23話 配信者は色々と気を遣うのですよ……

「はい~……というわけで、改めましておはようございます! はるぴよです! 実は私も新撰組3人と会うのは一週間ぶりなのでちょっと緊張してしまいます。こう見えて私って人見知りなんですよねぇ~」


 完全に配信者モードのはるぴよは、笑顔を作り3人との再会シーンを視聴者に届けようとするところだった。

 ちょうど1週間ぶり……前の日曜日にダンジョンに入って、今日は次の土曜日だから正確には6日しか経っていないのだが、はるぴよ本人としては1ヶ月くらい空いたような感覚だった。


「あ、いました!! 土方さ~ん、沖田さ~ん、斎藤さ~ん!!!」


 およそ20メートルほど先に見知った3人のシルエットを発見し、はるぴよは手を振った。

 今時決して見かけない和装とちょんまげ、そして手に持った日本刀。他の人間たちとは見間違うはずもなかった。


「……遅いぞ、小娘。あと四半刻遅かったら総司の首が飛んでいたところだぞ?」


 土方ははるぴよの方を向きもせずに、ボソリと言った。

 別にはるぴよに応えて手を振って笑顔で再会を喜んでくれる……と考えていたわけではないが、流石にこの冷たい態度にははるぴよも傷付いた……などと言っている暇はなかった。

 近寄って見ると土方の着物は無数に切れており、手足・胴体に打ち身、切り傷、出血……ありとあらゆる外傷が確認された。


「いえいえ、残念ながら私の首ではなく土方さんの首ですけどね!」


 土方の言葉に勝気に反論した沖田の姿も同様だ。

 斎藤は例によって何の言葉も発せず、はるぴよに対して何の反応も示さず、煙管でタバコをふかし始めた。


「もう!! 何やってたんですかぁ!!……って言うまでもなく、今週もお互いに斬り合って訓練してたんですよね! はいはい見れば分かりますよ!」


「お、流石に理解が早いな。では早速だが例の回復の奇術を頼む」


 一瞬にして、1週間膨らませていた彼らへの期待感みたいなものが幻想だったことに気付かされる。

 ……先週も思ったけどさ、訓練とは言え仲間同士で真剣で斬り合えるなんて異常だよね? 先週よりもかなり重傷っていうか、本当にもう少しで死んじゃいそう……。


「……回復魔法ヒール


 色々と言いたくなるのを我慢して、とりあえずはるぴよは彼らの回復をする。


「ふむ、やはり五体満足というものは良いな」

「ですねぇ、健康第一ですよ」

「ふ。煙草も美味いわ」


 3人は肩を回したり足を踏みしめたりして回復を確かめる。

 実に無邪気に回復した身体を嬉しがっている様子に、はるぴよも流石にムカついた。


「……あのね、3人さん? マジで1週間の冒険の初めを、瀕死の仲間の回復から始めさせられる私の気持ちも少しは考えてくれません? しかも味方同士で斬り合った末の傷なんて……。激萎えですよ、ホントに。あとさ、これでいきなり私はMP消費してるんですからね、実質的なロスも負ってるってことを忘れないで下さいね!」

「そうか、悪かったな」


 こんこんと説くはるぴよを見て面倒くさいと判断したのか、土方は一応謝ったがそれは実に軽いもので、それがまたはるぴよを余計に苛立たせた。


「……あと、先週ギルドのお姉さんに注意されたじゃないですか?『ギルドの近くで斬り合いをしてると他の冒険者さんたちが怖くて近寄れない』ってクレーム入っているって言いましたよね? 覚えてないんですか? 皆さんは3歩歩くと忘れてしまうニワトリの頭なんですか? 昔の日本人はそんな程度の頭脳でもやってこれたんですか?」


「は? 何を言っている? この前とは違う場所だぞ? お前こそ覚えていないのか?」


「……いや、そりゃあ先週と少しは場所がズレているかもしれないですけど、そういう問題じゃないことは……」


 売り言葉に買い言葉ではるぴよの舌鋒が鋭くなっていってしまう所で、コメントが飛んできた。


〈ねえ、マジで何なのこの女?〉

〈ホント、いい加減にしなさいよね。私たちはアンタじゃなくて新撰組様たちを見に来てるんですけど〉


「はるぴよぉ~、今日は新規の女性視聴者さんたちも沢山見に来てるよぉ……」


 いつの間にか回線に入っていた親友えまそんの言葉に、はるぴよはハッとなる。

 いけない、いけない!

 新規の視聴者から見たらパーティー内の人間同士が言い争っているなんて見たくないよね? それも推しの人間が怒られているのなんて余計にね。

 何とか配信者モードを取り戻したはるぴよは、女性視聴者に向けたサービスを提供することにした。


「……はい~、というわけでですね、改めまして1人ずつ紹介させていただきましょうかね! 土方さんで~す!」


 カメラを向けアップにした土方をしばらく画面に映す。もちろん土方はそれに対して視聴者に向けて愛想を振りまいたりはしない。


「……沖田さんで~す!」

「あ、どうも。沖田総司です」


 沖田は土方とは違いカメラに向かってニコリと微笑んだ。彼らもカメラを通しての配信や、回線による通話といった現代のテクノロジーをいつの間にか理解しているようだ。


「はい、斎藤さんで~す!」


 ……もちろん、斎藤は沖田と違い無言を貫く。というか煙管を咥えたまま視線も向けない。


〈え、ヤバ! 3人とも全然アップに耐えられる顔面なんだけど!〉

〈沖田きゅんの笑顔がまぶしい~〉

〈でも純粋な顔面偏差値だけで言えば、やっぱり土方さんじゃない?〉


 ……まあ、何はともあれ3人の紹介をしたことは女性視聴者たちに好評だったようで、はるぴよは一安心した。


「はい~、というわけで今週もこの最強の新撰組3人と冒険していきます。ぜひライブ配信で最後までお付き合い下さいね!」




「おはようございます! はるぴよです、よろしくお願いします」


 ギルドの受付で『ダンジョン攻略者免状』を提示すると、いつもの受付のお姉さんがニコリと微笑んでくれた。


「あら、はるぴよさん。おはようございます。今日も精が出ますね! 前回の10階層攻略でレベルもかなり上がりましたし、最近は配信者としても人気出てきたみたいで私も嬉しいですよ!」


「あ、あ、あ、……どうも、ありがとうございます!」


 方々に気を回し続けていたはるぴよはギルドのお姉さんの不意の優しい言葉に泣きそうになる。

 

 だがその時不意に背後から声がした。


「おー、おー、いつの間にか人気者になったみたいだな。はるぴよ!」


 振り向くとそこには金髪のイケメンがニヤニヤと突っ立っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る