34話 シニチェク敗北!

 戦闘の相手が土方ひじかたに交代してからのゴーレムは実に脆かった。

 土方は目の前の戦いを見てすでに倒すイメージを膨らませていたのだろう。

 鉄槌を放とうとゴーレムが拳を振り上げた瞬間に顔面に向かって飛び込み、猛烈な突きを当てて転倒させた。

 自分よりも倍の背丈があり、恐らくはさらにその何倍もの質量を持っているゴーレムに対しても一切の恐れのない刺突だった。その躊躇の無さが昏倒させるだけの威力を生んだのだろう。ビビッて中途半端な攻撃ではダメージを与えることは出来なかったはずだ。

 それはつまり土方の自身の攻撃力に対する強烈な自信の裏付けがあってのことである。


 昏倒させたゴーレムに対し土方が間髪を入れず首元に刀を突き刺すと、ポンッと音を立てるようにその頭部は弾け、横たわった巨体は周囲の地面と同化して消えていった。

 ダンジョンそれ自体が魔物である……と時々噂されることを証明しているかのような不思議な光景だった。何度こうした場面を目の当たりにしてもどこか現実感がないな……とはるぴよは感じていた。




〈ダセ! シニチェク、ダセェ! コラボ配信しといてこれはないでしょ?〉

〈っていうかお侍さんカッコイイ! めっちゃ強いじゃん!〉

〈まあ、思ってたよりもこのゴーレムが強かったってのもあるけどさ。結局自分らのパーティーのリーダーがピンチになった時に別のパーティーの方が先に救援に来るなんてさ、パーティーの結束のもろさが出たよね?〉

〈まあなぁ。俺はシニチェクパーティーを何となく応援してただけに残念だな……〉




「……え~、最後は土方さんが美味しい所を持っていったような形になりましたが、やはりそこに至るまでのシニチェクの頑張りでゴーレムさんも瀕死近くまでダメージが溜まっていたんだと思います! ……え~、ともかくこうして協力して20階層を突破することが出来ました! 私たちはるぴよパーティーにとっては初めての快挙です、ありがとうございます! ……え~、シニチェクは少し休憩が必要なようですのでまた回復しましたら、それぞれのチャンネルで配信を再開できるかもしれません。とりあえずは20階層突破という成功をもってシニチェクパーティーとのコラボは一旦終了とさせていただきたいと思います。コラボしてくれたシニチェクパーティーのみんな、それから見てくれた視聴者の皆様本当にありがとうございました! 良かったらチャンネル登録、好評価よろしくお願いいたします! またアーカイブも残しますので…………」


 収拾がつかなくなることを予想したはるぴよは一旦配信を終了することにした。

 各方面からの様々なコメントが飛んできてはいたが、とりあえずは全てスルーして配信を終了することを最優先したのだった。

 こうした事態になるとははるぴよ自身思っていなかったし、何より相手方のシニチェクパーティーの方が不測の事態に慌てているだろうと判断したからだ。






「……ったく、何なんだよ!!!」


 ずっと寝転がっていたシニチェクだったが、はるぴよの配信終了の挨拶で反射的に我に返ったようだった。

 叩き付けたシニチェクの愛剣が地面に跳ね返りカラカラと乾いた音を立てた。


「あ、ごめんシニチェク。ホントはここまでメンツを潰すつもりはなかったんだけどさ……。ゴーレムに何回かヒールを掛けたらそっちのパーティーの誰かが援護に来るのかと思ってたんだけどね。どうもそっちのパーティーの人たちはさ……」


「……俺がいつも口酸っぱく言ってるからな……。俺の指示のない勝手な行動はするな! 俺のパーティーに入りたい冒険者は一杯いるぞ。余計なことをしたら別のメンバーに替わってもらっても構わないからな! ってな」

「……みたいね。アンタがピンチになっても3人とも全然助けに来なかった」


「…………」


 シニチェクには返す言葉がなかった。


「いや……アンタにはアンタのやり方があって、それで人気配信者になってるんだから別に私が口を挟むことじゃないのかも知れないけどさ……」


「……んだよ、説教か? 良いぜ! こうやってみっともない姿を配信で晒した直後なら余計に有効だよな!?」


 せめてもの反撃とばかりにせせら笑ったシニチェクに対し、はるぴよは一つ大きくため息をついた。


「……ね、えまそん? 私の配信、ちゃんと切れてるよね?」


「え~? はいはい~、しっかり配信は終了してるわよ~。コメント欄は未だに賑やかだけどね~」


「……オッケー」


 確認を取ったはるぴよは改めてシニチェクに向き直った。


「な、何だよ?」


 思いもかけない強気なはるぴよの視線にシニチェクもたじろぐ。戦闘に敗北したという事実がなおさら彼を弱気にさせていたのだろう。




「ったくさ、アンタほんっと馬鹿じゃないの!!!? いい加減にしなさいよ!!!」


 珍しいはるぴよの大声に当のシニチェクだけでなく、いつもは彼女のことをどこか軽く見ている新撰組3人もビクッと固まった。


「大体さ!!! アンタが私と出会った時から全く成長してないんじゃないの? いや、むしろ余計に悪くなってるわよ!!!」


 はるぴよとシニチェクが出会ったのはおよそ半年前。

『ダンジョン攻略者免許』を何年か前に取得していたはるぴよが、ダンジョン攻略配信者になろうと一念発起して冒険者ギルドに登録してからわずか5日後のことであった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る