24話 シニチェク登場

「シニチェク……」


 声をかけてきた金髪のイケメンを見るとはるぴよは眉をひそめた。

 彼は少し前まで一緒にパーティーを組んでいたダンジョン攻略者シニチェクだったからだ。

 ちなみにシニチェクという名前からはヨーロッパのどこかの血筋を連想させるかもしれないが、それは配信者ネームで彼は純粋な日本人だ。金髪もしっかりと3週間に一度は表参道の美容室に通いケアしてもらっている。


「はるぴよ! お前も最近ちょっと人気出てきたみたいじゃん? 俺も一緒に冒険してた身として嬉しいよ、マジで!」


 そう言うとシニチェクはさも自然にはるぴよの肩に手を回して自分の側に引き寄せようとしてきた。


「ははは、ありがとね~。おかげさまでちょっとだけ視聴者さんも増えてきたかなぁ……ってあれ? シニチェクのパーティー、またメンバー変わってない?」


 はるぴよはさも大きな声を出して驚いたフリをして、その隙に自分の肩に添えられたシニチェクの手をそっと外した。


「お、流石はるぴよだな。わかるか? 今一緒に旅をしている3人だ。戦士のアントンギ、武術家のファッサマーユ、回復士のポペスクだ! やっぱり今の自分の立ち位置やレベルに合わせて一緒に旅をするパーティーも替えていかないとな! いつまでも同じパーティーで旅をするのって、愛着もあって一見当然のことみたいに思われてるけどよ、ホントは人それぞれ成長速度も違うし実際は健全なことじゃないんだよな。その時期その時期によって一緒に旅をする人間も替わっていくのが実は冒険者として自然なことだと俺は思うぜ?」


 もっともらしいことを言って、シニチェクははるぴよにキザったらしく微笑んだ。


「そ、そうね。素晴らしい考え方だと思うわ……流石シニチェクね!」


 はるぴよは何とかムリヤリに微笑み返した。

 その返答を聞いてシニチェクはわかりやすく調子に乗り、自分の今のパーティーが如何に素晴らしいものであるか、どれだけ自分が考えぬいてパーティーを運営しているかを、聞かれてもいないのにペラペラと喋り出した。




「そ、そうだ、シニチェク! もし良かったら私とコラボ配信してくれないかしら?」


「え、コラボ!? 俺とお前とでか!?」


「……ダメかな? 昔の仲間のよしみってことで、ね、お願い!」


 シニチェクがペラペラペラペラと、どうでも良い自慢話をしている間にはるぴよ自慢の打算コンピューターはしっかりと稼働していたのだ。

 はるぴよパーティーも最近になって多少人気が出てきたとはいえ、まだまだ登録者1000人に満たない弱小配信者の域を脱してはいない。

 対するシニチェクのチャンネルは登録者数5万人を優に超える。まともに考えればコラボなど出来るような格ではないのだが、実現すれば当然はるぴよにとってメリットが大きい。


 ……いや、もちろんシニチェクの方も打算があるからはるぴよに声をかけてきたのだ。本当に箸にも棒にも掛からない配信者だと判断したならば、いくら過去に因縁があろうとも無視して通り過ぎていただろう。それでもはるぴよのコラボ提案にイチイチ驚き考えるフリをしているのは、この男の見栄とプライドの高さを物語っている。




「ま、しゃーねえな、昔のよしみだ! 良いぜ。両方のチャンネルで動画を回そうぜ。これからのチャンネルをこうやってフックアップしてやるのも、俺たち人気配信者の務めだもんな」


「え、ホント!? 良いの!? ありがとう、シニチェク!!」


 いかにも渋々、あくまでこちらの温情によってコラボをしてやるんだ……という態度をありありとしたシニチェクに対し、はるぴよは目を輝かせて応えた。


 もちろんはるぴよの行動もすべては打算でしかない。

 最近ははるぴよのチャンネルも人気上昇中とはいえシニチェクの登録者数とは雲泥の差がある。だが実際の戦闘力に関しては新撰組3人を抱えているこちらのパーティーが負けるはずがない……というのがはるぴよの自信になっていた。


「で? あっちにいるのが今のお前のパーティーのメンバーなの?」


 シニチェクははるぴよの後ろに控えている3人の新撰組を見て、胡乱うろんな表情で尋ねた。


「ええ、そうよ。新撰組の3人なの」


「……ふ~ん、まあキャラ付けも大事だろうけどな。でも今時侍のコスプレってのはあんまりセンスないと思うぜ? ……ま、良いや、俺がイチイチ口出すことじゃないよな。じゃあ準備出来たら撮影しながら探索していくか。って言っても俺たちにとっては11階層なんか今さらやることないんだけどな。俺たちのレベルだと敵のモンスターも近付いて来れないんだよ。……ま、お前らがヤバそうだったらこっちで手を貸してやるからさ。精々がんばれよ?」


 後ろに控えるシニチェクパーティーの3人も、その言葉に同調するようにニヤニヤとしながらこちらを見ていた。


「……う、うんわかった! ホントありがとうね、シニチェク! 大好きだよ!」




 シニチェクに好きの言葉を安売りすると、はるぴよは自らのパーティーである3人の新撰組の元に戻ってきた。


 仏頂面で本当に無神経で自分のことをまるで女子として見ていないこの3人のことが(沖田はまあ除いてあげても良いかな?)、はるぴよは本気で嫌になりそうな時もあったが、こうして戻って来ると実家のような安心感を改めて覚えた。

 3人がどれだけ無神経で無遠慮でも、あのキザったらしく嫌味っぽい……自分が他人の目にどう映るかしか考えていないナルシストよりは三千倍マシだった。


「……何だアイツは? お前の昔の情夫おとこか?」


「違うわ!! ……私たちの話、ちゃんと聞いてました!?」

 

 土方のゲスな言葉に思わずはるぴよのツッコミも鋭くなる。


「……別に情夫でも何でも良いが、ああいった軟弱な男がこの時代では主流なのか? どうにもああいった類の男を見ていると吐き気がするぜ……」


 斎藤がそっぽを向きながら吐き捨てるように言った。


「あ、や、アイツはちょっと特殊で……現代の男子があんなヤツばかりってわけじゃないんですけどね……。まあともかくアイツは私のチャンネルよりも遥かに多くの視聴者を抱えているからさ、アイツのチャンネルとコラボ出来るってのは私たちにとって結構なチャンスなのよ! ここで皆の強さを見せつければ、向こうのチャンネルからこっちのチャンネルに流れてくる人も見込めるかもしれないしさ……」


「そんなことは俺たちの知ったことではないがな。……俺たちからしてみれば気に食わない連中と共に戦うなど信じ難い暴挙だぞ? 信用ならん連中に背中を預けるなど戦闘者として正気とは思えんが」


 はるぴよの説得にも土方は良い顔をしなかった。

 だがそれをとりなしてくれたのは沖田だった。


「まあまあ土方さん。せっかくこんな場所で戦う機会を得たんですし、こういうわけの分からない状況も面白そうじゃありませんか? どんな連中と行動を一緒にすることになっても我々は我々で油断さえしなければ、自分の身は守れるでしょう? それとも向こうの3人が怖いんですか?」


「馬鹿言うな、総司」


 やや挑発するような沖田の言葉にも、土方はため息まじりに応えた。

 無論本気であっちのパーティーを恐れているわけではないことは言うまでもない。新撰組の3人が自分たちの武力を疑うわけもないだろう。


「まあ、あの……何かホントに不快なことがあればその時はコラボも打ち切りますし……それにシニチェクたちと一緒に行けば強い敵とも早く出会えるかもしれないですし……」


 やや軟化した態度の土方に、はるぴよはここぞとばかりに説得の言葉を繰り出す。


「歳さん、こういうのはどうです?」


 だがそれよりも土方の態度を変えたのは斎藤一の言葉だった。

 何やら耳打ちをすると、土方と斎藤は陰険な笑みを微笑みを浮かべて頷いた。


「……良いぞ、はるぴよ。是非そのとやらをしてやろうではないか」


 いつもは「小娘」としか呼ばない土方がわざわざ名前を呼んできたことに、はるぴよは何だかとても嫌な予感がした。



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