30話 シニチェクの出番?

 シニチェクパーティーとのコラボは続いていた。

 続く17階層は我らがはるぴよパーティーの番だった。

 シニチェクの言った通り今回は新撰組3人とはるぴよ本人も含めて戦ったのだが、明らかに動きはチグハグだった。

 3人ははるぴよに経験を積ませ、かつ動画的にもはるぴよが目立つようにしてくれようとしていたのかもしれないが、それゆえにどこで誰が敵を倒すのか明確ではなかった。もちろん一番大きな要因は、純粋にはるぴよ自身の戦闘力が足りないことは明白だったが。

 おかげで17階層の攻略は、16階層を1人で攻略したアントンギの倍近い時間がかかってしまった。






「いやぁ、でもはるぴよも結構強くなってんじゃん?」


 モタモタしながらも何とか17階層をクリアすると、シニチェクが言ってきた。

 露骨な上から目線の一言。それすらも恐らく本気では思っておらず、はるぴよ本人に言っているというよりは動画の向こうの視聴者に優しい自分を演出するために言っているのだろう。


「……そんなことないわよ。でもありがとう」


 当然はるぴよも動画に撮られていることが分かっているから、無茶な反応は出来ない。




 続く18階層は再びシニチェクパーティーの攻略。担当したのは回復士のポペスクだ。


「おい、ポペスク~。無理そうだったらすぐに俺たちに応援を頼めよ? 全然恥ずかしいことじゃないからな?」


 攻略が始まる前、シニチェクはからかうようにポペスクに声を掛けた。

 すぐそれにアントンギ、ファッサマーユも同様の言葉をかける。


「も~、皆さんボクのことを舐めすぎですよ! 回復士といえどこのくらいのフロアの敵は楽勝ですから!」


 回復士というのは文字通り仲間を回復させることをメインとしている職業だ。当然敵と直接戦闘することは得意ではないはずだ。仲間の補助をしたり、戦うにしても魔法を用いての攻撃が主になる……はずだった。はるぴよのイメージでは。


 ……全然違った。

 ポペスクは普通に身体能力も高いし魔法なんか全然使わない。右手に持った杖でバンバン群がるザコ敵たちを薙ぎ払っていった。


〈いや、回復士っていうからもっとヒョロい戦い方するのかと思ったらゴリゴリじゃねえかよ!〉

〈何あの杖? 杖って普通は魔法力を増幅させるためのものじゃないの? 鉛でも仕込んであるのかな?〉

〈え、ずっとシニチェク本人にしか興味なかったんだけど、こっちのポペスク君もよく見たら結構イケメンなのでは???〉


 実にあっさりと回復士ポペスクは1人で18階層を攻略したのであった。




「まあな、俺たちは本来35階層まで到達しているからな。流石に1人でもこれくらいの階層は攻略出来なきゃマズイよな?」


 ポペスクの攻略が終わると、シニチェクがまた視聴者を意識してそう言った。

 

(……まあ、そういうものよね……)


 レベルが上がってゆくと色々な能力が上がってゆく。もちろん適正によって伸びやすい能力と伸びにくい能力とに差はあるが、それでも全体的に能力は上がってゆくものだ。

 要は自分たちと彼らとでは根本的なレベルの差があるということだ。はるぴよはそれを如実に感じた。






 続く19階層ははるぴよパーティーの番だった。

 また4人で協力してグダグダと進んでいくのかと思われたが、しびれを切らした斎藤が鬼神のような速さで剣を振るうと一気に敵を全滅させてしまった。


「もう~、斎藤さん! ここはそういう所じゃないでしょ? せっかくのなんですから、仲良く進んでいきましょうよ!」


 沖田がニコニコとたしなめ、土方は特に何も言わずニヤニヤとその様を見つめていた。例によってはるぴよは斎藤の動きに全く付いていけず、いつの間にかすべてが終わっていたという表情で呆然としていた。

 

「……すまんな、沖田君。副長。あまりに悠長な戦いが続いておってな。どうしても自分を抑えておくことが出来なかった」


 斎藤は相変わらずほとんど表情も変えず(実際にはほとんど「すまない」とは思っていないだろう)に頭を下げた。

 悠長な戦いが続いていた……という言葉には当然先の一連のシニチェク側の戦いも含まれているのだろう。それを聞いたシニチェクがこちらに近付いてきた。


「なあ今のはどういう意味……」

「あ、コメントがいっぱい来ています! 皆さんどうもありがとうございます!」


 詰め寄ってきたシニチェクの出鼻をくじくような形ではるぴよは配信者モードに切り替え、コメントを紹介し始めた。


〈お侍さんパワー! ヤバ!〉

〈マジで一瞬じゃん! 正直この人たちの方がシニチェクパーティーよりも強いでしょ?〉

〈ま、シニチェクってのは35階層到達くらいだろ? もちろん駆け出しのパーティーに比べれば強いだろうけど、どっちかって言うと人気先行タイプだよな〉

〈え、ってことはこのお侍さんたちと正味な話どっちが強いのかな?〉


 誘導したわけでは一切ないのだが、視聴者から飛んできたコメントははるぴよの狙い通りのものが多かった。


「え、ちょっと待って? 俺、もしかしてナメられちゃってるの? はるぴよ~、視聴者さんに言ってやってよ!」


 勘弁してくれと、笑いながら応えたシニチェクにはるぴよもフォローを入れる。


「いやぁ、そんなことないですよ、皆さん! シニチェクは一見チャラついているように見えるかもしれませんけど、常にこの配信界隈のことを良くしようと考えている人間ですし、実力も当然ピカイチですからね!」


〈は、どうだか?〉

〈その実力とやらを見てみたいものですねぇ〉

〈ってかピカイチってどういう意味? 昔の言葉?〉


 それでも同様のコメントが続いたところで、いよいよシニチェクも覚悟を決めたようだった。


「……しゃあねえなぁ、そこまで言われちゃあ俺も戦うしかないっしょ! 次の20階層はファッサマーユに任せるつもりだったけど俺が戦闘に出ますよ! 良いかい、みんな! 俺1人が戦うなんて滅多にないんだからしっかりと見といてくれよな!」


 驚くほどはるぴよたちの想定通りに物事は進み、20階ボス戦はシニチェクが担当することになったのであった。



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