戻ることも出来ると思いますけど……」


「みんなを連れて戻ることも出来るよね!」

「は、はい……。元の世界に戻るのは異世界に連れてくるよりも簡単ですので……」


「ってことは、新しく何人かをそっちの世界に連れてくってことも出来るよね!」

「……ま、まあ、モンスターたちを大量に連れていくことに比べたら容易いですから……少しの人数なら出来ますけど」


 突然のはるぴよに質問責めに気圧されてタジタジとなっていたケットシーちゃんだった。

 はるぴよがにんまりと微笑む。


「はい! ということで決まりです! 今から皆さんは一緒に幕末の世界に戻ります! 3年前の世界だそうです!」


「は? 何を勝手に……」

「そうだぞ、俺も近藤さんもまだ納得いってねえぞ……」


「ダメです! もう決定事項なんです! そこに私もえまそんも行きます! そして皆さんの間に入って皆さんの人間関係が円滑に、歴史の進行が幕府寄りに進むように上手くやりますので! 皆さんは心配せずに通常の業務に勤しんでいただければ結構ですから!」


「3年前ってことは……池田屋事件の辺りかな? まああの辺から本当にやり直せるって言うんなら何でも出来そうな気がするなぁ」


 他の誰1人として納得は行っていなかったのだが、沖田が向こうの世界の懐かしむ表情をしたことで風向きが変わった。


「そうだな……」「まあ、それも有りかもしれん」「もう一回京で浮浪狩りをするのも悪くないか……」


「はい、決まりです!!! 私も当然皆さんに付いて行きますからね! けしかけた責任がありますから!」


「あ、はるぴよぉ? わたしはパスしとくよぉ。もちろん幕末の世界を覗いてみたいし、もっと皆さんと一緒に居たいけどさ、もうすぐ旦那も帰ってくるから晩御飯の準備もしなきゃいけないしさぁ…………あと、何かちょっと不安なんだよねぇ」


 えまそんがと言い出したのを聞いて、はるぴよも仕方なくうなずく。


「そっか、そうだよねぇ。あんたは独り身の私と違って旦那さんがいるんだもんね、いきなりそんな勝手なことは出来ないよね。……ま、良いわ。向こう行っても配信は続けるからさ、また以前みたいにこっちの世界に残って時々配信を手伝ってよ。歴史はアンタの方が詳しいからアドバイスも色々ちょうだい」


「うん、それくらいなら大丈夫だよぉ。……えっと、皆さんに会えてとっても嬉しかったです。ありがとうございましたぁ!」


 えまそんがペコリと4人の新撰組に頭を下げる。


〈えまそん可愛い!〉

〈旦那を大事にする律儀なところが好感持てる!〉

〈ってか幕末の世界から配信するのかよwww無茶苦茶www〉

〈ったりめーだろ! 他人のために親切に問題を解決するフリして、自らの配信の数字を稼ぐことしか考えてない。それが俺たちの応援するはるぴよの姿だろうが!〉

〈マジで、えげつねえなwww〉

〈え、でもさ、マジで幕末の世界を生配信なんて出来るなら見てみたくない?〉

〈そりゃあ見たいに決まってんだろ! マジで斬り合いする新撰組見たい! 坂本龍馬とかも出てくるかな?〉






「えっとぉ……ホントに良いんですか? じゃあ行きますけど、大丈夫ですか?」


 ケットシーちゃんが一同を見渡して再度確認を取る。

 近藤と土方は未だ完全に和解したというわけでなくお互い目線も合わせようとしないが、それでも本当に戻れるのなら構わない、というスタンスのようだ。


「はい! お願いします!」


 はるぴよ1人が目を輝かせていた。

 今まで誰も過去にタイムスリップしてその様子を生配信した……なんていう配信者は存在しないのだ。というか誰もそんな発想すらしたことがないだろう。

 自分の生配信は話題になるだろう。 なるに決まっている! 誰もしてこなかった幕末世界の配信という開拓者に自分はなるのだ! 配信界の一人勝ちはもう確定したようなものだ!

 輝かしい前途を想像し、はるぴよは多幸感に満ちていた。




「は~い、じゃあ行きますよ、時空離脱タイムリープ!」


 はるぴよは眩い白い光の中に飛び込み、身体が軽くなっていくのを感じた。



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