52話 近藤勇のダンジョン攻略
「……こちらの世界に来た当初はワシも何が何だかわからんままだった。ともあれ武人たちが皆ダンジョンとやらに入って行くのを目にしてワシもそれに倣ってみたのだ。酒場で話を聞くと散々『苦労した』『死にかけた』とかそんな言葉ばかりを耳にしておったゆえ、ワシも愛刀の
近藤の乾いた笑いは、手応えのない戦いを思い出し心底残念がっているようだった。
「おぬしらは今50階層あたりだったか?」
近藤が突然はるぴよの方を見て尋ねた。
「あ、え、はい。ちょうど50階層を先日攻略したばかりですけど……」
唐突な問いかけにはるぴよは戸惑う。
だがそれよりも、はるぴよたちの動向を逐一把握しているかのような近藤の物言いが不気味だった。
「そうかそうか。実はな……この新宿フルシアンテ、50階層を越えると
「……え、人間? 人間がモンスターとしてダンジョンから発生してくるってことですか!?」
「そうだ。その中には赤毛
「え、近藤さん1人でってこと? スゴイ……」
えまそんが小さく感嘆の声を漏らした。
土方・沖田・斎藤の3人がそれぞれ近藤と同等程度の戦闘力を持っていると考えると、はるぴよと共に攻略してきた50階層程度のダンジョンは、彼らにとってあまりに生ぬるい戦場だったということになるだろう。
「こちらは1人で相手は多数ゆえ苦戦もしたが、何とか進んでゆき100階層に至るとそこには街が広がっておってな……多数の冒険者、そして商売や職人など多数の人間、そして見たこともない半獣半人の連中など雑多な連中がそこにはおったのだ」
「街!? 100階層には街があるんですか!?」
はるぴよは近藤の言葉に驚いた。
ダンジョンの奥底がどうなっているのか、そこに実際に辿り着いたという冒険者の話は様々に語られていたが、街が広がっているという話は今まで一度も耳にしたことがなかったからだ。
どんな街が広がり、どんな人々がそこにいて、どんな暮らしをしているのか……そこからダンジョンのさらに奥底にはどんな世界が広がっているのか……想像は膨らむばかりだ。
「街に足を踏み入れるとな、誰も彼もがワシをチラチラと見ておるのに気付いた。……だが敵意を持ってこちらを狙っている視線とも違う。かと言ってこちらが話しかけようとすると向こうは逃げてしまう。……どうやら1人で100階層にまで辿り着いた冒険者はワシが初めてのようでな、ワシに対する畏敬の視線だったらしい」
そもそもソロの冒険者が珍しいのだ。ソロで30階層を超えるような冒険者はかなりの上級者と目される。近藤はほとんどダンジョン攻略のノウハウも知らず、ただただ自身の戦闘力で進んでいったということになる。これはかなり異常だ。
「酒場に入って話をしてみると、どうやらワシの存在はかなり噂になっておったようでな……それこそワシの仲間に入りたいという連中もかなり多かった。そこでワシははたと閃いたんじゃ。『ここの連中を全員率いて薩長のヤツらを全員ぶっ潰す。ヤツらが作った産まれたてホヤホヤの明治新政府とやらをぶっ潰すべきなのではないか?』とな」
「……………………」
「……………………」
近藤の語った野望のスケールの大きさ、そして思いもよらぬ方向への話の飛びっぷりに一瞬誰もが言葉を失った。
「薩長の連中ももちろん戦の専門家ではあろうがな、空から物の怪の類が襲ってくることまでは想定していまい! ミニエー銃よりも遠くから魔法の火球が飛んで来ることは想定していまい! この連中を率いていけば、明治新政府とやらの転覆も絵空事とはいえないだろう。どうだ、歳?」
自身の構想を語った近藤の顔はどこか得意気であった。
それに対し話を振られた土方は、近藤のそんな態度がはなはだ気に入らないようだった。
「……待てよ、近藤さん。アンタには戻る算段があるっていうのかよ?」
そうだった。こちらでどれだけの大勢力を築いても戊辰戦争のあの時期・あの世界に戻ることが出来なければ近藤の目論見は全くの絵に描いた餅に終わるだろう。
「……ねえ、待って! やっぱり近藤さんには協力者がいたってことだと思う。どれだけ近藤さんが強くたって初見で、しかもソロで、そこまでスムーズにダンジョン攻略が出来るとは思えないわ! それに近藤さんは私たちがここに来ることを知っていて現れたんでしょ? どこから私たちの情報を得たの?」
はるぴよ自慢の打算コンピューターはここでも冷静に機能を発揮していた。
はるぴよの指摘に近藤はニヤリと片頬を歪ませる。
「ほほぉ、小娘。流石は慶光大学とやらを修めただけのことはある。ウチの連中と来たら腕は立つが学のない連中ばかりでな……。なんなら小娘も仲間に加えてやっても良いぞ?」
「え、ホントですか? 私、新撰組の近藤勇局長にスカウトされちゃった……」
高学歴だが自己肯定感はとびきり低いはるぴよは、まさかの事態に頬を染める。
「茶化してないで答えろよ、近藤さん! アンタに協力した人間がいるってのかよ!?」
土方が詰め寄ると、近藤は再び頬を歪めて笑った。
「もちろんだ。ワシ1人では状況もわからず、何をすれば良いかわからぬまま迫ってくる敵を斬って捨てていただけだっただろう。ワシに協力してくれた人間は……人間と呼んで良いのか分からぬが……もうお前たちも会っておるぞ?」
近藤の言葉に誰もが固唾を飲んだ。
近藤、そして3人の新撰組がこちらの世界に来た謎が明かされる……とでも言うのだろうか。
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