32話 シニチェクの本気
(あんな顔もするんだ……)
カメラを自らのパーティーのファッサマーユに渡し、ゴーレムと対峙して剣を構えたシニチェクは一気にシリアスな表情になった。はるぴよも多少驚きはしたが、だからといって別にシニチェクのことをカッコイイ! とか思ったわけではない。そりゃあ、あれだけ嫌味を言われてはそんな感情を抱きようがない。
だが裏の顔を知らない視聴者は違う。
〈キタキタキタ! こっちの顔の方がシニチェクの本領発揮って感じよね!〉
〈もう、いっつもふざけた顔で誤魔化すんだから……でもギャップがカッコイイ……〉
〈え、でも、一度倒したゴーレム相手でもそんなマジになるもんなの?〉
〈そりゃあ仲間と一緒の時と1人で戦うのとは全然違うだろ?〉
「っしゃあ、いくぞ泥人形ちゃん!」
左手に小楯を持ち右手に片手剣を持ったシニチェクは、どちらかというと西洋の騎士を思わせる装備だった。新撰組の3人が防具らしい防具をほとんど持たない軽装であるのに対し、シニチェクは鎖で出来た鎧も着ており重装備に見える。
だがその動きは軽快そのものだった。
一瞬で近付くとゴーレムの脇腹のあたりに鋭い斬撃を放った。
ガキッ!
斬撃を放った後のシニチェクはすでに駆け抜けており、5メートルほど向こうでこちらを再び振り返ったところだった。
ゴーレムの左脇腹には大きな傷跡が2本刻まれていた。
〈スゲ!いつの間に2回も攻撃した!〉
〈俺じゃなきゃ見逃しちゃうね!〉
〈いや、お前も見えてねえだろ! 傷から二撃あったって判断してるだけで!〉
コメントが流れる間にもシニチェクは次の攻撃を開始していた。
ゴーレムがこちらを振り向くのを待ったかのような一瞬の間を置き、すぐにまた同様に目にも止まらぬ斬撃を放っては駆け抜けた。
ゴーレムはまったく反応出来ず、今度は胸部に2つの傷跡だけが残された。
「ねえねえ、はるぴよちゃん! シニチェクさんスゴイじゃん! このまま一方的に倒しちゃうんじゃない!?」
はしゃいで話しかけてきたのは沖田だった。
はるぴよが返事する間にもシニチェクの攻撃は続いた。
「
今度は無数の氷と冷気による魔法がゴーレムを包み込み、完全に動きを止めた。
〈やるやん、イケメン! イケメンのくせに!〉
〈まあ35階まで行ってるパーティーが今さら20階を攻略するのなんて楽勝でしょ?〉
〈新撰組よりつおい?〉
はるぴよ側の視聴者も、目の当たりにするシニチェクの攻撃の鮮やかさに賞賛のコメントを惜しまなかった。
一瞬完全に動きを止めたゴーレムだったが、氷の層が崩れると何事もなかったかのようにシニチェクに向き合った。
「……ま、これくらいでお陀仏じゃあ視聴者さんも見応えがないからな! まだまだ行くぜ!」
再びシニチェクは踏み込んで攻撃を放っていった。
(シニチェク、確かに昔より強いかも……でもじゃあ新撰組の3人より強いかって言うと多分全然そんなことない……)
目の前で繰り広げられる攻防を見ながらはるぴよは冷静に考えていた。
シニチェクはオールラウンダーな剣士といったタイプだ。新撰組の用いる日本刀ではなく直剣に鎧を着込み左手には小楯を構えた西洋風騎士といった出で立ちで、様々な魔法も使えるオールラウンダータイプだ。
戦い方ははるぴよが最初に会った頃と変わっていないが、たしかにどの部分でも成長しているのだと思う。
対する新撰組3人は軽装だし、日本刀以外は恐らく扱えないだろう。魔法なんてもっての他だ。
じゃあ色々な戦い方が出来るシニチェクの方が強いんじゃないかと思う人がいるかもしれないが……対峙してみると恐らく3人とは比較にならないだろうというのが正直な感想だ。
3人ともまだまだ本気を見せていないというのも確かだし、オールラウンドに戦えるのが必ずしも強いわけではない……ということをはるぴよも理解しつつあった。
いや戦い方とかそんなことよりも、もっと何か根本的に生物としての強さの差を感じる、と言った方が正確だろうか。
「くそ、流石にゴーレムはタフだな! まだまだ耐えるのかよ! 20階くらいでも1人で戦うとなかなか良い訓練になるな……」
シニチェクの攻撃は続いていた。
「大丈夫そ? 何ならアタシらも手伝おっか~?」
一瞬弱音を吐きかけたシニチェクに、カメラを向けていた女武闘家ファッサマーユから救援の申し出が入る。
「いやいやいや、まだまだこれからだから! 絶対余計な手出しはするなよ!」
シニチェクもまだまだ余裕そうに笑顔をカメラに向けた。
〈ま、こういう演出なんでしょ?〉
〈視聴者を意識したエンタメ路線の配信だからね、シニチェクんとこは〉
〈まあそうなのかもしれないけど……でもマジで1人で戦うと結構大変なんじゃない? いつもは4人で協力しながら戦ってるわけでしょ?〉
「……ぐっ」
一連の攻撃で流石に息切れしたのか、一瞬油断したシニチェクに向かってゴーレムの左の拳が飛んできた。シニチェクはすんでの所で何とか防御したが、巨大な拳の質量には耐えきれず岩壁に背中を強打した。
「
シニチェクは自らにヒールを掛けたが、よく見ると対峙するゴーレムが序盤の戦闘で受けたはずの腹や胸の傷はいつの間にか消えていた。
「ち、自己修復機能か……ズルいねぇ、まったく! まあ良いぜ、まだまだ遊ぼうぜ!」
一瞬戸惑ったシニチェクだったが、すぐに再び踏み込んで攻撃を放っていった。
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