29話 腹黒土方の意図は?
一旦配信を切ってシニチェクに向き直ったはるぴよだったが、それはもちろん先ほどの敵を利するような彼の行動に異議を申立てるつもりだった。沖田の規格外の強さの前にあまり意味がなかったとはいえ、何の断りもなく交戦中の敵を強力化させるなど明確な背信行為ではないか!
「あのさシニチェク! 流石にさっきのは……」
「シニチェク殿、一つ提案があるのですがよろしいでしょうかな?」
はるぴよが口を開いたところを横から
「え、何? 何か文句でもあるんスか?」
シニチェクも当然流れとしてはるぴよ側からクレームを入れられることは想定していたのだろう。さも面倒くさそうに、自分こそが上位配信者であるという態度を鮮明にして顔を上げた。
「……恥ずかしながら、こちら側の無知で
(いや、全然そんなコメント来てないけど!?)
猫なで声のような声でクレームを入れた土方の豹変っぷりにも驚かされたが、それ以上に驚かされたのは配信というシステムへの理解の早さである。
3人ともほとんど興味があるように見えなかったので、配信の仕組みやコメントに関しての説明も一切して来なかったのだが……少なくとも土方は……いつの間にかそうした部分もきちんと把握していることが先ほどの言葉で証明されたわけだ。
はるぴよの驚きもよそに土方はさも申し訳なさそうに言葉を連ねた。
「もちろん普通に戦ってはこんな低級の戦場で、皆さま4人の実力を存分に発揮するなどは無理な話でござろう? なのでここはひとつ相談なのですが、皆さま4人の内1人ずつ戦う様を見せられるわけにはいきませんでしょうか? ウチの無知蒙昧な視聴者にも上位配信者の方々の実力を見せつけてやって欲しいのですが……」
本当はすぐに土方の言葉など打ち消してしてしまうつもりだったのだが、シニチェクがどう反応するのかに興味が出てきてしまい、はるぴよはその機を失っていた。
「……そうだよなぁ、せっかくコラボしてるのに俺らが全然戦闘しないのも視聴者さんに悪いよなぁ……」
シニチェクはどうしたものか一瞬悩む様子を見せ如何にももったいぶってそう答えた。
すぐにその空気を察したのか、シニチェクパーティーの他のメンバーからも援護射撃が入る。
「俺らもそろそろヒマで退屈の限界だぜ?」
「なにより視聴者ファーストで行こうじゃありませんか!」
「っていうかアタシらも、レベル差で敵が寄り付かなくなっちゃわなければ最初から戦うつもりだったんだよね? シニチェク!」
「……しゃ~ね~なぁ、俺らも戦うか。じゃあ次の16階から俺らとそっちのはるぴよパーティーとで交代で戦っていくか。なあに、俺らも1人ずつ戦ってくなら流石に多少は動画映えする戦闘になるっしょ?」
シニチェクの決断の言葉にシニチェクパーティーは少しだけどよめいた。
「お、いいねえ!」
「やっとですね!」
「ねえ、アタシたちはタイムアタックにしない? で、負けた人は何か視聴者プレゼントを自腹で購入……っていうのはどう?」
いよいよ自らも戦闘に立つということで、彼らも気合が入ったのだろう。
「おお、それでこそこらぼの意義があるというものでござるな!」
「え?……いいのシニチェク?」
自らの想定通りに物事が進んだ様を見て喜色を浮かべた土方に対し、思わずはるぴよは心配の声を出してしまった。もちろんはるぴよもシニチェクたちに戦ってもらいたかったのだが、土方の言葉に簡単に動かされる様を見てどこか不安を覚えたのだった。
「まあ、俺らが出なきゃ始まらないっしょ? ここからがホントの意味でのコラボってことだな! あ、俺らは言った通り1人ずつ戦っていくけどそっちは4人で戦って良いんだぜ? っていうかここからは敵のレベルも上がってくるだろうから、その方が良いと思うぜ?」
そんなわけでいよいよ次の16階からはシニチェクパーティーの実力が発揮されることになった。
16階を担当したのはシニチェクパーティーの戦士アントンギ。
2メートル近い巨漢を生かし、豪快に斧を振り回すことでバッタバッタと群がるザコ敵を打ち払っていった。16階からはザコ敵の数も一段と多くなり、それを無双状態で葬ってゆくアントンギの戦闘は非常に爽快感があった。
〈キター!!〉
〈これこれ! ダンジョン攻略配信ってのはこうじゃなくっちゃね!〉
やはりシニチェクパーティーの知名度・人気ははるぴよパーティーとは比べ物にならないものがあった。彼らが戦闘に立つと同接の視聴者は一気に増えたし、既存の視聴者も明らかに喜んでいた。
そして傍で見ているはるぴよが感じたのはシニチェクの実況・解説がとても上手いということだ。戦闘に対する理解度や知識量が断然自分を上回っているということを痛感した。
何が今の戦闘でポイントのなったのかをダンジョン攻略に詳しくない素人にも上手く説明出来る……というのはシニチェクの一つの魅力だった。単に戦闘の様子が面白い・強いだけでなく、解説の上手さや分かりやすさというのも配信チャンネルの魅力の一つの要素なのだと、はるぴよは改めて感じた。
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