25話 コラボ開始
「えまそん!……えまそん! 流石に起きてるでしょ? シニチェクのパーティーと私たちコラボすることになったから! 適当に宣伝文句考えて拡散しといてよね!」
「あ、はるぴよ……ふ~ん、シニチェクパーティーとねぇ……了解~。……え、シニチェクってあのシニチェクと!?」
午前9時、ねぼすけのえまそんにとっては早朝とも言える時間帯だったが、はるぴよの言葉に一気に目を覚ましたようである。
「……何よ、以前は一緒に組んでた仲だし、そんなに驚くようなことじゃないでしょ?」
はるぴよの反論にえまそんは全てを理解したかのような顔でうんうんと頷く。
「そうよね。これからはもっと上の配信者を目指すんだもんね! 嫌いだとかそんなこと言ってられないよね!」
「ちょ、えまそん! 声大きいって……」
はるぴよは慌てて周りを見渡し誰かに聞かれていなかったかを確認する。
シニチェクパーティーは彼らで固まって何やら会話しているようで、聞かれた様子はない。
「何だ、やはりお前もアイツのことが嫌いだったのか? そんな相手とも一緒に組まねばならんとは……やれやれ配信者とやらも難儀なものだな。我々のいた時代の京でもそんなことがあったのう……」
シニチェクパーティーには聞かれていなかったが、土方には聞かれていたようだ。
土方が珍しく遠い目をした。
「シーッ! 土方さんシーッ! そんなんじゃないですからね!」
別に土方や斎藤、沖田には自分の意図が明かされていても構わないのだが、流石にコラボ前から相手方に険悪な雰囲気を抱かせるのはマズイ。何とか誤魔化してはるぴよはコラボ配信を開始した。
「やほほ~、改めましてこんにちは! はるぴよです! 今日は何とコラボ配信が決まりました! 今大人気のイケメン勇者シニチェクのパーティーとコラボさせて頂くことに決まりました~!」
オープニングのはるぴよの言葉でシニチェクがさもダルそうに登場する。
「あ、どーも、シニチェクです。普段はコラボ配信とかあんまりしないんですけど、はるぴよとは昔からの知り合いなんでコラボしてみました。みんな楽しんでくれたら嬉しいでーす」
それだけ言うとシニチェクはカメラからは外れてしまった。
まあ言うまでもなくダンジョン攻略配信者の本番はダンジョン攻略の様子にある。その様を視聴者は観たいのであって、本番開始前の配信者同士のじゃれ合いなどどうでも良い……と考えればシニチェクの態度も理解出来なくはない。
だがシニチェクの意図は別にあった。
「え~とですね、本来は私のような弱小配信者がシニチェクみたいな人気配信者とコラボさせてもらえるはずもないんですけど……。シニチェクが今言っていたように昔ちょっと一緒にパーティーを組んでいた時期があってですね……いやほんの一瞬ですよ!? そういった縁があってですね、さっきギルドで偶然ばったり会ったものですから、急遽コラボが決まったというわけなんですよ!」
はるぴよの方が配信者としては圧倒的に格下だ。だからそうした経緯の説明などははるぴよの側がすべきだ……というのがシニチェク側の言い分なのだ。
そしてこれは最近のコラボの習わしでもある。格差のあるコラボの場合、メリットを享受するのはほとんど人気のない側だ。つまり多くを語らずにすぐに攻略の配信に入ったシニチェク側の方が格上であることを示してもいる。
〈おお! 我らがはるぴよさんが初のコラボ! しかもシニチェクって言ったら結構人気の配信者じゃないか?〉
〈シニチェク? 俺コイツ嫌い。モンスターも他の冒険者のこともどっかバカにしてるような感じがしねえ?〉
〈まあな、わかるぜ〉
〈まあまあ、こっちには新撰組の3人がいるんだぜ。向こうも3人の強さを目にしたら舐めた言動は出来なくなるだろ?〉
早速コメントが飛んで来る。今までとは違うコメントの早さに今回のコラボの注目度が表れていると言って良いだろう。
〈は? イケメンは正義なんですけど? モテない男の僻みはキツいんですけどぉ?〉
〈ってか何、このはるぴよとか言う女? フォロワー300人って弱小中の弱小配信者じゃないのよwww〉
〈え、そんな雑魚がなんでウチのシニチェクとコラボ出来るの? つ~か何で呼び捨てなの?〉
〈大方色目でも使ったんでしょ? 実力以外で注目を集めなきゃいけないなんて雑魚配信者も大変ねぇwww〉
〈いるよねぇ、一回ヤッたくらいで自分の男だと勘違いする女!〉
今度は別の角度からコメントが大量に飛んできてはるぴよは慌てた。
これは間違いなくシニチェクのファンのコメントだろう。
「まあまあまあ! せっかくのコラボなんですし。コメント欄でケンカは止めて下さいね~。私のファンの方がシニチェクさんの悪口を言うのは悲しいですし、シニチェクさんも自分のファンが他の配信者のコメントを荒らすことは望んでないと思いますよ?」
こうしたコメントが飛んでくることこそイツメンとは違った視聴者が増えたことの証拠なのだが、ここで対応を間違ってしまうと新たな視聴者は一気に離れてしまう可能性が高い。はるぴよにとってはあまり想定していなかった事態だったが、まあともかくこれで一旦コメント欄は落ち着いた。
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