17話 10階層へ!
翌日の日曜日、はるぴよと新撰組3人は再びダンジョンに向かった。
昨日入手した
「すご~い! その腕輪便利だね!」
沖田は無邪気な子供のような声を上げた。
「まったく、こんなものに頼っておるから軟弱化するのだ」
土方が苦虫を嚙み潰したような表情で呟いたのに対し、斎藤は特に何の感慨もなく煙草をふかしていた。
はるぴよは6階層より下のフロアに足を踏み入れるのは初めてだったので、緊張しながらの足取りだったが、さして強力なモンスターは出て来なかった。
ここでも訓練のため戦闘ははるぴよがほとんど行い、3人は基本的に手を出さなかった。
相変わらずのゴブリンやガルム、それにミノタウロスも通常のモンスターとして遭遇した。目新しいモンスターとしてはオオコウモリの群れやスケルトンなどだろうか。白骨の骸骨モンスター、スケルトンが動いて向かってきた時には流石にビビって声を上げたはるぴよだったが、土方の声ですぐに落ち着きを取り戻した。
よく見ればその動きはさして素早いものでもなく移動速度で言えばはるぴよの方が上だった。だがナイフを用いての接近戦は気持ち悪いので、はるぴよは距離を取って『投石』による攻撃に切り替えた。命中率は高くなく、何度も逃げてはダンジョンの石を拾い、投げては外してまた逃げて……という繰り返しだったが、やがてはスケルトンの群れを全滅させた。
「小娘、やるではないか!」
はるぴよは自分でもみっともない戦い方だと思ったが、土方からは上機嫌でお褒めの言葉を頂戴した。
〈投石によるヒット&アウェイww〉
〈この土方って人は剣の使い手なんでしょ?〉
〈そりゃ新撰組ならそうだろ〉
〈なら普通「投石なんていう卑怯な手を使わず堂々と剣で勝負しろ!」とか言うんじゃないの?〉
〈まあ、別に勝てば何でも良いっていう方の武士道なんじゃないの?〉
〈何だそれwwwそんなのアリかよ?〉
〈まあ、武士なんて元々は戦う人間だからな。そっちの方が正式っちゃあ正式なんじゃねえの? 『武士とは主君に忠実で、敵とは正々堂々と戦い、名誉のためなら切腹切腹!』……なんていう俺らがイメージする武士道は、江戸時代中期の暇で暇で仕方なかった時代に作られた暇つぶしでしょ?〉
〈あ~、マナー講師みたいなもんか……〉
〈そうそう。謎のマナーとか振る舞いを編み出して、それを自らの権威付けに用いるクソみたいなやつらが始めた商売の道具でしょ?〉
〈痛烈ww訴えられるぞww〉
〈まあ要は勝てば何でも良いってのも一つの武士道ってこと。土方さんはそっちの流儀の人なんでしょ〉
そしていよいよ10階層にまで到達した。ここには例によってフロアマスターがいるはずだった。
「あの……流石にヤバそうだったら、助けて下さいね」
はるぴよが例によって心配そうな顔で3人を振り返り声をかける。
「もちろん! 安心して大丈夫だから! はるぴよちゃんが死にかけた時はしっかり助けるよ!」
いの一番に反応した沖田の言葉にはるぴよは頭を抱える。
「……死にかける前に助けて下さいね。っていうか皆さん急にどうしたんですか? ダンジョン入ってすぐの頃は争うように戦っていたじゃないですか? それを急に私1人に任せるようになって……」
「あまりに歯応えがないのでなぁ」
無感情に言い捨てた斎藤の言葉に土方もつまらなそうに頷く。
最初の頃は人外の敵の強さが如何ほどばかりかと興味津々だった彼らも、これまでの経験を経てまるで手応えのないモンスター相手に剣を振るう気にはなれないのだろう。
……にしたってさ、同じパーティーなんだからもう少し助け合うとかしてくれても良いじゃん。この人たちパーティーの意味分かってる? いや、そう言えば私もパーティーの意味をこの人たちにちゃんと説明したことなかったな。っていうか私自身もちゃんとしたパーティー組むの初めてだしな……と内心でグチグチ言うはるぴよであった。
「……良いから行けよ。お前が勝てそうもないようなヤツらが出てきた時には俺らが相手してやるよ」
相変わらずの冷たい物言いだったが、はるぴよも付き合いが長くなり少しずつ彼らのことが理解出来るようになってきた。土方も無感情なわけでも自分に無関心なわけでもないのだ……多分。
「やほほー! 改めまして生配信をご覧の皆さん、はるぴよです! え~、こうして新撰組の3人の力をお借りして……まあ途中からあまり力をお借りしているという実感もなくなってはきたんですけど……何とか10階層まで辿り着くことが出来ました。ほんの2、3週間前までは3階層あたりをウロウロしていた私からすれば、完全に未知の世界で、怖くもあるんですが楽しくもあります。これからも是非ともはるぴよと新撰組の3人の活動を見守っていて下さいね~。……え~、ではいよいよ10階層に下りていきたいと思います……」
今一度同接の視聴者に向けて挨拶をして、いよいよ10階層へと続く階段をそろりそろりと下りてゆくはるぴよであった。
それに続く3人の新撰組は実にリラックスしていた。沖田は土方の背中を突っついてちょっかいを出し、土方はそれを面倒臭そうに振り払い、斎藤は相変わらずの咥え煙草の歩き煙草であった。
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