50話 腐れ縁
「やほほ~、はるぴよです! 今回は緊急で生配信しております! 今回は私のアンチであるケットシーちゃんと対談してみたという企画を進行していたのですが、なんとそこに登場したのはなんと新撰組局長の、なんと
〈また例によって白々しいな!〉
〈仕込みに決まってんだろ? ってかどうせコスプレの偽物だろ。土方、沖田、斎藤がウケたから近藤勇も……って安易過ぎだろ!〉
〈まあでも、新撰組3人がこっちの世界にいるなら近藤勇もいてもおかしくなくね?〉
〈ってか久しぶりの再会の割には、全然盛り上がってないけどな。仕込みならもっと分かりやすく感動的なシーンにするはずだけど?〉
「……………………」
「……………………」
むっつりと重たい沈黙が場を支配していた。
(……ってかなんか雰囲気ヤバくない? 本物の近藤勇さんなら感動の再会でもっとすぐ打ち解けるんじゃないの?)
配信者としての条件反射で考えるより先にいつもの口上が出てしまったはるぴよだったが、どう見ても彼らの雰囲気はそれにそぐうポップなものではなかった。
「どうした、
「……ずっと別の世界に来たと思ってたのに、突然現れたアンタをそんな簡単に信用できるかよ……まあこうして目の前に現れちまった以上、アンタがどうやら近藤勇本人だってことを信じないわけにはいかないようだがな」
「おい、なんだよ歳? ずいぶんと冷たい物言いだな。俺とお前の仲じゃねえかよ? たしかに少しの間は離れてしまっていたけれどもよ、俺とお前は産まれてこの方ガキの頃から30年も一緒にやってきた仲じゃねえかよ! ずいぶんと水臭い男になっちまったなぁ、歳!」
「その離れ方が良くなかったんだろ、近藤さん!」
若干の口論になって、ようやく本来の土方が出てきたように見えた。
(……やっぱ、近藤さんにとっても土方さんは特別なのかな?)
2人の様子を見てはるぴよはふと思った。
沖田も斎藤も近藤との会話を土方に完全に任せているのだ。2人だって若い頃から近藤を知る仲間だし、新撰組として生死を共にした仲のはずだが。
土方が言葉を続けていた。
「……アンタは確かに俺の知る近藤勇だ。目の前に現れちまった以上それを認めないわけにはいかねえ。……だがな、アンタの眼には俺の知らない世界が映ってやがる」
「ふ、何を言ってんだ、歳?」
「俺とアンタの腐れ縁だ。眼を見りゃあわかるんだよ!アンタはいつだってそうだ。
「……………………ふ。そうかい、歳。俺も随分と嫌われちまったな」
土方の強い言葉に近藤も一瞬驚いたようだった。四角い大きなアゴをポリポリと掻いていた。
普段は物静かというかボソボソと話す土方の強い語気に、その場にいる誰もが少々面食らっていた。それは視聴者も同じかもしれない。
「……茶化してんじゃねえよ! そもそもアンタは俺たちの存在を知った上でここに来たんだろ? 隠してること全部言えよ!」
土方の再びの言葉に近藤はアゴを掻いている右手を止めた。
そして大きな口を開くとガハハと笑い始めた。
「ふふ、流石は歳。鬼の新撰組副長、俺が見込んだだけのことはある!」
「……よせよ、俺はアンタに見込まれて新撰組を作ったわけじゃねえよ……」
対する土方が苦虫を噛み潰したような表情で吐き捨てたのは対照的だった。
「……ゴホン。まあそうだな、歳。それに総司! 斎藤君! この3人に免じてワシの野望を話して差し上げようではないか!」
ようやくといった感じで、近藤勇は自らがここにやってきた理由を語り出した。
「ワシが甲州勝沼で
しみじみとした感じで話し始めた近藤だったが、はるぴよはイマイチ話に付いていけていなかった。
共に行動する相手のことをあまりに知らないのも不便だと思い新撰組に関して多少知識を得てはいたが、近藤勇という人のことは重要度が低いと判断して調べていなかったのだ。
「……ね、えまそん。どういうことなの? 近藤さんってのは新撰組の社長みたいな人なんでしょ? 何で単純にすぐ感動の再会! ……って感じにならないのよ?」
動画を回しながらはるぴよは識者であるえまそんにお伺いを立てた。
視聴者の多くも新撰組の事情に関してそこまで詳しくはないだろうから、この問いかけは有効だった。
「う~ん、そうねぇ、どこから説明すれば良いのかしらね? ざっくり言うと……薩長を中心とした新政府軍と旧幕府軍が戦ったってことは知ってるわよね?」
「
「そう。鳥羽伏見の戦いに負けて以降幕府軍は東に敗走してゆくんだけど、新撰組もその中に含まれていたのね。……で、
「生きるか死ぬかっていう一番大事なところでケンカ別れしちゃったってこと?」
「……うん、まあそういうことなんだと思うよ。……って今生きている本人を目の前にしてこんな話するのも変な感じだけどねぇ……」
えまそんの感慨深いため息が漏れた。
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