22話 急にアクセスが増えた?

 今週になって、配信のない週中もアクセスが一気に増えたのには実はあるきっかけがあった。


「はるぴよ~、何かたまたま覗いた掲示板の中ではるぴよの配信のことが話題になってたよぉ~」


 水曜日の夜のことだった。えまそんからのメッセージにあったURLをクリックしてみるとそこはマイナーな掲示板だった。

 ネットジャンキーに近いはるぴよは、自分に関連のありそうなダンジョン攻略配信者に関する掲示板は逐一チェックしていたが、えまそんが送ってきたのはそうした板ではなく、主婦層を中心とした板だった。まあ、その……有り体に言えば大人の女性向けの板で、旦那のグチや女性ならではの結構ゲスい話題が上ることも多い雑多な掲示板だ。

 ダンジョン攻略配信はやはり男性視聴者が多く、こういった女性たちが興味を示す可能性は低いように思えたので、自分に何の関わりがあるのか不思議に思いながらも親友の送ってきたURLをはるぴよは開いてみた。




『いにしえの新撰組が今も生きていた!? クールな彼らの熱い瞳の奥から目が離せない!!』


 ……何だかよく意味の分からないタイトルが付けられ、はるぴよの動画内の3人の活躍が戦闘シーン中心に切り抜かれていたのだった。いや、戦闘シーンだけでなく、はるぴよが戦っている際にも引きで映っている3人が妙にズームで捉えられている映像もあった。……意図はよく分からなかったが……。


〈なんか、色気あるかも……〉

〈そうね。最初はちょんまげ姿に違和感しかなかったけど、見慣れてくると凛々しさの方に目がいくようになるわね!〉

〈わかる! 軟弱な現代人とは違った野性的なカッコよさがあるわよね?〉




(……は? 下らない! これだから女子ってのは!)


 要は彼ら3人の新撰組たちが戦う姿がいかにカッコ良いか……で延々と盛り上がっているのだ。

 実に下らない! とはるぴよは一瞬思ったが、まあそう言われると彼女たちの言い分も少しは理解出来るような気もした。

 はるぴよ自身はずっと一緒に行動しているから彼らの顔を見ても何とも思わないが(そもそも戦闘中も配信中も彼らの顔をまじまじと見つめる余裕など無いという方が正確だが)、たしかに最初ダンジョンで会った時も、彼らが何の印象も持てない平凡なおじさんたちだったら、計算高いはるぴよは彼らを助けただろうか……というとその可能性は薄そうだった。


「スゴ! こんな全然関係ないようなところで取り上げられてるなんて。それで今日になってアクセス増えてたんだ。……でも誰がこんなところに投下したんだろ?」


 はるぴよが率直な感想を返すと、学生時代からの親友で現在は華麗なる有閑マダムであるえまそんは実にあっさりと白状した。


「……えへへ、あのね、実は私が貼り付けた!」


「は? 何でそんなことしたの?」


「ダメ? はるぴよの配信が少しでも人気になって欲しいと思ったんだけど……」


「いや、ダメなわけないけどさ……実際今日になってアクセスは急に増えてるし、良いことなんだけどさ……」


 実際アクセス数は急激に伸びているし喜ぶべき事態でしかない。

 ……だが、その、上手く合理的な説明は出来ないのだけど、何となくこういった種類の人たちに見つかるのはあまり良い事態を招かないのではないか……とはるぴよは直感的に感じていた。


〈え、皆さんは誰推しですか? 私は沖田君! あの少年のような瞳で見つめられたらたまらないかも! それなのに戦ったら超強いっていうギャップも最高よね!〉

〈私は断然土方さんかな? あの俺様キャラが良いわよね! ってか純粋にルックス的にも一番じゃない?〉

〈わかる! 土方さんはちょっと髪型を今風にしたら普通に俳優とかになれるよね!〉

〈あの感じで2人っきりになった途端甘い感じ出してきたらどうする?〉

〈ちょっと、ヤバいって!〉

〈ねえ、斎藤さんは全然人気ないの? 私は斎藤さん推しなんだけど。誰か同担いません?〉

〈私も斎藤さん推しです! あの冷たい瞳が堪らないですよね!〉

〈ねえねえ、皆さん彼らに迫られたらという妄想に花を咲かせているみたいですけど、大事なことを見落としていませんか? 彼らは新撰組ですよ?〉

〈え、何? そんなの知ってるけど?〉

〈彼らは『衆道しゅうどう』が普通にあった時代の人たちですよ?〉

〈衆道? って何よ?〉

〈ふふ、知らないんですか? 衆道とはBLのことですわよ!〉

〈は?〉〈え?〉〈ガチのBL?〉

〈ガチです! そして実際に隊士たち同士の痴情のもつれによって斬り合いにまで発展した事件もあったのですわよ!〉

〈な、ガチ中のガチ!〉〈あかん、想像したら鼻血が……〉

〈異世界にやってきても決して離れ離れにならない彼ら3人の絆……そこには何らかの理由があると考えるのが自然なのでは?〉

〈は? あの3人同士がそういう関係ってこと?〉

〈ヤバ! エッチ過ぎるでしょ!〉〈アカン、想像したらワイはもう……〉




 ……そんな感じで掲示板は延々と続いていった。

 もちろんBL方面の話だけでなく、現在の動画内の彼らの活躍を見守ろう……という真っ当な話も出てはいたが。


「……ね、えまそん? 一応聞いとくけどさ、衆道っていう言葉を出してBL好き女子を煽ったのが、えまそんだったってオチは無いよね?」


「ちょ、ちょっと! やめてよね! 別に私はそういう趣味はないから! ちゃんと結婚もしてるし!」


(……はは~ん、こっちもコイツが投下したな?)


 えまそんの反応と的外れな言い訳を聞いてはるぴよは確信した。

 そもそも今時新撰組に関する知識を持っている女子は多くないと思う。衆道なんて単語を知っているのは元々オタクだったえまそんくらいのものだろう。

 彼女はとにかく自分の見つけた新撰組というものを誰かと共有して盛り上がりたかったのだろう。まあ動機は何であれ自分にとってはアクセスが増えているのだからオールオッケー! そう考えたはるぴよはえまそんをそれ以上追求しなかった。




「やほほ~、改めまして皆さんおはようございます! え~、今日はですねまだ新撰組のお3人方と合流していません。はるぴよ1人でございます。というわけで今日は彼らと合流するところから配信を開始したいと思います。まあゆっくりと朝食でも食べながらですね、朝の一時をはるぴよたちと一緒に過ごしていただければ幸いでございます」


 実は配信を見に来ている視聴者の客層というものは、配信する側にかなり詳細にデータとして送られている。住んでいる地域・性別・年齢・このチャンネル何回目の視聴か……などがすぐに調べられるのだ。

 目に見えるコメントを送ってくるのはいつもの常連のおじさんたちばかりだったが、同接の視聴者にはかなりの新規女性視聴者が含まれているのがはるぴよには分かっていたのだ。

 はるぴよがダンジョン攻略に入る前からカメラを回し始めたのは、新規のそうした女性視聴者に向けてのサービスを狙ってのことだった。



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