20話 私たち、もしかしてバズっちゃうんじゃないですか!?

 生配信の中でサーペントを倒したことで、同接の視聴者からはコメントが殺到した。


〈え、やるやんこの娘! サーペント1人で倒すって中々じゃね?〉

〈中級冒険者でもサーペントを1人では相手しないよね?〉

〈まあ、つっても3人の猛者が後ろに控えてたからな。実質何もしなかったけど完全に1人で戦ったのとは違うだろ?〉

〈それよりも大事なことがある。『この娘』と呼ばれるほどはるぴよは若くない〉

〈は? そうなの?〉

〈ああ、恐らくはアラサーだ。キャラもルックスも頑張って若作りしてはいるが、よく見るとお肌が年齢を物語っている〉

〈マジかよ。ダサ!〉

〈バカか、その若作りの頑張りを含めて愛すのが俺たち配信者オタクの使命だろうがよぉ!〉

〈出たよ、はるぴよガチ勢! 〉




 まあそんなコメントを見る間もなくはるぴよは達成感を感じていた。

 ついこの前までスライムやらゴブリンなどのザコ敵にも四苦八苦していた自分が、10階層のフロアマスターであるサーペントを1人で倒したのである。傍らに倒れているサーペントの巨体を改めて見ると、震えるような感情が湧き上がってくる。

 戦闘中土方にアドバイスはしてもらったし、万が一本当に危ない場面が訪れたら3人は助けてくれるだろう……という安心感が思い切った戦闘を可能にしたのは間違いない。それでも3人は一切手を出していないのだ。


(もしかして、私って才能めっちゃあったんじゃないの?)


 戦闘直後の高揚感もあろうが、はるぴよは実にわかりやすく調子に乗っていた。

 このまま3人とパーティーを組んで冒険を続けていけば、自分もめちゃくちゃ強くなってゆくんじゃないだろうか? というか自分自身の戦闘者としての才能などはとりあえず置いといて、そもそも3人はまだ実力の一端をほんの少し見せたに過ぎない。この人たちが本気を出したら一体どれほど強いのか、共に冒険している自分でも想像が及ばないほどなのだ。


(ってことは、バズるに決まってるよね!)

 

 はるぴよは浮かれながらも自分たちのパーティーを分析していた。

 そもそも一見しただけでこのパーティーは目を引く。3人のお侍さん風の和装に身を包んだ剣士と可愛い女子配信者の組合せは恐らく他に例がない。3人の武士たちは強さの底が見えないし、メインの女子配信者はルックスも良く(?)健気な頑張り屋さんで応援したくなるキャラクターをしている。

 もちろん実績としてはまだ10階層を突破しただけのありふれたものだけれど、異色のパーティーの活躍する様を追いたくなる視聴者は多いのではないだろうか? いや、そうに決まっている!


 はるぴよは今後の配信者ライフがバラ色に開けてゆくような感覚を抱いていた。




「おい小娘。勝利の余韻に浸るのはそれくらいにしておけ。たしかにお前の成長も機転も見事ではあったが、実力以上の勝利だったことを忘れるな」


 浮かれていたところ土方の水を浴びせるような冷徹な言葉を受けて、はるぴよは一瞬で我に返った。


「はい~、皆さんいかがだったでしょうか? はるぴよやりました! まさか1人でサーペントを倒せるとは思ってもみませんでした。……しかし、我が師匠土方歳三どのはそんな勝利の直後にも関わらず厳しいお言葉です! 流石は鬼の副長といったところでしょうか!?」


 元々新撰組などというものに興味がなく一切知識のなかったはるぴよだったが、流石に一緒にパーティーを組んでいる相手のことを全く知らないのも不自然だと思い、彼らのことは少し調べて知識を得ていた。……あとは新撰組オタクの親友えまそんが、一方的に資料と称したマンガやら小説やらを送りつけてくるので、半ば仕方なく知るハメになったというのもある……。

 ともかく今は以前よりも3人のキャラクターや背景について理解が少しは深まっていた。


 その上で、土方のダメ出しも斎藤の無関心さも沖田の無邪気さもすべてを配信してエンタメとして提供したかった。そうした方が視聴者も面白いだろうし、自分自身も配信のネタを視聴者に提供している……と思えば土方の容赦ないダメ出しにも耐えられそうだった。

 配信者としての自覚が一段高まったと言えるだろう。


「……おい、俺がいつお前の師匠になった? 自惚れるな、小娘」


 はるぴよの変化に戸惑ったのか、土方は多少困惑した色を浮かべた。


「またまたぁ~、土方さんも嬉しいくせに!」


 ちょうど良く沖田が悪戯っぽい表情で土方をからかう。


「そうそう、こんな可愛い女の子の弟子を持ったことないでしょ? 新撰組って男の人ばっかりだったんですよね?」


 沖田の言葉にはるぴよも全力で乗っかる。

 だが鬼の副長は、そんな空気を読んだりはしない。淡々とはるぴよに対するダメ出しを続けた。


「は? お前のような弟子など願下げだが? そんなことよりもお前のあの戦い方は危険が大き過ぎるという話をしておるのだ。工夫自体は悪くないがな…………そもそものお前の選択肢が…………だがそれよりも大事なことは一つの武器を究めることに……………………」


〈何だよ、照れた土方氏が見れるかと思ってたのに……〉

〈何だ? 今度は土方ガチ勢の登場かよ〉

〈まあ土方さんはどう見てもモテる色男だからな。女慣れもしてるだろ?〉

〈そう言えば京都の有名な遊郭の女性と付き合ってたんでしょ?〉

〈ああ。色々な花街の女性からラブレターを送られまくってたらしい。当時の京の花街つったら日本一の歓楽街だからな。歌舞伎町の超高級キャバ嬢からモテまくるみたいなもんだろ〉

〈スゲー、一度で良いからそんな人生歩みたかったわ!〉

〈ま、それは土方歳三さんの話な? 配信に映ってる自称新撰組たちがホントにタイムリープしてきた新撰組なわけないだろ?〉

〈もう良いって……イチイチ興を殺ぐヤツだな。お前はこの配信をわざわざ観に来るな! コメントを残すな!〉


 コメント欄はそれなりに盛り上がっており、土方のはるぴよに対する戦術的なダメ出しも未だ続いていた。はるぴよはダメ出しを受けながらもこの配信の手応えを感じており、浮かれ気分の話半分で土方の話を受け流していた。


 だがその時、今まで一言も発さずモクモクと煙草をふかしていた斎藤一が初めて口を開いた。


「なあ歳さんよぉ……小娘のおままごとに付き合うのも悪くはないけどよ、こんなことしてて俺たちは近藤さんの所に辿り着けるんかぇ?」


 虚を突かれたように土方も一瞬言葉を詰まらせる。


「……そうだな。いや、俺とて元の世界に戻り幕府を再興するという目的を忘れたわけではなかったが……」


 土方のそんな表情を見るのは初めてだった。


「……はい~、ということで今日の配信はこれで終わりにしたいと思います! ご視聴ありがとうございました! 次回のライブ配信を見逃さないように是非ともチャンネル登録をしておいて下さい! 過去の配信もアーカイブ試聴できますのでぜひご覧ください! それとこの作品のレビューの欄から是非とも★を3つ投げて下さいね! 作者はとても喜ぶそうなので! 知らんけど! ……はい、では次回の配信でまたお会いしましょう、やほほー!!」


 しんみりしかけた空気をムリヤリ吹き飛ばし、配信を終わらせたはるぴよであった。



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