33話 シニチェクのピンチ!
〈何かマジで苦戦してね?〉
〈シニチェクも大したことないな……所詮はエンタメ路線の配信者だもんな〉
〈つーか、エンタメの意味を履き違えてるんじゃね? 俺たちは別にモンスターとの良い勝負が見たいわけじゃねえんだよな。ただただモンスターを一方的にボコってる姿を見てこっちはストレス解消したいだけなんだからさ〉
〈いや、そういう演出とかそういう次元の問題じゃなくてさ……20階のゴーレムってこんな強かったっけ?〉
〈あ? 知らねえよ。つーかイマドキ20階層くらいの戦いをそんな真剣に見るやついねえだろ?〉
〈いや、いくらボスとはいえこの階層で自己修復のスキルを持ってる敵は居ないでしょ? それにさっきからスピードも上がってない?〉
たしかにゴーレムの攻撃は徐々に鋭さを増してゆき、いつの間にかシニチェクの方が守勢に回る機会が多くなっていた。しかもスピードだけでなくその攻撃パターンも増えていっていた。
「シニチェク殿~、もしご入り用でしたら我々すぐに救援に駆けつけさせていただきますゆえ! いつでもお申し付け下され~!」
いよいよという頃合いを見計らってか、
「……ありがとよ! でもまだまだご無用、だ、な!」
シニチェクもその言葉に発奮したのか、ゴーレムが攻撃してきたタイミングでカウンターに踏み込んだ。
「おお! 流石! やったかな?」
「……3発入れたな。左右の連撃、そして最後の刺突。意外とやるな、あのいけ好かない小僧」
一瞬土煙が上がってどうなったのか分からなかったが、その後残されたのは地面に横たわるゴーレムと、その向こうで残心を取っているシニチェクの姿だった。
沖田と斎藤が何やら今の攻防を見てシニチェクを評していたが、はるぴよはその速さに何が起きたのかさっぱりだった。ともかくシニチェクのカウンターは見事に決まったようだった。
相手が攻撃してくるタイミングでそれに向かって踏み込むというのは勇気の要る行動だ。ビビッて後ろに下がっては相手を余計に勢いに乗らせるだけだ。相手が踏み込んできた瞬間こそがチャンスでもある……ということが頭では分かっていても、それを実践するのは簡単なことではない。
ましてや相手は自分の倍以上は大きなゴーレムだ。シニチェクは口だけの男ではない。
「……ち、まだダメか……」
シニチェクの目にも止まらぬ3連撃で倒れたゴーレムだったが、残念ながらいまだ力尽きてはいないらしく再び立ち上がってきた。
未だゴーレムとシニチェクの死闘は続いていた。
(まあ、ゴーレムに自己修復機能なんてなくて私が普通にヒールを掛け続けてるだけなんだけどさ。……でも、確かにゴーレムはシニチェクの攻撃への対応が早くなってる。フロアのモンスターたちは戦いの中で学習するなんて機能は備えていないはずなんだけどな……)
ゴーレムに5度目のヒールを密かに放ちながらもはるぴよは首を捻った。やはりどこか今までのダンジョンの常識とされたものが変わりつつある。そう思わざるを得なかった。
「おい泥人形! そろそろいい加減にしろや!!!」
何度も会心の攻撃を当てているのに少しも動きを変えないゴーレムに、流石に苛立ってきたのかシニチェクは声を荒げた。
だがそれと共に放った斬撃はゴーレムの分厚い肩口に当たり、その衝撃で逆にシニチェクが剣を取り落としてしまった。
「……くそっ!
シニチェクは魔法力もすでに尽きかけていたのだろう。ファイアーボールより低級のファイアしか撃てなかった。
だが残念ながらゴーレムの巨体は単なる火炎で止まりはしなかった。
そのまま突進してきたゴーレムの体当たりでシニチェクは大きく吹き飛ばされる。
「……ねえ、シニチェク? そろそろヤバいんじゃない? 替わっとく? ……私も流石にシニチェクが死体になるところまでは実況配信は出来ないよ?」
吹っ飛ばされたシニチェクはちょうどはるぴよの足元に転がってきた。
いよいよ、この時が来たのだと声を震わせながらはるぴよはシニチェクに問いかけた。
「……バカ言ってんじゃねえ。まだお前に助けられるほどのピンチじゃねえよ!」
起き上がれないシニチェクだったが、それでもまだまだ心は折れていないようだった。
……だが
「危ない!!!」
向こうでカメラを構えていたファッサマーユの悲鳴が上がった。
ゴーレムの追撃は想定していたよりも早く、倒れたままのシニチェクに向かって大きな鉄槌を振り下ろしてきたのだ!
はるぴよに気を取られていたシニチェクは一瞬反応が遅れた。このまま叩き潰される……という
ガキッ!!
だがゴーレムの鉄槌が最後まで振り下ろされることはなかった。すんでの所で横から飛び出た土方がその攻撃を替わりに受け止めたからだ。
「シニチェク殿! 緊急ゆえな許諾も得ずに失礼ではあるが助太刀致す! 命あっての物種ゆえな。少し休んでおられよ!」
嬉しそうな土方の満面の笑みだった。沖田ならともかく土方のこんな笑みを見るのは初めてだった。
そう、すべては土方の策略だったのだ。
挑発して1フロアずつ交代で攻略してゆくこと。攻略はパーティー全員ではなく1人ずつで行ってゆくこと。別にシニチェクたちはこんな条件を真面目に呑む必要はなかった。万全を期して4人全員で攻略していった方が確実だったはずだ。だが格下と見下していたはるぴよパーティーに挑発されてはその誘いに乗らないわけにはいかなかった。
そしてゴーレムへのはるぴよのヒールである。
はるぴよも最初は先の19階でのシニチェクの敵方への援助という非常識な行動への怒りから実践した行為だ。だが間近で弱っていくシニチェクを目の前にしては流石に心苦しくなってきたところだった。
ここで土方が割って入ってきたことで、この作戦もようやく終了を迎えることになる。ようやく胸をなで下ろしたはるぴよだった。
シニチェクもすでに心も身体も限界を超えていたのだろう。飛び出してきた土方の姿を見ると緊張の糸が切れたように地面に身体を横たえた。
「……くそ……勝手にしろ……」
その表情は悔しそうでもあったが、同様にどこかホッとしたような安堵の表情でもあった。
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