35話 はるぴよとシニチェクの過去

「は~い、新規の冒険者さんかな? ……えっとはるぴよちゃん? 可愛い名前だね? っていうか慶光大学けーこー卒業ってマジ!? 天才じゃん!」


「あ、いえ……全然そんなことないんですけど。私はホントに勉強しかして来なかったんで、生まれつき本当に頭の良い人たちとは全然レベル違うんですけど……」


「え、そんな子が何でダンジョン冒険者になんてなろうと思ったの?」


「え~とですね、それは、まあ色々事情があるんですけど」


「へ~、詳しく聞かせてよ! あ、名乗るの遅くなっちゃったけど俺シニチェクって言うんだ!」




 はるぴよがシニチェクと最初に出会ったのは今からおよそ半年前。

 はるぴよがダンジョン攻略配信者になろうと一念発起して冒険者ギルドに登録してから5日後のことであった。

 当時のはるぴよは燃えていた。今も配信者として有名になることには並々ならぬモチベーションを燃やしているが、当時も燃えていた。

 とにかく最初は誰か先輩冒険者とパーティーを組むのがレベルを上げる近道だと思い、そのためにギルドの掲示板に自分のプロフィールを書いて貼っておいたのだった。




 強引に近付いてきたシニチェクと共にパーティーを組むことになったはるぴよだったが、最初は彼に対する印象もとても良かった。

 グイグイ引っ張っていってくれるのが頼もしかったし、一から十までダンジョン攻略に関することはとても親切に教えてくれた。

 だがほんの数週間もするとシニチェクの方からパーティーを解散したいと告げられ、はるぴよは一方的に捨てられたのだった。

 慶光大卒というはるぴよのプロフィールを見たシニチェクは、彼女の頭脳に何か利用甲斐があるかもしれないと思い近付いて来たのだった。だが数週間共にパーティーを組んでもさして利用価値はないと判断しあっさりとはるぴよを切り捨てたのだった。




 そこからのはるぴよは声を掛けてくる先輩冒険者たちを全く信じられなくなっていった。特にチャラそうな男性冒険者には目の敵のような敵意を抱き続け、誰とも共にパーティーを組むことが出来なかったのである。

 しかし当然ながら初心者のソロ攻略など相当に難しい。

 新撰組3人と偶然出会うまでのはるぴよはどん底の冒険者ライフを送っていたのだ。

 それでもはるぴよが冒険者を諦めなかったのは執念深い性格による。

 はるぴよは一度やり始めたことを投げ出すのが大嫌いな性格だったし(それは過酷な受験勉強によって培われてきた部分が大きいのだろう)、自分を捨てたシニチェクにいつか復讐してやりたいという思いを抱き続けていたからでもあった。

 

 本日になって偶然シニチェクと再会した際も、当然反発の感情の方が強かったのだが、それよりも徐々に人気になってきた配信者としての自覚が、個人的感情を上回ってなんとか理性的にコラボを成し遂げたのだった。

 ……だがまあ諸々あって、こうして抑えていた感情が炸裂してしまったというわけだ。




「大体アンタみたいな人間がいるから『ダンジョン攻略配信なんてオワコンだ!』『配信者なんて人間的クズばっかりだ』って言われるのよ!」


「…………」


 はるぴよによるシニチェクとの思い出語り(そんな生易しいものではなかったが)はもうずいぶん長い間続いていたが、はるぴよの怒りのテンションは一向に収まらなかった。

 いや、当時を振り返っているうちに怒りはさらに生々しいものとして思い出されてきたのだろう。どんどん舌鋒は鋭くなっていた。


「アンタの女に対するその押しの強さ、自分に対する自信は全部自分の容姿のアドバンテージから来るものでしょ!? そういうのホントムカつくのよ! こっちは容姿のコンプレックスを解消するために必死に必死に勉強して慶光大学まで出てさ! でもアラサーにまでなっても結局消えないから、ダンジョン配信者になって有象無象の視聴者にチヤホヤされれば少しはそういう気持ちも解消されるかと思ってたのにさ! ……なのにさ、うう……」


「いや、はるぴよはスゲェと思うぜ……慶光出れるなんて、そんな人間何人いると思ってるんだよ? 俺なんかより全然スゲェって……」

「うるさいっ! アンタなんかに何がわかんのよ! 私の苦労が!」


 今にも泣き出しそうなほど感情の昂ったはるぴよに対し、責められている当のシニチェクがなぜかなだめる側に回ってしまった。だが当然情緒不安定が爆発したはるぴよはそれも拒絶した。


「女なんて自分が押せば全部言うこと聞くと思ってるんでしょ、このクズ! アンタみたいな人間がいるから女は男を信用出来なくなるのよ!」


「……いや、そういうつもりじゃないんだぜ……どっちかって言うと俺が声掛けると女の子はみんな喜んでくれるっていうかさ……」


「内容が正しければ文句はないわよ! でもアンタの場合は自分勝手すぎるのよ! ……用が済んだと思ったらすぐにポイっと捨てて、人間も使い捨ての消耗品くらいにしか思ってないんでしょ!?」


「あ、いや……たしかに俺もコロコロとパーティーのメンバーを入れ替えている時期はあったけどよ……でも今はコイツらと出会って最後までこのメンバーで一緒にこの『新宿フルシアンテ』を攻略しようと本気で思ってるんだぜ?」


「そうだよ~……ウチらもシニチェクがちょくちょくメンバー入れ替えてるのも知ってたから、最初は正直あんま信用もしてなかったんだけどさ。……でももうホントにここ半年くらいはこの4人でずっと一緒だし、最近はもうそれが当然みたいになってそれすらも言わないみたいな雰囲気になってるっていうかさ……」

「うるさい! 巨乳は黙ってろ!」


 ファッサマーユがその豊満な肉体とは裏腹に、控え目に話に入って来たのだが気の立っていたはるぴよは聞く耳持たずに一蹴した。


「それにさ、知ってる? アンタの真似して初心者を食い物にしてるパーティーも最近増えているのよ?」


「いや……それはもちろん知ってるけどさ……別に俺らの真似じゃないだろ?」


 それはダンジョン攻略配信者界隈で最近問題になっている風潮だった。

 ある程度レベルが上がった冒険者が慣れない初心者冒険者に目を付け、援助するフリをして何かと難癖をつけて搾取する……といった行為が相次いで問題になっているのだった。


「……ふん、まあ良いわ。とにかくアンタは今までの行動を悔い改めて他人にもっと感謝すべき!自分のナチュラルな恵みにもね!」




「あ、あの~……」


 言いたいことを言い終えたのか、はるぴよの舌鋒もやや落ち着いたかと思われた時、再びファッサマーユが遠慮がちに声を掛けてきた。


「……あん?」


 ファッサマーユが声を掛けてきた瞬間、再びはるぴよは親の仇かのような眼で彼女を睨む。


「あのさ~、シニチェク? はるぴよさん?……すっごく言いにくいんだけどさ、あ~し配信切るの忘れてたっぽいのよね……」


「……は?」「……マジで?」


 本当に申し訳なさそうな顔をして頭を下げる女武闘家(巨乳)を、2人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で見つめていた。



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